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128組の勇者達  作者: AAA
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少年から始まり笑顔で終われ

 人垣を割った少年は、滑る様な足取りで俺達の方へやってくる。若干切れ長な目は俺とリシェルを油断なく見据え、こちらの胸の内まで切り開こうかと言う鋭さを感じる。

 少年は戸惑ったまま槍を構える衛兵の隣で立ち止まった。


「この騒ぎは何でござるか?」


 俺達から視線を離さないまま少年は隣に立つ衛兵に問う。


「じ、実は彼らが……」


 問われた衛兵は、少年の耳元で口を寄せた。周囲の騒めきがうるさくて何を言っているか分からないが、どうせ、ろくな事は言われていないだろう。


「まずいわね」


 リシェルが眉間に皺を寄せて呻く。


「まずいって何がだ?」


「あの変な服着た奴、強いわ。これじゃ、いざと言う時、カールを盾にしないと逃げられない」


「おい、誰を盾にするって?」


「冗談よ。冗談。いくら前線が近くて、ここからなら、わたし一人でも国に帰れるとは言え、今まで旅してきた仲間を見捨てるわけないじゃない」


 本気でそう思ってんなら、額に滲んだ汗は何なんでしょうかねぇ?

 リシェルは俺の視線から逃れる様に顔を逸らすと、わざとらしく咳をする。


「コホン、真面目な話。衛兵達に紋章持ちの集団、その上、あの変な服までいるんじゃ、逃げるのは難しいわね」


「そんなに強いのか? KIMONOを着た少年」


「KIMONO……ああ、東の国の民族衣装にそんな名前があったわね。ふ~ん、あれがKIMONOか」


 リシェルが不躾な視線を少年に浴びせる。

 おい、それはまずいだろ。相手が悪い印象を持ったらどうするんだ。


「それで、本当に強いのか?」


 俺が慌ててリシェルの袖を引っ張る。KIMONOの観察を邪魔したせいかリシェルは唇を尖らせた。


「まぁ、わたしやコーズ、それに一応ヒルデルカよりは落ちると思うけど、かなりの腕前よ。

 歩いてる間、重心が気持ち悪い位動いてなかった。かなりの修練を積んでるね」


 げ、つまり、歴戦の古強者レベルの強さはあるって事だな。

 最強の勇者 コーズや、戦上手な勇者 ヒルデルカ。そして魔族のリシェル。

 はっきり言って、こいつらが比較対象に上がる時点で、かなり可笑しい。商人で言えば、王宮御用達の大商人の財を引き合いに出している様なものだ。いや、下手したら王宮や大貴族の財位になるのかもしれない。

 それだけ、あの少年の実力はすさまじいんだろう。

 見た所、右手の甲に紋章らしきものは見えないから、紋章持ちではない。となると、純粋に技術が凄いんだな。

 まだ、十代前半だろうに、どれだけ修練を積んだんだ。

 俺は驚きと尊敬を持って少年を見る。

 俺の視線に気づいたのか、少年がこちらに向かって歩き出した。


「その場から動かないで。守れなくなる」


 リシェルの険しい声が聞こえた。俺は小さく頷く。

 適材適所。リシェルが警戒するような相手なら、いくら俺が魔族の力を手に入れても勝ち目はない。おとなしく守られよう。

 魔族の力を手に入れて俺は強くなった。少なくとも走力や力比べなら、鍛え上げた紋章持ちより若干強いレベルにいると思う。だが、剣術や格闘術、魔法や力の使い方は素人に毛が生えた程度だ。

 今の俺を評するなら、猫がいきなり虎になったようなものだ。どれだけ体がデカくなり、力が強くなっても、獣は獣だ。知恵と術理を持つ人間なら簡単に倒せるだろう。


「その方らに聞きたいことがあるでござる」


 少年は手を伸ばせば互いの胸を触れる距離で立ち止まった。

 俺の隣では、リシェルが剣の柄に左手を添えて、いつでも切りかかれるぞ、と重圧をかけている。

 それにも関わらず、少年からは怯えや緊張は見られない。両手をだらんと下げて、腰は高く、無防備にしか見えなかった。


「主ら、ポンタ殿と知己である、と申した様だが、その証をここでたてる事は可能でござるか?」


 変な訛りといい、妙に大業な話し方だな。こっちの言葉に慣れてないのか? それなら、東国あずまのくに風の作法を取った方が、受けはいいな。

 確か向うは、頭を下げるのが礼儀だったはずだ。あー、後は握手とかはしないんだったけな。うろ覚えで確証はない。KIMONOを見せびらかした好事家から聞いただけだから、仕方ないな。

 まぁ、やらないよりはやった方がいいか。


「はい、こちらに」


 俺は腰を少し曲げて頭を下げると、懐から手紙を取り出す。


「勇者 ポンタから私宛に届いた手紙になります」


「ふむ、失礼するでござる」


 少年は俺が差し出した手紙を広げ、破顔一笑する。


「うむ、このミミズが毒薬を服してのたうち回っている様な字は、まさしくポンタ殿のもの。お前たち、警戒を解くでござるよ。このお二方はポンタ殿のご客人でござる」


 少年が命令すると、衛兵たちは戸惑ったように互いの顔色を伺った。

 妙だな? ここはすぐに槍を納める場面だろう。

 目の前にいる少年がどのような地位に居るのか不明だが、今までの態度を見る限り、衛兵よりは上だろう。衛兵がいきなりやって来た少年を止めない事からも、明らかだ。その上の人間が命令したんだ、普通は素直に従う。

 リシェルが顔を寄せてきた。


「なんか、妙な空気ね」


「ああ、だけど早まった事はするなよ。少なくとも、目の前の少年には誤解が解けているんだ」


「分かってるわ。この後の展開としては、少年に連れていかれるか、衛兵に連れていかれるか。希望は少年ね。衛兵じゃ、どこで暴発するか分かったものじゃないわ」


「だな」


 こいつらがポンタの名前を出した俺達を簡単には解放しないだろう。いくら手紙があっても、それだけじゃ信用しきれないはずだ。俺なら少なくとも事情を聞いて矛盾がないかどうか調べる。相手もそうするだろう。

 そうこう話しているうちに、衛兵達と少年の間で話がついたのだろう。衛兵は槍を納め、少年が俺達に笑顔を向けてきた。


「いや、ポンタ殿の客人にとんだ粗相をしてしまったでござる。申し訳ない」


 少年は腰を深々と直角に曲げ、頭を下げる。

 急所の一つ首筋を惜しみなくさす少年の謝罪に、俺とリシェルは目を丸くする。

 おお、これが本場の技か。

 これは俺達の言い分を全面に信じたと思っていいだろう。

 知らない相手、それも怪しい奴らに対して、急所をさらす。それは自分の謝罪が気に入らなければ、この首を持っていけと言う意思表示に他ならない。

 まさしく命がけの謝罪に、俺は文句をいう事が出来なかった。


「やっちゃった事は仕様がないけどー、埋め合わせはー? わーたーしー、散々待たされてお腹すいちゃったなー」


 そして、こういう時、文句を言うのはもちろん、リシェルさんです。

 白々しく食事を要求するリシェル。

 命を懸けた謝罪に対して、なんて酷い言い草だ。お前、それ。少年の命より食事の方が価値があるって、言ってるようなもんだぞ。

 これは怒るか、と俺の頭から血の気が失せる。

 ゆっくりと体を起こした少年の顔は、笑っていた。


「ハハハハハ、それ位ならお安い御用でござるよ」


 ふぅ、どうやら怒っていないようだ。それとも、あの笑顔の下で、俺達を牢屋に入れる算段でも立てているのかもしれない。

 牢屋に入れてから、パン一欠片と水を置いて、約束のめしでござる、と言い出さないよな。


「やった。やっぱり言う事は言うもんね」


 戦々恐々としている俺の隣で、リシェルが手を叩いて喜ぶ。

 ああ、いいなぁ。牢屋に入っても自力で逃げ出す力と当てのある奴は。

 よし牢屋に入れられなかったら、説教コースだ。覚悟しろよ。


「そう喜んでもらえると、こちらも嬉しいでござる、が」


 少年の顔が能面に変わった。


「その前に、いくつか伺いたい事があるでござる。宜しいな」


 少年はドスを効かせた声で強制してきた。

 ああ、やっぱり。そんな簡単に信じてもらえないですよねー。

 俺は乾いた笑みを浮かべながら、力なく頷いた。

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