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128組の勇者達  作者: AAA
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ヒルデルカとリシェルとコーズ

 グリンと鎧の魔族が剣を構え迎撃体勢に入るが、それを男が止める。


「下がりなさい。一人で戦います」


 揉めてくれるかと思ったが、意外と素直にグリンと鎧の魔族は剣を収めた。

 チッ、ここで下手に揉めてくれれば、隙になったんだけどな。

 既にヒルデルカが、男まで一足飛びに近づける距離にいる。

 魔族達が一言二言でも問答をしていれば、ヒルデルカの拳が、風穴を開けていただろう。


「一番手、貰うよ」


 姿勢を低くしたヒルデルカが膝に溜まった力を吐き出し、男に向って飛び込む。

 そこから先の攻防は見えなかった。

 ただ、殆ど重なった二つの踏み切り音が耳に残る。

 気付いた時には、いつの間にか男の背後に回りこんでいたヒルデルカが拳を打ち出した姿勢のまま固まっていた。よく見ると、男の左手が背中に回っている。

 左手でヒルデルカの拳を受けたのか。視線一つ動かさず、最小の動きで。


「ぐぅぅ」


 拳を戻そうとヒルデルカが身を捩るが、岩に埋め込まれたように腕が動かない。それどころか、男が無造作に左手を振ると、ヒルデルカの体が宙を浮き振り回される。


「元の場所に戻りなさい」


 男はまるで果実を投げ渡すように、左手を下から上にゆっくり振り上げる。踏ん張り抵抗しようとするヒルデルカだが、踏ん張った足は地面を削るだけだ。終にヒルデルカの両足が地面から離れ、ゆっくりと放物線を描きながら飛ぶ。


「ここっ!」


 リシェルの鋭い声が飛んだ。

 慌てて視線を上から前、ヒルデルカから男の方へ戻す。男の正面まで間合いを詰めたリシェルが、先端に力を纏った剣を突き刺そうとしていた。

 俺達が空を飛ぶヒルデルカに意識を持っていかれている時、リシェルは男の隙を見ていたのか。

 刃は既に発射されていて、回避も防御も無理だ。

 やった。

 俺は勝利を確信して拳を握る。

 リシェルの剣が、男の胸に吸い込まれた。乾いた音が響き、剣が砕け散った。

 嘘、だろう。

 リシェルも同じ気持ちなんだろう、突きを終えた格好から動かない。銀髪の後頭部しか見えないが、きっと驚愕一色に顔を染めているはずだ。


「おや、服が破けてしまいましたね」


 男の服にはリシェルの剣が当った証拠に、穴が開いていた。白く、きめ細かい肌が、顔を出している。傷一つ付いていない。


「次はこっちの攻撃です」


 男は、まるで大岩を投げるように体を大きくねじり、右の拳を後ろに腕が一直線に鳴るまで伸ばす。更に、左足を大きく振り上げる。

 まるで人形劇に出てくるマリオネットの様な、大げさで、無駄しかない構えだった。

 殴り合いは素人だ。これなら、俺でも体を半歩ずらしてかわせる。リシェルなら、更に反撃も出来るはずだ。

 俺の判断は間違っていた。

 男の構えは素人で、拳の軌跡も予想通り、だが、その速さと重さは規格外だった。

 空気が破裂する音が男の拳から発せられ、リシェルが吹き飛んだ。崖を転げ落ちるように、二転三転。俺の足元まで来るが、それでもまだ勢いが死んでいない。

 慌てて、リシェルを抱きとめた。猪の突進でも受けたような衝撃に吹き飛ばされそうになるが、体を丸めて踏ん張る。

 靴の裏がすべり、数歩分後ろまで勢いに押し負けた後、ようやく止まった。


「大丈夫か、リシェル」


「大丈夫よ。拳を受けた肩が外れたけど、それだけ。はめてやれば、まだ戦えるわ」


「それだけ……て、お前」


 リシェルの肩を見て絶句する。

 鎧の肩当てや服が千切れ飛び、外気にさらされた肩は一面青紫色に変色していた。関節が外れているにも関わらず、膨らんでいるそこが、大丈夫なわけがない。

 これじゃあ、肩をはめなおしても、剣は振るえないだろう。


「すみません。まだ力に慣れていないようで、手加減が難しいようです」


 あれで手加減した? 冗談じゃない。空気が壊れる一撃が、手加減なら、本気になったらどうなるんだ?

 申し訳なさそうに頬を掻く仕草に、俺は男への怒りより、恐怖を覚える。


「なら、力に慣れる前に、手加減している間に倒す!」


 コーズが力を蓄えた宝剣を振るう。


「範囲限定、威力倍増、ハイッッッッパァァァァアアアアア、シャイニングゥゥゥゥ、コオォォォォォズシュッゥゥゥゥトっ!!」


 宝剣から吹き出る光の激流が男を襲う。先ほど、四人の魔族を天へと吹き飛ばした必殺の技だ。

 押し寄せる光を前に、男は一歩前進した。ゆっくり突き出された両手。

 力仕事を一度もした事がなさそうな、陶器の様に美しい指に、白光が触れる。

 それじゃ、防げない。


「星空の彼方へ消えろぉぉぉ」


 宝剣が再度、下から上になぎ払われる。それに合わせて、力は天へ飛翔するはずだった。

 しかし、先ほどとは違い、今回は何も起きない。

 白光はその場に留まったまま、動こうとしなかった。

 何で、動かない?

 疑問の答えは、男の暢気な声で提出される。


「ふむ、力を純粋に溜めて密度を上げ、それを一点から解き放つ。シンプルですが、その分、溜める力の圧と密度しだいで何処までも威力を増幅できる。中々、興味深い技ですが、この程度なら受け止めても問題ありません」


 常識外れの答えに、俺達全員の顔が強張った。

 男の言う通り、単純な技だが、だからこそ、防ぎ方も単純になる。コーズの技を防ぐには耐えるか、それを超える力で相殺するしかない。

 それなのに、男は受け止めた。

 それが意味する所は一つ、彼我の力の差が、文字通り、大人と子供以上に開いている、と言う事に他ならない。


「それでは、お返ししますね」


 突如、白光が進路を変えて、俺達に襲いかかってきた。

 予想外の事態に、反応が遅れる。俺だけじゃない、見渡せば、リシェルもヒルデルカも同じように固まっている。

 時間にして一瞬だろう、しかし、その一瞬は致命的な一瞬だった。

 白光はコーズが放った時より勢いを増し、もう、俺達のすぐ側まで迫っている。

 くっ、当る。

 目を閉じて、両手で顔を護り、少しでも生き残れるように身を硬くする。

 一呼吸、二呼吸、幾ら待っても白光に飲み込まれる事はなかった。

 どうした?

 恐る恐る目を開いてみると、コーズが宝剣を正眼に構え白光と対峙している。


「グゥゥゥゥ」


 圧倒的に力が足りないのか、苦しそうな呻き声を漏らしながら、コーズは白光を受け止め続ける。

 ジリジリと、勢いに押され始めたコーズ。その手の中では宝剣が悲鳴を上げていた。

 白雪の様に美しかった刀身が、くもの巣の様に細かいヒビで覆われる。

 徐々に押しつぶされるように、コーズの体がそり始めた。

 て、何、ほうけて見てるんだ。助けなきゃ。

 助けようと一歩足を踏み出そうとした時、コーズが一際大きな絶叫を迸らせる。


「アァァアァァァァアアア」


 声に力があるのか、コーズの体勢が元へ戻っていく。一時は、ブリッジでもしそうなほど反り返っていた背が真っ直ぐに、そして前のめりに変わる。


「吹きっ、飛べっ!」


 コーズの叫びと共に、白光が上空へ弾かれた。

 助かった。コーズが力を弾かなきゃ、全滅してた。


「ハァハァハァハァ」


 あれだけの力を放ち、それを弾いた代償は大きかったのか、コーズの体が揺らぎ、地に膝が着いた。

 辺りを見渡せば、投げられた時痛めたのか、ヒルデルカは左手首を押さえ、リシェルは右肩を外され、コーズさえも力の使いすぎて立っていられない。各々たった一合の打ち合いで、ボロボロに鳴っていた。

 対する相手は、


「これで私の力は分かって頂けたと思います。リシェル、もう一度だけ言わせて頂きます。私の部下になりなさい」


息一つ切らし様子もなく、微笑んですらいた。

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