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128組の勇者達  作者: AAA
25/52

白光と最強と純黒

 白光の奔流が、四人の魔族を襲う。

 もう、逃げられない。

 突如、魔族の一人が武器を捨てて前に出た。両手に周囲の景色が揺らぐほどの力を纏い、奔流の前に立ちふさがる。


「なっ!」


 その呻き声は誰のだ? 俺かもしれない。それ位、魔族は馬鹿な事をやった。

 両手で、コーズの放った力を受け止めたのだ。両手に込めた力を盾に、あの、全てを塗りつぶしそうな力と真正面から立ち向かっていた。

 最強、その名は伊達じゃない。


 剣ならもっと上が入る。


 力ならもっと大量に持っている奴がいる。


 技術なら極めた達人には足元にも及ばない。


 それでもコーズが最強なのは、唯一つ、その威力が規格外だからだ。

 力を溜めて放つ。

 力の使い方の基礎でしかない。だがそれをここまで練り上げた馬鹿はいない。

 一体誰が想像するんだ?

 一番初めに憶える、石を投げる程度の威力しかないはずの技が、敵を消滅させる程の必殺へと姿を変えると。

 頑張って歩いていたら、いつの間にか誰が走るより速く歩けるようになった。それ位、頭が可笑しい技だ。

 だから最強。

 誰もが畏怖と敬意と呆れをもってそう呼んでいた。

 その一撃を、たとえ少しの間でも持ちこたえられる。

 凄い。

 相手が敵だと分かっていても、尊敬する。

 だが、しかし、一生懸命になっただけで受け止められる程度の一撃を、俺は、俺達は最強とは呼ばない。


「ガァァァァァ」


 魔族が苦痛に吼える。その両腕が光ですりつぶされていく。

 ゆっくり、しかし、少しづつ加速しながら、光は濁流となって魔族を飲み込もうとしていた。

 魔族の姿が光に隠れて確認できなくなる。

 そこでまた一人、魔族が前に出てきた。先ほどの魔族と同じように両手に力を込めて、魂すらも捧げる様に、光を掴む。

 何で、逃げないんだ。

 絶好のチャンスだろう?

 残った二人の魔族も、盾となる二人と同じように武器を捨てた。あの暴力の塊を前に、一歩も退く気がないようだ。

 あ、テント!

 魔族はあれを護っているのか。

 突如、前方で新たな白が煌めく。


「グウゥゥゥゥ」


 獣の様に呻くコーズの宝剣が再び光り輝いていた。

 連射っ!

 それもさっきの何倍も力を込めてる。軽く撫でただけで破裂しそうなほどの力が、膨張と抑圧を絶妙なバランスで繰り返しながら、増長している。


「コーズ! テントまでぶっ飛ばす気かっ」


 中には聖女様もいらっしゃるんだぞ。


「やめな、コーズっ!」


 俺が背後から羽交い絞めに、ヒルデルカが紅輝武甲こうきぶこうを盾に、コーズの前に立ちふさがる。

 それでも力の成長は止まらない。止められない。


「大丈夫! この一撃はテントに当らないっ!」


 歯を見せて笑ったコーズが、背中を俺を貼り付けたままヒルデルカの脇をすり抜けて、前に出る。

 蹴りだしの爆発音と踏み込みと爆発音が同時に耳朶を打つ。腕がちぎれる程の力と、内臓や顔を殴打された様な衝撃が時間差なく襲ってきた。

 何もかも視界から消え去るようなコーズのトップスピード。背中にしがみついていた俺はそれを強制的に体験させられて、一瞬、視界が真っ黒になる。


「範囲限定、ハイパァシャイニングッ、コオォォォォォズシュッゥゥゥゥト」


 コーズの剣から地を這うような光の津波が発せられた。全てをさらい、天へ還す光が激流となって魔族へ向う。

 前の光に呑みこまれていた魔族達にもう受け止めるだけの力はなく、あっけない程、あっさりと光が魔族四人を飲み込んだ。

 て、光の勢いが全然弱まらない。寧ろ、速度を上げてテントへと襲い掛かろうとしている。


「おいぃぃ、コーズっ!」


「天へ昇れぇぇぇ」


 俺の叫びと共に、コーズが再度剣を下から上に振るう。

 光の津波は滝を逆流する様に天へ昇る。テントの先端をかすめ、木々を食い散らかし、夜空の中に白い空白を作り、彼方へと飛翔する。飛翔する光から零れたように、コーズが殺した魔族の力がコーズの紋章に降り注いだ。

 俺は馬鹿みたいに口を開けながら、光の奇跡を追った。

 すげぇ。前々から化け物だと思ってたが、この威力はなんだ。


「まともに撃っても受け止められそうだったから、天まで飛ばして見たよ」


 あれだけの一撃を放ったにも関わらず、疲労の欠片も見せないでコーズは笑う。あっけらかんとした物言いに、こっちの力が抜けてくる。

 あれだけの技を、まるでお腹が減ったからご飯にしよう、見たいな感じて言うんじゃねぇよ。

 ジト目で睨んでみるが、コーズは何処吹く風。いつもと同じ笑みを浮かべていた。

 うん、考えるだけ無駄だな。とり合えず、やっぱりコーズは最強だ、で良いや。むつかしい事考えるのは、聖女様を取り戻してからだ。


「いや、お見事です。こんな短時間であの四人が負けるとは、流石、勇者様と言う事でしょうか」


 乾いた拍手と共に、聞いた事ない声がコーズに称賛を浴びせた。

 誰だ?

 声のした方向は、テント。そちらに顔を向けてみると、テントがなくなっていた。その代わり、椅子に座った男――こいつも魔族だろう――と、その左右にはグリンと鎧の魔族が控えている。

 奴らの足元には、テントだった残骸と、先端が折れた棒が倒れていた。コーズの一撃がテントの先端を掠めて、テントを倒したんだろう。

 それにしても、あの椅子に座っている男がこの隊の隊長格か? それにしては随分、線が細いな。

 鎧を身につけていない男の体は、女の様にひょろりとしていて、とても剣を振るえるようには見えない。その端正な顔には傷一つなく、髪の毛の先まで丁寧に手入れがされていた。

 極めつけは男の手だ。白魚の様に美しく柔らかな手だ。爪の先端まで丁寧に掃除されたその指には、汚れが一切ない。

 剣だこ一つない。戦わない手だ。

 こんな奴が隊の隊長のわけがない。

 じゃあ、一体、誰なんだこいつは? 明らかに偉そうだぞ。


純黒ディープ・ブラック サーキ・ドーミネート様」


 リシェルがポツリと椅子に座った男の名を呼んだ。


「……過激派の頭、今回の騒動の元凶よ」


「聖女様!」


 不意にレティシア様が叫ぶ。視線の先を追うと、椅子に座った男の隣に両手、両足を縛られた聖女様が転がされていた。

 こいつは人間じゃない。

 地べたに転がされた聖女様のお姿を見て、確信した。床には妙な幾何学模様のカーペットを敷いているようだが、そんな事は関係ない。地に聖女様を放置する、そんな不心得な事が出来る人間は存在しない。

 信仰なのか、畏怖なのか、それとも光神教の権威なのか理由は人それぞれだが、人間はあんなふうに聖女様をぞんざいに扱えない。


「安心してください。まだ、生かしていますから」


「貴様あぁぁあぁぁっ」


 顔を真紅に染めたレティシア様が、魔族達目掛けて飛びかかろうとするのを、ヒルデルカが止める。


「止めるな。偉大なる聖神様、その力を与えられし聖女様をっ! 最も神に近きお方の一人にっ! 何をやっておるかぁ! 貴様らァァァアアアアアアッ」


 やばい、完全に頭に血が上ってやがる。下手したら、こっちにまで切りかかってくるんじゃないか、これ?


「なかなか、やんちゃなお嬢さんをお持ちで」


 椅子に座った男はレティシア様を一瞥すると、リシェルに視線を移した。


「ええ、しつけに苦労してます。それで、何故、あなたがここに?」


「これを手に入れる為です。こういうものは鮮度が重要ですから、途中で死んで腐っては元も子もありません」


 椅子に座った男が聖女様を指差す。

 聖女様を物の様に扱う言い様に、レティシア様だけでなく、コーズ、ヒルデルカの顔にも怒りが浮かんだ。当然、俺も頭の中が煮え滾っている。

 そんな俺達、人間の気持ちを無視して、リシェルと魔族の会話は続く。


「貴女はリシェルでしたね。妹の仲間の」


「ええ、それが何か?」


「もう、人間側に勝ち目はありません。私の部下となって下さいませんか?」


 そう言って笑う椅子に座った男。


「随分と強気ですね? 七五三九万、貴方が試算した数字です。それを聖女だけで覆せると?」


 七五三九万……魔族が全滅するまでに、人を殺せる数。まさかその試算をした奴が、全面戦争を望んでいるのか。

 馬鹿だ。

 まともじゃないぞ。

 自分の出した答えを無視するなんて、子供だってしない。

 それだけ聖女様が重要だってことか?


「聖女だけでは足りません。私達、魔王の後継者も必要です。聖神の力と、魔王の力、この二つがあれば、この間違った世界を正す事ができる。それだけの力が手に入ったんです」


 手に入った、か。過去形だ。手に入るじゃない。

 まさか、さっきの悲鳴は!

 俺の予想を肯定するように、椅子に座った男から二つの力が噴出した。

 何だ、あれは?

 一つは汚泥にさらされた様に穢れきった黒、そしてもう一つは透き通るように儚くも美しい白。巨大な黒の力の中で、白の力が唯一つの星として煌めいてた。

 黒が魔王の力なんだろう、あんな禍々しいものが他の力であるはずがない。

 だったら、白は、なんだ? あの美しい力は?


「……聖女様」


 レティシア様が崩れ落ちる。膝を地に着けたまま、魅入られたように白の力を見つめ続けている。


「あれは、聖女様と同じ力だ。なぜ魔族が聖神の力を」


 信仰の芯を折られたんだろう。力なく腰を落としたレティシア様のお姿は幼子の様に頼りなく、ガラス細工の様に儚かった。


「と、これだけでは分かりませんよね。これから少し、力の一端を実演してみましょう」


 男が椅子から立ち上がった。


「さあ、勇者達、かかってきなさい」


 そう言われても動く事は出来なかった。目の前の男に呑まれている部分もあるが、聖女様が魔族の手の内にあるんだ。最悪、人質とされるかもしれないんだ。迂闊には動けない。

 そんな俺達の心情を看破したのだろう、男は殊更、穏やかな笑みを浮かべた。


「安心して下さい。聖女を人質に使うつもりはありません。これはまだまだ、必要です」


 男が一歩、前に足を踏みしめる。それだけで威圧感が増し、周囲を圧倒する。

 尋常ではない雰囲気に、体が強張る。

 隣を見れば、コーズ、ヒルデルカ、そしてリシェルが顔を真っ青に変えて武器を構えていた。


「この力があれば世界を正せる、と納得いただけたら、私の部下になって頂けませんか?」


「申し訳ありませんけど、私が剣を捧げる相手は一人しかおりませんので」


 リシェルは切先を男に向けながらも、男の左右に控えるグリンと鎧の魔物を牽制する。


「うん、聖女様は人質じゃない。親玉は目の前、うん、分かりやすくて良い。白神宝剣びゃくしんほうけん、その力を全部吐き出せっ!」


 体の震えを隠すようにコーズが吼え、宝剣がそれに応える様に白く輝く。


「相手は強大、こっちには足手まといが、ひのふのみ。こりゃまた大変さね。でも、もう逃げるはなしだ。紅輝武甲こうきぶこう、もっともっと強くなろうさね」


 ヒルデルカは真っ青な顔をしたまま構える。体にひきつけられた両腕が周囲に紅の光を灯す。


「とり合えず、レティシア様は守る。だから流れ弾には気にせず、思いっきり戦ってくれ」


 俺は魔族の力があるという左腕を一瞥してから、一歩下がる。

 この力がどれだけ凄いか分からないが、こんな別次元の戦いで使えるわけがない。ここは大人しく、後方に回ろう。


「では、始めましょう」


 男が俺達を迎え入れるように、両手を大きく開く。

 それが合図となり、リシェル、コーズ、ヒルデルカが一斉に走り出した。

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