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128組の勇者達  作者: AAA
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技名とネーミングセンスと威力

 グリンの姿が完全にテントの中へ消えた。

 それまで息を殺して草陰にへばり付いていた俺達は、一歩後退する。作戦会議だ。

 このまま突っ込んで、逃げられたり、聖女様を人質にとられたら、もう対抗する手段がない。ここで確実に聖女様を取り戻さなくちゃならない。

 最初に口火を切ったのはヒルデルカだった。


「さて、どうすかね。見張りは入り口に二人と、左右に一人、テントの裏側にも居るだろうから、少なくとも五人」


「聖女様が心配だ。このまま突撃しよう」


 コーズがいつの間にか呼び出した宝剣を片手に、テントを指差す。忙しなく体を揺すっていて、今にも飛び出してきそうな様子だ。

 焦りすぎだな。魔族はこっちに気付いていないんだ。ここはしっかり作戦を立てる方が正解だ。

 皆、そう思ってるだろう。


「いや……まぁ、それしかないんだけんどね。もうちょっと言い方があるんじゃない?」


 リシェルが大きく肩を落とした。

 やっぱり、コーズの話は呆れる位、考えなしなのか。だから、リシェルも呆れながら、賛成して……て、賛成っ!

 何で賛成してるんだ。ここは作戦を立てるところだろう。

 て、あれ、何でヒルデルカも頷いてるんですか?

 ここはみんなで、コーズの考えなしっぷりと叱るところでは?

 俺の混乱に気付いてないのか、三人はそれぞれの獲物を手にする。このまま、すぐにでも飛び出しそうだ。

 こいつら全員、疲れとグリンに追いついた事で、ハイになってるんじゃないか。止めないと、猪みたいに突っ込むぞ。


「いや、待て、待て、待て、待ってくれ。せめて二手分かれて、陽動とかじゃないのか? 正面からなんて、無謀にも程があるぞ」


「この男と同意見とは気に食わないが、聖女様のお体がかかっている。もっと慎重にやってもらいたい」


 コーズが、そうかな、と首を捻り、リシェルとヒルデルカが困ったように唇をすぼめた。

 あれ、何か俺、変な事言ったか。と言うか、レティシア様と同意見なのが、非常に不安だ。


「ヒルデルカ。わたしじゃ角が立つから」


「あー、カール、レティシア様、二人の意見はもっともなんだけどね。今回は、そう言う悠長な手を使ってられないんだよ」


 悠長? 言われる程、手の込んだ事をしたいわけじゃない。せめて、逃げ道を塞ぐ位の保険が欲しいだけだ。


「相手に気付かれないように裏手と正面から挟撃するだけでも、逃げられる心配が減るんだ。少しは作戦を練った方がいいんじゃないか?」


「ここにあたいらが居る事に、相手は気付いてるんだよ。これから裏手に行こうとしても、気配で察知されるさね」


「馬鹿な。この暗闇の中、そう簡単に気付かれるものか」


 俺もレティシア様の意見に賛成だ。テントの周りは少し開けた場所になっているが、松明や焚き火はやっていない。見張りの魔族達の姿は、薄っすらと浮かび上がる程度にしか見えない。

 向こうがこっちに気付けるとは思えない。

 大体、気付いていたら、なんらかの反応があるもんじゃないか?


「あたいらは聖女様を追いかける為に、急いでここまで来たんだよ。隠密行動なんてやってないんだ。枝の折れる音、草の擦れる音、獣の不自然な遠吠え、これだけ五月蝿くしていて気付けないのは間抜けかアホだけさね」


 確かに移動速度だけを重視したから、かなり五月蝿くしていた。

 うん、ヒルデルカの言う通り、気付いてなければ、耳が聞こえないのか、寝ていたのか。よっぽどの馬鹿でなくちゃ、気付いてるな。


「その上で、気づいてないように振舞ってるのは、罠、と言うより、時間稼ぎだろうさ」


 そこまで言われて、合点いった。


「俺達がここに居る事に気付いている事を隠して、俺達に無意味な作戦会議をさせる為」


「そして、その作戦準備中に、テントの中では私達に対する備えと逃亡準備を進めるわけか」


 レティシア様も分かったようだ。


「そう言う事さね。あっちにはグリンが居るからね、こっちの構成はばれているし、時間をかけるわけにもいかない。つまり、突撃しかないんだよ」


 流石、戦闘系。こういう時の頭の回転は一つ、二つ、飛びぬけている。


「あー、成る程ね!」


 そんな俺の感動を、コーズがぶち壊してくれた。


「いや、お前、分かってて突撃、言ったんじゃないのか?」


「いや、なんとなく、時間をかけたらまずい気がしたんだ」


 勘かよっ!

 それで正解を引ける辺り、こいつの頭の中はどうなってるんだ?


「ま、そんな事、どうでも良いじゃないか。今は聖女様だよ」


「ああ」


 釈然としないが、コーズの言う通りだ。

 汗で濡れた剣の柄を袖で拭き、手首と剣をヒモで結んだ。これで、汗や血で滑って、剣がすっぽ抜ける心配はない。


「先頭はあたいとリシェル、コーズは一歩後ろで、あの溜め技を準備していておくれ」


 ヒルデルカが全体の指揮を執る。


「溜め技? どの技の事かな?」


「あの鎧の魔族から逃げる時に撃った奴だよ」


「ハイパーシャイニングコーズスラッシュの事だね」


 相変わらずのネーミングセンスだな。責任の一端が俺にある所為か、胸がちょっと痛くなる。


「??? 皆どうかした? 何か微妙な顔してるよ」


「コ、コーズ、その技名は」


 胸を押さえる俺に、コーズが無邪気な笑みを向けてくる。

 胸が、胸が、痛い。


「ハイパーシャイニングコーズスラッシュの事?

 前にカールからつけてもらったスペシャルコーズスラッシュの凄い版でピカピカ光ってるからハイパーシャイニングコーズスラッシュて名前を付けたんだよ。格好いいだろう!」


 くっ、俺が冗談であんな技名を言わなければっ。

 胸を張るコーズを正視できなくて、俺は顔を背けた。


「……そう、だな。うん、格好いいぜ。コーズ」


「だろう!」


 こうしてコーズのネーミングセンスはまた一つ段階を上げた。

 何とか矯正しなくちゃいけないのは分かってるんだ。

 責任が自分にもある事も分かってるんだ。

 だけど、子供みたいにキラキラと目を輝かせたコーズを前に、ダサい技名だ、もっと真面目に考えろよ、なんていえるわけないだろう。


「技の名前はそれぐらいにして、レティシア様とカールは更にその後方、回復と援護を頼むよ」


 脱線した話をヒルデルカが戻す。


「分かった。回復魔法は後、三、いや、四回は使える。使いどころの指示は頼むぞ」


「分かってるよ。その辺りはあたいがやる。他に適任者も居ないからね」


 最前列で戦いながら、全体を見渡して指揮を執る。ヒルデルカの負担が非常に大きいが、他に適任者がいないのだ。

 俺とリシェルはレティシア様から信用がない。

 コーズは最強の戦力だ。無駄に指揮を執らせるよりは、何も考えず戦わせたほうが良い。

 レティシア様は自分から指揮を他人にお願いする位だ。そんなに得意じゃないんだろう。

 すまん、ヒルデルカ。苦労をかける。

 役割分担も決まり、いざ、突撃しようと言う時に、地獄から搾り出されたような悲鳴が聞こえてきた。


「アァアァァア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァ゛ァ゛ァァ゛アアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」


「聖女様!」


 レティシア様が駆け出す。


「チィッ、行くよ」


 俺達もレティシア様の後を追って、茂みの中から飛び出した。

 突然、飛び出したにも関わらず、見張りの魔族に戸惑いはなかった。すぐに一人が剣を抜き、一人がテントの中に入る。

 ヒルデルカの言う通り、気付かれていた。

 突撃するタイミングも読まれていたんだろう。聖女様の悲鳴が上がったんだ。俺達が慌てて飛び出てくるのは必然。

 クソ、完全に後手に回ってる。


「五人、五人、五人!」


 剣を抜いた魔族が、俺達の人数を連呼する。他の箇所を見張っていた魔族が集まってきた。

 こっちの人数も把握済みか。

 伏兵がいない事を確信しているのだろう、裏手からも鎧の魔族がやってくる。

 その数は三人。これで、相手は合計四人。

 よし、これならすぐに片付けられる。

 コーズ、ヒルデルカ、リシェル、三人とも鎧の魔族を数人は相手取れる実力者だ。余裕だろう。

 俺の甘い予想をリシェルが打ち砕く。


「気をつけて! こいつら、直近の兵士よ。昼間に相手にした奴らとは質が違うわ」


 前に出たリシェルが剣を振るう。烈風の如き、三連撃。下手に受ければ、剣ごと鎧と中身を真っ二つにしそうな剣戟が三つ。

 手だれた紋章持ち、いや、勇者だって簡単には防げない連撃を、魔族は危なげなく受け止めた。


「クウッ!」


 リシェルが更なる連撃を撃つより速く、横合いから割って入ってきた魔族が剣を振るう。

 先ほどのリシェルと同じ、苛烈な連撃。人を縦に割れるのでは、と思われる鋭さがある。

 一

 二

 三

 リシェルが剣戟を受けるが、止まらない。三連では止まらなかった。

 四

 五

 六

 七

 まだ止まらない。

 リシェルが剣で受け、体術で避けるが、防ぎきれない。たまらず、後方へと逃げる。

 魔族は追ってこなかった。テントを守るように肩を並べて、布陣している。

 クソ、こっちが攻めるしかない事を見透かしてる。


「グヘッ」


「ヒルデルカ!」


 呻き声と共にヒルデルカが吹き飛ばされた。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと油断しただけさね」


 腹を押さえながら立ち上がったヒルデルカの顔色は冴えない。


「昼間の奴とはレベルが違うさね。技の冴えが段違いだね」


 ヒルデルカは血の混じった唾を吐き出し、狼の様に笑った。


「けど、力の量はたいして変わらないよ。コーズ、ぶちかましな」


 ヒルデルカが横に飛ぶ。

 背後でずっと力を溜めていたコーズが現われる。既に宝剣の白光は宝玉だけに収まっていた。


「範囲限定、ミニハイパァァァアァアシャイニングッコオォォォォォズ」


 光が溢れ、昼間の様に明るくなる。


「スラッシュッ」


 下段から振り上げられた宝剣から光の奔流が、魔族目掛けて放たれた。

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