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128組の勇者達  作者: AAA
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傷と援軍と逃亡

 闇の中から飛び出した魔族を迎撃する為に、手を腰に回す。

 俺が剣を取るより早く、魔族の一撃が襲ってくる。


「おっと」


 大降りの横なぎをしゃがんでかわし、そのまま魔族の腰に抱きついた。

 皮の胸当てに当てた頬を更に下げて、相手の腹に頭を押し付ける。

 大きく足を広げて踏ん張り、


「うりゃああぁああああ」


膝、腰、腕、全身の力を使って相手を横に投げる。

 背中から地面に投げ捨てられた魔族が、地面を転がりならが距離を取っていく。

 どうだ、力と体力だけなら並以上にあるんだ。


「リシェル」


「後は任せて、カール。ここからは本気よ……一人たりとも生かして返さないわ」


 淡々とした声色の中に、ぞっとした。

 殺気すらない。

 まるで家畜を捌く様な気軽さと面倒くささで言うリシェルの言葉に嘘はなかった。

 今度は二人同時に魔族が襲ってきたが、剣を振るうより早く首と胴体が分割された。


「え?」


 それは魔族の声だったのだろうか。間抜けな声色と同時に更に胴が左右に分割される。

 飛び散る血はなく、倒れるようにリシェルの両脇に倒れる魔族二人。そこでようやく血が噴出した。

 強い。いや、速い。

 これが魔族の強さ。

 左手の甲を光らせたリシェルが、更に剣を振るった。


「グッ」


「ギャァア」


「ガァアア」


 それだけ木々の奥から苦悶の声が聞こえてきた。

 リシェルは言った。魔族と人間が全面戦争になれば、人間が勝つ、と。俺もそう思っていた。何せ、母体となる人数が違う。どう考えても人間を根絶やしになんて出来ない。

 でも、今、その自信が音を立てて崩れていく。

 圧倒的な個の質の前に、物量など無意味だというのか。たった一、二呼吸で五人も、あのコーズですら限界と言った人数をあっさりと殺して見せた。

 こんな奴らに、本当に勝てるのかよ。


「カール、何ぼけっとしてるの? 急いで、レティシア様に!」


 厳しい顔をしたリシェルの叱責が飛ぶ。


「あ、ああ」

 

 そうだ。今はそんな事を考えてる場合じゃない。この場から素早く引いて、グリンを追いかけなきゃならないんだ!

 くだらない事を考えるのは、その後だ。

 背負いバックを降ろし、倒れているレティシア様の側に座る。背中から突き刺された剣は貫通し、血に濡れた切っ先が胸から顔を出していたが、それ以上の外傷はない。

 これならレティシア様の意識さえあれば、助かる。


「レティシア様っ! レティシア様っ!」


 レティシア様の耳元で怒鳴る。何度か怒鳴っていると、レティシア様が片手を上げて答えてた。

 よし、意識はある。


「剣を抜きます。その後すぐに、ご自分で回復魔法を、出来ますよね?」


 これは確認じゃない。ただの通告だ。

 胸に大穴が開いている状態なんだ。この場で、包帯を巻いたくらいじゃどうにもならない。医者なら話が違うんだろうが、医学なんて専門的な知識、誰も持っていない。

 この場ではレティシア様の回復魔法にかけるしか方法がなかった。


「いきますよ」


 レティシア様の答えを待たずに、俺は剣の柄に手を添える。


「一、二の三ッ!」


 掛け声と共に剣を引き抜く。一瞬、わずかな抵抗が感じられたが、すぐになくなる。まるで、名工が作った桐箱の蓋と箱の様にすんなりと、剣は抜けた。

 一瞬の間もおかず、レティシア様の胸を淡い光が包み込む。暖かくも柔らかい、回復魔法の光だ。

 そして、苦しげな呻き声と共に、レティシア様の口から大量の血が吐き出された。

 やばい、何か間違いが起きたのか!


「レティシア様!」


 慌てて駆け寄ろうとする俺を、レティシア様が手で制す。


「大丈夫だ。胸に詰まった血を吐き出しただけだ。回復は順調に進んでいる」


 服に出来た穴を広げてみせる胸の谷間は、血で汚れていたが傷一つ見えなかった。


「しかし、お陰でこちらの力もかなり消耗させられた。回復魔法は後数回しか使えないだろうな」


 レティシア様は口惜しげに語ると、黙り込んだ。

 とり合えず、こっちは何とかなりそうだ。後は、周りの魔族なんだが、やばいな。

 コーズとヒルデルカには、数人の魔族が入れ替わり立ち代り襲ってきては引いている。二人とも致命的な一撃を貰っていないが、同時に必殺の一撃を与える事も出来ていない。

 リシェルの方は、完全に魔法戦に切り替わっている。木々の間から雨あられと打ち込まれる魔法を剣で切り裂いているが、反撃はできていない。

 ジリ貧だ。

 三人の不利はどれも自由に動けば、簡単に解決する。しかし、今は俺とレティシア様を庇っている所為で、動く事ができない。

 どうする?

 加勢? 無理だ。あのレベルの戦いに顔を出したら足手まといにしかならない。

 じゃあ、レティシア様を担いで移動するか? それも無理だ。胸を剣で貫かれる大怪我を負ったんだ。下手に動かしたら、余計に傷を広げるだけだ。


「クソ」


 レティシア様もその事に気付いているのだろう、悔しそうに顔を歪める。それでも、動けないのはそれだけ怪我が酷いという事だ。

 どうしたらいんだ。

 ヒルデルカ、コーズ、リシェルの苦戦を見ながら、何もできない自分が歯がゆい。

 悔しさに自然と両手に力が篭った。

 その時、木々の間で今まで以上の魔法が放たれる瞬間が視る。

 あ、やばい。これはリシェルでも対処しきれない。

 腰の剣を抜く。


「ウソッ! 追いつかない!」


 リシェルは目の前に迫る無数の魔法を前に悲鳴を上げる。

 俺は悲鳴と同時に剣を振るった。まずはリシェルの右側を通り過ぎる一発。

 俺の剣が伸びきると同時に、切っ先に当った魔法の方向がぶれる。

 次は左。

 振った剣の勢いをそのままに、コマの様に回ってもう一発。

 あ、この陣形はまずい。

 コーズ達とリシェルが、わずかに俺の背後側によっている。誘き寄せられたんだろう。それまで全周をカバーしていた三人の防御範囲に隙間が生まれた。

 そこに飛び込もうと、姿勢を低くした魔族が視える。

 頭が痛い。

 意識が飛びそうになる。

 魔族の攻撃は上段からの振り下ろしだ。狙いはレティシア様か!

 視える。

 勢いはあるが、重みはない一撃。これなら、剣を上に掲げるだけで防げる。一合受ければ、後はコーズが対処してくれる。

 楽勝だ。

 楽勝なのに、体が言う事を効かない。

 たった二回魔法を打ち払っただけで、体中の血が泥に、肉が鉄になった様に重い。

 魔族が木々の合間から飛び出てきた。

 動け。

 俺の膝になけなしの力が集まる。

 魔族が上段に剣を構えた。

 動け。

 俺の蹴りだしに地面が耐えられない。草の上を足が滑る。

 コーズがこちらに気付いて、剣を振るおうとするが間に合わない。魔族の剣は間合いの半歩外だ。

 魔族が剣を振り下ろした。

 耳に豪風が鳴り響く。

 衝撃が全身を襲った。


「カール!」


 コーズが俺の名を呼ぶ。

 何だ。肩と頭が痛い。

 俺は起き上がると辺りを見渡した。前方には木の根元で苦悶の声を上げている魔族、背後にレティシア様がいた。

 俺がさっきまで魔族が居た場所に居た。さっき飛び出そうとした位置から、大またで数歩分、離れた場所だ。

 ここまで来たのか俺が?

 にわかには信じられなかった。

 確かに、レティシア様を守ろうと飛び出したが、中腰の、足が滑った踏み込みで、こんなに移動できるなんてありえない。

 どうなってるんだこれ?


「カール、ナイスタックル! お陰で助かったよ」


「あ、ああ」


 コーズの賞賛に、俺は戸惑う事しかできない。

 て、今はそれどころじゃない。

 早く体勢を立て直さないと!

 俺の耳にほら貝の音色が聞こえたきた。

 これは……援軍だ。勇者か近衛兵か分からないが、こっちの援軍が来たんだ。

 夜中にこれだけ派手にやっていたんだ。そりゃ、気付いてくれるよな。

 周囲を囲んでいた魔族の気配が消える。動揺の一つも見せない、見事な退却だ。

 まぁ、とり合えず、これで一息つけるか。


「カール、逃げるよ!」


 俺がその場にへたり込むが、ヒルデルカが引っ張り上げる。リシェルもヒルデルカに手を掴まれ、コーズがレティシア様を背負っていた。


「へ?」


「いいから、早く!」


 なんだ、何なんだ? あれは味方のじゃないのか?


「あんた、今、他の奴らと会ったら、聖女様を魔族に引き渡した裏切り者として、処刑されるよ!」


「そうだよ、カール。今は逃げよう」


「二人はそれでいいのか? ここで逃げたら、後で大変な事になるぞ」


 俺の問いに二人は当然と頷いた。


「事情があるんだろ?」


「あんたをどうするかは、それを聞いてからさね」


「……ありがとう、二人とも」


 二人の笑顔に、目頭が熱くなる。

 今まで黙っていた俺を信じてくれている。それだけで、胸の奥がいっぱいになりそうだった。


「礼はいいよ。それより、早く逃げようじゃないかい」


「ああ、それでどっちに逃げるんだ?」


 ほら貝の音色は南と東から聞こえた。なら、逃げる方向は北と西の二方向だ。


「北だね。グリンの後を追うよ。聖女様を助けなきゃ行けない!」


 コーズは瞳に使命感をみなぎらせて、グリンの逃げた方へ走り出した。


「続くよ」


「ああ、それじゃ手を離してくれ。このままじゃ走りづらい」


 握り締められた手を上げて見せると、ヒルデルカの顔が真っ赤に変わる。

 何、照れてんだこいつ?


「いや、それは何と言うか、おしいと言うか、そのだねぇ…………そ、そう、逃がさないためだよ。事情を聞く前に逃げられたらたまらないからね!」


「いや、逃げないぞ。ここで逃げたら、帰る場所がなくなる」


「そうかもしれないけどね。でも、その、ねぇ?」


 いや、ねぇ? と聞かれても、困る。

 固まってしまった俺達に、リシェルが呆れた様子で口を挟む。


「それより良いの? コーズ、さっさと先行してるわよ」


「「何!」」


 慌てて前を向くと、コーズの背中が麦一粒程度の大きさになっていた。


「話しは後だ。行くよ」


「ああ!」


 手をつないだまま、俺達三人は走り出した。

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