表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元パワハラ部長、転生したら最弱貴族でした 〜白もふ神獣と始める異世界放浪生活〜  作者: 桔梗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

情に訴えても無駄ですが、何か?


……が、当然ながら、そんな簡単に出て行けるはずもなかった。


「取り押さえろ!」

 

父の怒号が、召喚の間に響き渡る。

その瞬間、壁際に控えていたアズラエル家の騎士たちが動いた。


俺は足を止めた。

別に、怖くなったわけではない。 

ただ、呆れたのだ。


さっきまで俺を家の恥のように扱っていたくせに、神獣を召喚した途端、今度は力ずくで囲い込むつもりか。

実に貴族らしいーー実に人間らしい。


前世の会社にも、似たような連中はいた。 

普段は見向きもしないくせに、利用できると判断した瞬間だけ、笑顔で近寄ってくる連中だ。


ーーああ、気分が悪い。


「何をしている。早くその神獣を――」

 

父が言いかけた瞬間だった。

 

ハクが、低く唸った。

 

<ぐるるるる……>


だが、その一声で、召喚の間の魔石灯が一斉に弾けるように明滅した。

騎士たちの剣先が、かたかたと震え始めた。


「なっ……」

 

ハクは俺の腕から飛び降り、次の瞬間、巨大な狼へと変貌した。

その大きさは通常の狼の5倍ほどだろうかーー。


まるで雪を纏ったような銀白の毛に、月をそのまま模ったような金色の瞳。額には、聖月紋が淡く光っていた。


その神々しさは、言葉では言い表せないものだった。


(……うわぁ、でっかいなぁ)


俺はハクを呆然と見つめた。


騎士たちは、剣を構えたまま動けなくなった。

兄の紅蓮鳥エリュートは、鳥のくせに完全に床へ伏せている。 

さっきまで俺を笑っていた貴族の子どもたちは、顔を青ざめさせ、親の後ろへ隠れていた。


ハクは自信たっぷりに、ふん、と鼻を鳴らす。


……おまえ、本当にハクか?

前世では雷が鳴るとテーブルの下に隠れていたくせにーー。


白銀神狼アルリュオスを拘束しようなどと……」


神官が震える声で言った。

老人はまだ膝をついたままだった。 

額には汗が滲んでいる。


「アズラエル公爵。お控えください。神獣は家門の所有物ではありません。ましてや、その主と認めた者から引き離すなど……神殿としても看過できませぬ」


「神官長」


父の声に苛立ちが混じる。


「これは我が家の問題だ」


「いいえ」


神官長は、はっきりと言った。


「神獣が関わった時点で、もはや一公爵家の問題ではありません」


召喚の間が静まり返る。

父の顔が歪んだ。

 

前世の俺なら、その顔を見て、相手が次に何を言うか読めただろう。 

いや、今でも大体は読める。


父は俺を逃がしたくない。 

だが、神殿と神獣を敵に回すのは避けたい。 

ーーだから、次はきっと情に訴えてくるはずだ。


「レオン」


案の定、父は先ほどとは打って変わって、表情を和らげ声を落とした。


「おまえが我が家でつらい思いをしてきたのは認めよう。だが、それもおまえを思ってのことだった。厳しさは、期待の裏返しだったのだ。わかるだろう?」

 

期待とは、便利な言葉だ。


ーーおまえのためだ。 

ーー成長してほしいからだ。 

ーー期待しているからだ。


前世の俺も、何度も同じことを言った。


思い出した瞬間、胸の奥が鈍く痛んだ。

俺は、部下たちに父と同じ顔をしていたのかもしれない、と。


人を傷つける時、人は案外、自分が正しいと思っている。 

そして、その独りよがりの正しさは時に凶器だ。


「期待、ですか」


俺は小さく笑った。


「父上の期待は、ずいぶん都合が良いのですね」


「レオン!」


「俺は行きます。この家にいても、ハクは利用される。俺も利用される。だったら、ここに残る理由はありません」


「たかが十二の子どもが、外で生きていけると思っているのか」


「生きていきますよ」


根拠はない。


金もない。 

行く当てもない。 

この世界の常識だって、十分に知っているとは言いがたい。

だが、そんなことはもはやどうでもいいことだ。ハクに会えたのだからーー。


俺は神官長に目を向ける。


「神官長」


「……はい」


「俺はこの場を出ることは禁じられているのですか?」


神官長は一瞬、父を見て、それから俺を見た。


「いいえ、禁じられておりません。従魔召喚は、主と従魔の契約の儀。契約が成立した以上、その後の同行を妨げる法はありません」


「だそうです」


俺は父に向かって言った。

父の顔が、怒りで赤くなる。


「……レオン、後悔するぞ!」


俺はその言葉を無視して、神殿の扉を押し開けた。


外の光が差し込む。

召喚の間の重い空気から抜け出すと、冬の風が頬を撫でた。


「……まずいな」


俺は呟いた。


ハクが首をかしげる。

体は大きくなっても、その愛らしさは変わらないようだ。


「今になって気づいた。俺は家出に向いていない」


<わふ?>


「そもそも、前世でも会社とマンションを往復していただけだしな……」


<わふっ>


「励ましているのか、馬鹿にしているのか、どっちだ」

 

ハクは嬉しそうに尻尾を振った。


……まあ、いい。

何もないなら、考えればいい。 

まずは行動あるのみだ。

前世で身につけたものが、いつか役に立つだろう。


「……まずは王都を出るか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ