七色の災禍
ニノさんの活躍により戦闘はあっさり終了した。
ふたつの大きな骸が離れた位置に有り、一方の付近には、カイさん達が疲労困憊な様子で地面に座っている。
「……」
そしてニノさんは、私の前に立っている。
彼女は私を──あるいは私の背に隠れたシズさんをじっと見ている。
「……」
正面からも背中からも強い圧を感じる。
私は言葉が出なくて、とりあえず笑みを浮かべることでごまかそうとした。
「……」
ニノさんは笑ってくれなかった。
その圧は、ある意味で先程の狼より大きいかもしれない。
「やぁニノ、無事で良かったよ」
男性の声。
ニノさんは溜息を吐いて、嫌そうな顔で振り向いた。
「見ての通り忙しいのだけれど?」
「悪いがこっちも緊急事態だ。ゲートに残した仲間には、ニノを回収して即座に帰還すると伝えてある」
「回収? 私が居なければ犬の餌になっていた間抜けの言葉とは思えないわね」
「返す言葉も無い。ただ謝罪している時間も惜しい。移動しよう」
「分かったわよ」
ニノさんは不満気な様子で振り返ると、私の背に立つシズさんを見て言った。
「話は走りながら聞くことにしましょう」
「よし、そうしよう。二人も聞こえたか? 悪いが直ぐに移動だ」
カイさんが手を叩きながら言った。
その後、ニノさんが私に近付いて、来る時と同じように私を持ち上げた。
「ハルは、帰ってからゆっくり話をしましょうね。私の部屋で」
さっきからこの圧は何なのだろう?
私は苦笑しながらも、内心ほっとする。これでやっと──
「伏せなさい!」
金切り声が聞こえた。
私は驚きながら声の主、ニノさんを見上げる。
彼女は唖然とした表情で、どこか一点を見ていた。
その視線を追いかけて、私は直ぐに状況を理解した。
視線の先には、カイさんが立っていた。
まるでRPGの勇者みたいな豪華な鎧姿は、忘れろと言われても忘れられない。
足先から首元まで金色で、とても重そうな印象を受ける。
彼は特別大きな身体をしているわけではないけれど、きっと内側には相応の筋肉があるのだろう。腕や脚、そして──心臓。
首から上が、無かった。
私は呼吸すら忘れて、時が止まったような感覚に陥った。
やがて時計の針を動かすように、私の心臓がドッと胸を叩く。
その力によって私の血液は全身を循環する。しかし大きな出口を得た彼の血液は、まるで間欠泉のように高く打ち上がった。
誰かが悲鳴をあげた。
それを合図にしたかのように、何かが落ちた音がして地面が揺れる。
目を向ける。
そこで私は、七色の狼を見た。
こちらをじっと見ている狼は次々と身体の色を変える。その度に、何も無い空間に新たな狼が誕生する。赤、白、黒。大小様々な個体が次々と現れ、産声の代わりに咆哮する。
「──ニノさん!?」
彼女の行動は早かった。
シンプルに、全速力で逃げ出した。
私は振り落とされそうになって、彼女の身体にしがみつく。
それから全身が引き裂けそうな風圧を感じながら、どうにか後方を見た。
私達を追いかける格好で、シズさんも走っていた。
その直ぐ後ろ、七色の狼が物凄い勢いで迫っている。
ニノさんはシズさんより速い。
二人の距離はどんどん離れて、その分だけシズさんと狼の距離が狭まる。
「……いや、うそ、なんで」
私は目を見開いた。
これから起きる悲劇を予想しながらも、目を逸らすことができなかった。
七色の狼とシズさんが擦れ違う。
ガラスの割れたような音がして、真っ白な光と共に何かが宙を舞った。
手だった。
さっき握手したばかりの手が、玩具か何か投げたみたいに──
グォォォと獣の啼く音がして、また地面が揺れた。
これまで直線的だったニノさんの動きも激しくなる。
シズさんのことを嘆く間も無く、次が始まる。
(……うそ、でしょ)
あの恐ろしい黒い獣が、次々と空から現れている。
私達の真上に、あるいは進行方向に、雨でも降らすかのように──
「ハル! 歯を食い縛りなさい!」
ニノさんが叫ぶ。
瞬間、私達は宙に浮いた。
最初、ニノさんが跳躍したのかと思った。
しかし眩い程の星空はどんどん遠くなる。
私は首をひねって、自分が落ちていることを理解した。
「離れないで!」
ニノさんが私を抱き締める。
私も震える両手に力を込めて、彼女にしがみついた。






