EP 9
共闘! ロックバイソンと元借金取りの覚悟
オーガの盗賊団を一方的に壊滅させた英一とマミユは、本来の目的である「レッドオーガの革」を求めて岩場をさらに奥へと進んでいた。
すると、前方から激しい金属音と獣の咆哮が聞こえてきた。
「誰か戦っているみたいですわ!」
英一のミニマップにも、巨大な赤いマーカーと、黄色いマーカーが交差して点滅しているのが映っている。
岩陰から覗き込むと、そこにいたのは岩のように硬い皮膚を持つ巨大な野牛――ロックバイソンだった。
そして、その巨体とたった一人で対峙しているのは、巨大な両手斧を振るう熊耳の獣人だった。
「あっ! ラウスさん!」
マミユが声を上げる。かつて工房に借金の取り立てに来た、あのゴロツキだ。
ラウスは英一に借金を一括返済されたことで悪徳ギルドを解雇され、家族を養うために命がけで魔物狩りをしていたのだ。
「負けられるかぁっ! 俺は、母ちゃん達のためにもよぉ……お前を倒すんだよ!」
ラウスは渾身の力を込めてロックバイソンに斬りかかる。
しかし、ガギィン!と甲高い音を立てて、彼の両手斧は分厚い角に弾き返されてしまった。
「あ……っ!」
体勢を崩したラウスに、ロックバイソンはその巨大な角を突き出し、必殺の突撃体勢に入った。絶体絶命だ。
「ラウスさんが危ない!」
マミユが悲鳴を上げる。
かつての敵。自業自得の末路。
現実世界の英一なら、冷笑して見捨てていただろう。
だが、家族のために必死に足掻くその姿を前に、最強のプレイヤースキルを持つ彼が「見捨てる」という選択を取るはずがなかった。
「……前衛としての根性は、悪くない」
英一は虚空から巨大なハンドガン――デザートイーグルを抜き放つと、迷うことなくロックバイソンへ向けて引き金を引いた。
バァンッ!
轟音と共に放たれた大口径の弾丸は、突進しようとしたロックバイソンの後ろ脚の腱を寸分違わず撃ち抜いた。
「グモォォォッ!?」
強靭な筋肉が断裂し、ロックバイソンは悲鳴を上げて前のめりに転倒する。
「な、何だ!?」
突如として魔獣が崩れ落ちたことに驚くラウスに、高台から英一の鋭い声が飛んだ。
「隙だらけだぞ! そこで寝てるつもりか!」
「え……英一!? マミユちゃん!?」
「今だ! やれ!」
英一の檄に、ラウスはハッと我に返り、闘気を両手斧の刃に集中させた。
「おおおおおっ!!」
渾身の一撃が、転倒したロックバイソンの首筋に深々と叩き込まれる。
ゴキリ、と骨が砕ける嫌な音と共に、ロックバイソンは地響きを立てて崩れ落ち、完全に沈黙した。
「はぁ……はぁ……」
ラウスは肩で息をしながら、信じられないものを見る目で英一とマミユを見上げた。
自分は、彼らを借金で苦しめた悪党だ。見捨てられて当然の人間だ。
「ど、どうして俺を……?」
「勘違いするな。お前が家族のために必死に武器を振るったから、手を貸しただけだ」
英一はデザートイーグルをしまいながら、淡々と告げた。
その言葉に、ラウスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。それは恐怖でも悔しさでもない。己の過去を恥じ、人の温かさに触れた感謝の涙だった。
「マミユちゃんから金を取り立てようとした俺を……あんたたちは……!」
英一は、泣き崩れるラウスを見下ろしながら、ある考えを巡らせていた。
これからマミユと二人で工房を大きくしていくなら、素材集めや防衛を担う「頑強な前衛」が絶対に必要になる。
「ラウス。借金取りはクビになったんだろ?」
「あ、ああ……」
「なら、俺たちの工房で働け。家族を養うための金なら、俺たちがいくらでも稼がせてやる。その代わり、お前のその力でマミユと工房を守れ」
その言葉に、ラウスは弾かれたように顔を上げた。
「お、俺なんかを、雇ってくれるってのか……!?」
「お前の腕っぷしと、家族を守ろうとする覚悟を見込んでのスカウトだ。どうする?」
「……やる! やらせてくれ! あんたたちのためなら、この命、喜んで張らせてもらうぜ!」
ラウスは地面に額をこすりつけるようにして、深く頭を下げた。
その瞬間、英一の視界の隅で、ラウスの頭上に浮かんでいた黄色いマーカーが、眩いばかりの青色(絶対的信頼と忠誠)へと変化した。
(……これで、頼もしい前衛の確保完了だ)
かつての敵すらも、その圧倒的な実力と器の大きさで完全に屈服させ、味方に引き入れる。
「神眼のエイイチ」が率いる最強のパーティーが、ここに産声を上げた。
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