EP 8
無慈悲な狙撃と、救済の証明
ズドォォォォンッ!!
静寂に包まれた岩場エリアに、世界が破裂したかのような轟音が響き渡った。
英一の構えた『M82A1』から放たれた12.7mm徹甲弾は、岩陰に隠れ、街道の商隊を待ち伏せしていたオーガの顔面を正確に捉え、スイカのように木っ端微塵に吹き飛ばした。
「グギャッ!?」
突如として仲間の頭部が消失し、オーガたちがパニックに陥って立ち上がる。
だが、それこそが英一の狙いだった。隠れていた的が、自ら姿を晒してくれたのだから。
「次」
英一は冷徹に呟き、一切の無駄がない動作で次弾を送り込む。
ズドンッ! ズドンッ!
立て続けに轟音が鳴り響く。
盾で防ごうとしたオーガは、分厚い鋼の盾ごと上半身を消し飛ばされた。
恐怖に駆られて逃げ出そうとした個体は、背中から撃ち抜かれ、地面に無残な肉塊をぶちまける。
圧倒的。ただ一方的な蹂躙。
魔法の詠唱もなければ、剣の打ち合いもない。英一は安全な高台から、虫を駆除するような冷徹さで、十数体のオーガの群れを数十秒で全滅させた。
硝煙の匂いが立ち込める中、岩場に完全な静寂が戻った。
「……」
マミユは、その場にへたり込んだまま、わなわなと震えていた。
騎士の誉れも、戦士の駆け引きもない。ただ、圧倒的な暴力が命をゴミのように消し去っていく光景。
「え……栄一、さん……」
マミユの声は、微かに震えていた。
「どうして……討伐対象でもないのに、無闇に命を奪って……」
マミユの目に、英一の非情な殲滅劇は「不必要な殺戮」に映ったのだろう。彼女の怯えは、平和な街で暮らすドワーフの少女としては当然の反応だった。
以前の英一なら、他人の顔色を窺って言い訳をしていただろう。だが、今の彼は違う。
「マミユ。あそこを見てみろ」
英一はライフルを下ろし、街道の奥を指さした。
そこには、オーガの死骸の山に驚き、立ちすくんでいる商隊の姿があった。荷馬車には、多くの商人や、怯えた様子で母親にしがみつく小さな子供たちの姿が見える。
「あ、あれは……!」
マミユがハッと息を呑む。
「あいつらはただ徘徊していたわけじゃない。あそこに隠れ、あの商隊を血祭りにあげようと待ち伏せ(アンブッシュ)していたんだ。俺が撃たなければ、あの子供たちは今頃、オーガの胃袋の中だった」
英一の言葉に、マミユの顔からスッと血の気が引いた。
さらに、商隊の護衛戦士たちが恐る恐るオーガの死骸に近づき、大声を上げた。
「お、おい! こいつらの腕の刺青……近隣の村を滅ぼした凶悪なオーガの盗賊団だぞ!」
「あそこを見ろ! 荷物の中に、スタラントの街の防衛図がある! 奴ら、この商隊を襲った後、私たちの街を奇襲するつもりだったんだ!」
商人たちの叫び声が、風に乗ってマミユの耳にも届いた。
スタラントの街を。自分の故郷を、この化け物たちが狙っていた。
もし英一が「依頼対象外だから」と見過ごしていれば、商隊は全滅し、スタラントは火の海になっていたのだ。
「そんな……アタシ、何も気づかずに、英一さんを止めようと……」
マミユは自分の浅はかさを恥じ、両手で口を覆った。
商隊の人々が、高台に立つ英一の姿に気づき、涙を流しながらその場にひざまずき、深く、深く頭を下げるのが見えた。
「――敵は敵だ。だから、倒した」
英一は冷たい風に吹かれながら、静かに告げた。
「俺は聖人君子じゃない。だが、お前の故郷を脅かす敵を、見逃すつもりもない」
その横顔は、血も涙もない殺戮者などではない。
泥を被ることを恐れず、人知れず街と人々を救い、背中で語る「真の英雄」の姿だった。
その瞬間、英一の視界の隅で、マミユの頭上に浮かぶ青いマーカーが、今まで見たこともないほど眩く、太陽のような熱を帯びた輝きを放った。
絶対の信頼。揺るぎない全肯定の証。
「英一さん……っ!」
マミユは立ち上がると、英一の胸に飛び込み、その背中にぎゅっとしがみついた。
「ごめんなさい……アタシ、英一さんの本当の優しさと、覚悟に気づかずに……!」
「ばか、泣くなよ。鼻水が服につくだろ」
「ありがとうございます……! 商隊の人たちを、私たちの街を、救ってくれて……あなたはやっぱり、アタシの英雄ですわ……!」
ヒロインからの絶対的な肯定と、周囲からの称賛。
理不尽なストレスなど、この「神眼のエイイチ」には一切通用しない。
英一はマミユの頭を優しく撫でながら、改めて岩場の奥――本来の目的であるレッドオーガの生息地へと視線を向けた。
「さて、人助けはこれくらいにして……本命の『素材狩り』といくか」
異世界における彼の無双劇は、いよいよ本格的な牙を剥こうとしていた。
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