EP 7
ギルド登録と、死角からの奇襲感知
「ドワーフ鋼は工房の在庫で何とかなりますけど……衝撃を吸収する柔軟な素材として、『レッドオーガのなめし革』がどうしても必要ですわ」
翌朝、工房のテーブルに広げたコンバットアーマーの設計図を前に、マミユが唸り声を上げた。
「レッドオーガ? じゃあ、森に行って倒して持ってくればいいんじゃないか?」
英一が愛用のハンドガンを布で磨きながら、こともなげに言う。
「そう簡単にはいきませんの!」
マミユはぷうっと頬を膨らませた。
「レッドオーガは、普通のホブゴブリンなんかよりずっと凶暴なCランクモンスターですわ。それに……どうせ討伐するなら、冒険者ギルドを通して依頼を受けた方が、達成報酬も素材の買い取りもお得なんですのよ!」
「へえ、そういうもんなのか。分かった」
面倒事は嫌いだが、マミユの提案には合理的なメリットがある。英一は素直に頷いた。
◇
二人は活気に満ちた冒険者ギルド『ラックギオン』の扉を開けた。
屈強な戦士や魔法使いが行き交う武骨な空間。マミユは真っ直ぐに受付カウンターへと向かう。
「スミルさん! お久しぶりですわ!」
カウンターにいた牛耳族の受付嬢・スミルが、優しげな笑顔で迎えた。
「あら、マミユちゃん。珍しいわね。今日は何の用かしら?」
「はいですの! この英一さんの冒険者登録をお願いしたくて。それから、レッドオーガの討伐依頼を受けたいんですの!」
「レ、レッドオーガ!? 本気で言ってるの? ベテランのCランクパーティでも苦戦する相手よ?」
スミルの言葉に、奥から顔に大きな傷跡を持つギルドマスター・ダグドが姿を現した。
「ほう。新入りがレッドオーガ討伐たぁ、随分と威勢がいいな」
ダグドの鋭い視線が英一を値踏みする。
「彼にはアタシたちの技術の粋を集めた、最新式の『魔砲』がありますの! どんな魔物も一撃ですわ!」
マミユが、英一の現代兵器をドワーフの技術と偽って堂々と大ボラを吹く。
「魔砲、ね。面白い。だが、実績のない者に高いランクは与えられん。まずは一番下のEランクからだ。それでもやるか、坊主?」
「ランクなんてどうでもいい。標的の場所だけ教えてくれ」
英一の淀みない、一切の怯えを持たない返答に、ダグドはフッと口角を上げた。
「いいだろう。討伐場所はスタラントの東にある岩場エリアだ。死ぬなよ」
◇
街を抜け、英一とマミユは東の岩場エリアへと足を踏み入れていた。
ゴツゴツとした巨大な岩が林立し、見通しの悪い荒涼とした地帯だ。
「いよいよですわね……!」
マミユがごくりと唾を飲み込み、緊張した面持ちで周囲を警戒する。
一方の英一は、涼しい顔で歩みを進めていた。
彼の視界の右上には、常に完全な索敵情報をもたらす「ミニマップ」が展開されている。
「……ん?」
ふと、英一は足を止めた。
ミニマップの端、街道沿いの深い岩陰に、赤い菱形マーカーが十数個、密集して点滅しているのを確認したのだ。
さらにその先、街道をゆっくりと進んでくる青色のマーカー(非戦闘員の市民や商隊)の群れがある。
「マミユ。この岩場の向こう側、街道沿いにオーガの群れがいるな」
「え? 英一さん、あれは……確かにオーガですが、討伐対象の『レッドオーガ』じゃありませんわ!」
岩陰からこっそりと覗き込んだマミユが、慌てて英一の袖を引いた。
「あいつらは依頼対象外ですわ! 無理に手を出したら危険です。見つからないように迂回しましょう!」
だが、英一は動かなかった。
彼の「神眼」は、オーガたちの不自然な動きを正確に見抜いていた。
「いや、違う。あいつらはただ徘徊してるんじゃない。武器を隠して、息を潜めてる」
彼らは街道の死角に陣取り、近づいてくる商隊を『待ち伏せ(アンブッシュ)』しているのだ。
このまま見過ごせば、数分後には商隊が血祭りにあげられる。
現実世界なら「自分には関係ない」と目を背けていただろう。
だが、この異世界において、彼の手にはあらゆる理不尽を粉砕できる圧倒的な「力」がある。
英一はマミユの制止を静かに振りほどき、虚空から漆黒の対物ライフル『M82A1』を召喚した。
ずしりとした重みが、彼の戦士としてのスイッチを入れる。
「え、英一さん!?」
「マミユ、ここで見てろ」
英一はボルトを引き、冷徹なスナイパーの眼差しで岩陰のオーガたちに銃口を向けた。
「狩られる前に、狩る。――それが、俺のルールだ」
一切の慈悲を持たない、死神の宣告。
神眼のエイイチによる、圧倒的で一方的な殲滅戦が、今始まろうとしていた。
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