EP 10
ギルドマスターの特例昇級と、青に染まる食卓
レッドオーガの素材と、オーガ盗賊団の証拠品を回収した英一たちは、夕暮れのスタラントの街へ帰還した。
活気に満ちた冒険者ギルド『ラックギオン』の扉を開けると、受付嬢のスミルが目を丸くして迎えた。
「えっ、もう帰ってきたの!? いくら何でも早すぎるわよ……それに、ラウスさんまで一緒なんて」
「えへへ、色々とありまして! はい、これ討伐証明部位と素材ですわ!」
マミユが魔法ポーチからドサドサとカウンターに戦利品を積み上げていく。
レッドオーガの巨大な角と上質な革。そこまではスミルも驚きつつ受け取っていたが、続いて出てきた「オーガの盗賊団の証拠品(刺青の入った腕甲や特殊な武器)」を見た瞬間、ギルド内の空気が一変した。
「――おい。スミル、ちょっと退いてろ」
騒ぎを聞きつけ、顔に大きな傷跡を持つギルドマスター・ダグドが奥から姿を現した。
ダグドはカウンターに置かれた盗賊団の品々を手に取ると、鋭い眼光を極限まで見開いた。
「この紋章……間違いない。先日、近隣の村を滅ぼした凶悪なオーガ盗賊団の別働隊だ。お前ら、これをどこで手に入れた?」
「街道沿いの岩場で、商隊を待ち伏せしていたので……俺が全て殲滅しました」
英一が淡々と事実を告げると、ダグドはワナワナと震える手で英一の両肩を力強く掴んだ。
かつての引きこもりだった英一なら怯えていたかもしれないが、今の彼は微動だにせず、ギルドマスターの目を真っ直ぐに見据え返した。
「……お前、自分がどれだけとんでもないことをしでかしたか分かってるのか」
ダグドは深く息を吸い込み、ギルド中に響き渡る大声で叫んだ。
「お前は、商隊の命を救い、このスタラントの街を火の海から救ったんだぞ!! ギルドを代表して礼を言わせろ。お前は街の英雄だ!!」
ダグドが深々と頭を下げるのを見て、ギルド中の冒険者たちから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「Eランクなんてとんでもねえ! お前ほどの規格外の実力と功績を持つ男を底辺に置くわけにはいかねえ。今日付けで、特例としてお前たちを『Cランク』に一気昇級させる! さらに、街からの特別報奨金として金貨500枚だ!」
「き、金貨500枚!?」
マミユが驚喜の声を上げ、英一に抱きつく。
理不尽な評価など、ここには一切存在しない。圧倒的な実力は、圧倒的な称賛と対価をもって報われる。それがこの異世界における「神眼のエイイチ」の絶対法則だった。
◇
ギルドで熱烈な称賛を浴びた後、三人は長屋にあるラウスの家へと向かった。
「俺に誇りある仕事までくれちまって……。せめて、俺の家族に恩人を直接紹介させてくれ。うちの母ちゃんの飯をご馳走するぜ」
長屋のドアを開けると、娘のムーナが「お父さん、お帰りなさーい!」とぱたぱたと足音を立てて駆け寄り、ラウスの太い足にぎゅっと抱きついた。
キッチンからは、勝ち気で美しい熊耳族の女性――妻のマナマが顔を出す。
ラウスから事の顛末を聞いたマナマは、英一の手を両手で強く握りしめた。
「ありがとう……! この人が借金取りなんてろくでもない仕事をしてて、アタシもずっと胸を痛めてたんだ。あんたたちは、夫の誇りと、私たち家族の未来を救ってくれた大恩人だよ!」
その夜、長屋の小さなテーブルの中央には、鶏肉や野菜がたっぷり入った鍋が、湯気を立ててぐつぐつと煮えていた。
「さあさあ、遠慮せずにたんとお食べ!」
皆で一つの鍋をつつき合う。
英一がふと視界の端に目をやると、マナマとムーナの頭上に浮かんでいたマーカーが、暖かく鮮やかな「青色」へと発光し、定着していくのが見えた。
敵対や警戒を示す赤や黄色のマーカーは、この部屋にはもう一つも存在しない。
ここにあるのは、英一の実力と器の大きさに惹きつけられ、絶対の信頼を寄せる「真の仲間たち(青マーカー)」だけだ。
「……旨い、な」
「だろ? 皆で食う飯は、格別に旨いんだ。これがよ」
「本当ですわ! 温かくて、とっても美味しいです!」
熱い鍋を頬張りながら、英一は異世界で手に入れた「最高の居場所」の温もりを噛み締めていた。
最強の武力、最高の頭脳、そして絶対の信頼で結ばれた仲間たち。
全ての準備は整った。
明日から、英一とマミユによる「常識を覆す兵器開発」が、ついに本格始動する。
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