EP 5
金貨400枚の絶対的評価と、借金取りへの逆襲
英一の完璧な温度管理と配合比率の指示により、マミユのハンマーはかつてないほどの精度で鋼を鍛え上げていった。
数日後、工房の作業台には、20本の長剣がずらりと並べられていた。どれも吸い込まれるような深い輝きと、完璧な刃文を放っている。
「ふふふ、これだけあれば、借金なんてすぐに返せますわ!」
マミユは完成した剣をうっとりと眺めながら、自信満々に胸を張った。
「さっさと売り払いに行こうぜ」
二人は完成した剣を荷車に積み、スタラントの街で一番の品揃えを誇る武器屋「ミスリルの牙」へと向かった。
◇
「お、マミユちゃんじゃないか。久しぶりだな」
壁一面に武骨な武器が飾られた店内で、犬の耳をぴこぴこと動かした大柄な店主・バントクが顔を上げた。彼の頭上には、警戒も信頼もしていない「黄色」のマーカーが浮かんでいる。
「ごきげんよう、バントクさん! 今日は最高の品物を持ってきましたわ!」
マミユの言葉に、バントクは「どれどれ」と少し甘い目で検分を始めた。だが、剣を一本手に取った瞬間、彼の表情が一変した。
「なっ……!?」
バントクは剣を光にかざし、重心を確かめ、刃を指でそっと撫でる。その目が、驚愕に見開かれていく。
「す、凄い……! 何だ、この剣は!? この完璧な重心バランス、尋常じゃない刃の硬度と粘り……ありえねえ! こんな剣、俺の長年の人生でも見たことがねえぞ!」
異世界のプロの武器屋ですら、英一の工業知識が生み出した「常識外れの鋼」の前に圧倒されていた。
「よし! 分かった!」
バントクは興奮した様子で、カウンターを乗り出すように叫んだ。
「この剣、一本20金貨でどうだ!? ここにある20本、全部買う! 合計で金貨400枚だ!」
「「き、金貨400枚!?」」
借金の額である金貨100枚の、実に4倍。想像を絶する金額に、マミユは飛び上がって喜んだ。
「商談成立だ! いやー、しかし驚いたぜ。こんな凄え剣を、マミユちゃんが一人で……?」
マミユはぶんぶんと首を横に振り、隣の英一を示した。
「アタシ一人じゃありませんの。そこにいる、英一さんがその凄まじい知識で製法を導いてくれたんですわ」
バントクの視線が、英一に向けられる。今度は値踏みするような目ではない。圧倒的な技術を持つ「本物の職人」に対する、深い尊敬の眼差しだった。
「英一さん、か。あんた、とんでもねえ職人なんだな。これからも最高の品を頼むぜ!」
バントクがニカッと笑い、分厚い手を差し出した。その瞬間、彼の頭上にあった黄色いマーカーが、鮮やかな青色(絶対の信頼)へと変化する。
実力で相手を認めさせる。英一は不敵に笑い、その手を力強く握り返した。
◇
工房に戻った二人は、ずっしりと重い金貨の袋をテーブルの上に置いた。
その直後だった。
ドンドンッドンッ!
工房の扉が乱暴に叩かれる。
「おい、マミユ! 開けろ!」
かつて英一が初めてこの工房を訪れた時に現れた、あの借金取りのダミ声だった。
扉を開けると、熊耳の獣人・ラウスが不躾に踏み込んできた。
「分かってんだろ? 金は用意できたんだろうな。できなけりゃ、今度こそこの工房は俺がもらうぜ」
ラウスは下劣な笑みを浮かべ、マミユを見下ろした。
以前の英一なら、ただ縮こまっていたかもしれない。だが、圧倒的な資金と武力を手に入れた今の彼にとって、目の前のゴロツキなど路傍の石に等しい。
英一は冷たい瞳でラウスを一瞥すると、テーブルの上にあった革袋の一つを、ラウスの胸元へ向けて無造作に放り投げた。
「ぐおっ! な、何しやがる!」
ずしりと重い革袋を受け止めたラウスは、戸惑いながら中身を確認した。
チャリン、と重々しい音を立てて、革袋からまばゆい黄金の光が溢れ出す。
「な、何ぃ!? バカな、てめえらにこんな大金が用意できるわけ……!」
ラウスの顔が、驚愕と信じられないものを見る色に染まった。
「約束の、金貨100枚だ。数えろよ」
英一は腕を組み、冷徹な声で言い放った。
「借金は全額返した。これでこの工房は、完全にマミユのものだ。二度と俺たちの前にツラを見せるな」
「くっ……!」
圧倒的な結果を突きつけられ、ラウスは忌々しげに舌打ちするしかなかった。彼は何も言い返せず、逃げるように工房を去って行った。
パタン、と扉が閉まる。
最大の懸案事項だった理不尽な借金が、英一の力によって一瞬で消え去ったのだ。
「英一さん……やりましたわ!」
マミユが満面の笑みを浮かべて飛びついてくる。
「ああ。こんなもん、俺たちの力があれば余裕だ」
過去との決別を果たし、莫大な資金と最強の技術を手に入れた英一。
彼の異世界無双経営は、ここからさらに加速していく。
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