EP 4
工業知識無双〜異世界の常識を覆す最強の鋼〜
その夜から、英一は「マミユの工房」の元・職員用の部屋に寝泊まりすることになった。
殺風景な部屋だが、親の冷たい視線や妹の溜息に晒されていた実家の自室よりも、彼にとっては遥かに居心地の良い空間だった。
翌朝、二階のリビングで、英一はマミユが大事そうに広げた古いノートを覗き込んでいた。
「これが、お父様が遺してくれた秘伝の設計図と配合メモですわ。この鉄鉱石を使って最高の剣を作り上げれば……時間はかかりますけど、何とか金貨100枚になるはずですの!」
マミユは自信満々に胸を張るが、そのメモを一読した英一は、思わず眉をひそめた。
(……なんだこれ。熱効率が悪すぎるし、炭素の配合量もデタラメだぞ)
「マミユ。悪いがこの仕組みだと……炉の熱効率が悪すぎる。それに、この炭素の配合量じゃあ、鋼は硬くなるだけで衝撃に弱く、すぐに折れる脆い剣になっちまうぞ」
英一の容赦ない指摘に、マミユは目を丸くした。
「えっ……? で、でも、これはドワーフの伝統的な製法で……」
「ドワーフの勘頼みじゃダメだ。俺のいた世界の『教科書』には、もっと完璧な正解が載ってた」
英一の脳内には、工業高校で嫌というほど叩き込まれた冶金学と材料工学の知識が鮮明に浮かび上がっていた。
現実世界では「就職から逃げ出したニート」の彼にとって無用の長物でしかなかったその知識が、今、異世界で最強の武器を生み出すための「チートコード」へと変貌を遂げようとしていた。
「俺の言う通りに配合してくれ。少ない燃料でも炉の温度は極限まで上がるし、絶対に折れない『粘り強い鋼』ができるはずだ」
英一の瞳には、FPSで戦場を支配する時と同じ、絶対的な自信の光が宿っていた。
「え!? ……わ、分かりましたわ。英一さんがそう仰るなら……!」
マミユは半信半疑ながらも、彼が放つ圧倒的な強者のオーラに惹きつけられるようにコクリと頷いた。
二人の、前代未聞の共同作業が始まった。
「今だ、送風口を開け! 空気量を限界まで絞り込め!」
英一は炉に投入する燃料と酸素の量を、科学的根拠に基づき厳密にコントロールする。
「マミユ、ハンマーだ! 次はもっと冷却を急げ! 焼きなましの温度が足りない!」
「は、はいっ!」
飛び交う的確な指示。燃え盛る炉の熱気。火花を散らしながら、カン、カン、と響き渡るリズミカルな鎚音。
最初は戸惑っていたマミユも、英一の指示通りに鋼を打つうち、その明らかな「違い」を肌で感じ取っていた。
彼女の職人としての確かな腕と、英一の持つ異世界の科学知識が、燃え盛る炉の中で完璧な融合を果たしていく。
そして、一本の長剣が完成した。
焼き入れを終え、研ぎ澄まされたその剣は、マミユが今まで作ってきたどの武器とも次元の違う深い輝きを放っていた。
刀身には、まるで水面のような美しい刃文が浮かび上がっている。
「凄い……」
マミユは自分の手が生み出した奇跡に、わなわなと震えていた。
「試し斬りしてみようぜ」
英一は剣を受け取ると、工房の隅に無造作に置かれていた分厚い鉄の塊に狙いを定めた。
腰の入った鋭いスイングで、長剣を一閃する。
――スパッ。
甲高い金属音すら鳴らなかった。
今までなら確実に刃こぼれし、弾き返されていたはずの巨大な鉄塊が、まるで柔らかい豆腐のように、音もなく真っ二つに両断されたのだ。
「今までの剣と、切れ味が……全然違いますわ……!」
マミユは両手で口を覆い、信じられないものを見る目で両断された鉄塊と、無傷で輝き続ける長剣を交互に見つめた。
尊敬する父の教えを、目の前の少年がたった一日で、あっさりと凌駕してしまった。
彼女の視界に映る英一は、凄腕の狙撃手であるだけでなく、ドワーフすら到達できない神の知識を持つ、真の英雄だった。英一への絶対的な信頼を示すかのように、彼女の頭上に浮かぶ青いマーカーがさらに強く、熱を帯びたように輝く。
「これなら……これなら絶対に勝てますわ! スタラントの、他のどの工房の剣にも負けません!」
マミユは、キラキラと輝く瞳で英一を見上げた。
「ありがとうございます、英一さん! アタシたちの力なら、借金なんてすぐに返せますわ!」
「……ああ。俺たちの知識と技術があれば、こんな世界、余裕で無双できるさ」
英一は涼しい顔で刀身を鞘に納めた。
異世界で自らの知識が絶対的な価値を持ち、目の前でヒロインが歓喜の声を上げている。
それは、ゲームでランキング1位を獲得した時よりも、遥かに熱く、確かな全能感だった。
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