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『FPS世界1位の引きこもり、異世界で赤マーカーを撃ち抜く』   作者: 月神世一


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3/20

EP 3

温かい肉団子と、没落工房の借金

マミユの案内で森を抜け、英一はゼルセル帝国の辺境都市・スタラントへと足を踏み入れた。

石畳の道に、木とレンガでできた家々。スパイスの香りが漂う市場の喧騒に、行き交う獣人族たちの姿。

それは、ファンタジーゲームそのものの光景だった。

「やぁ、マミユちゃん。無事に帰ったかい」

街の門に立っていた熊のように大柄な警備兵・ゴードンが、気さくに声をかけてきた。

だが、その視線がマミユの後ろを歩く英一に向けられた瞬間、警備兵の顔に明らかな緊張が走った。

「……マミユちゃん、後ろの男は誰だ? 見ない顔だが。その物々しい装備……どこの傭兵団の者か?」

ゴードンが鋭い視線を向ける。

かつての引きこもりだった英一なら、ここで萎縮していただろう。だが、今の彼は違う。

英一は無言のまま、ヘルメットの奥から冷徹なスナイパーの眼差しで警備兵を見据え返した。

「ッ……!」

言葉を発することなく放たれたトッププレイヤー特有のプレッシャーに、屈強な警備兵が思わず一歩後ずさり、喉を鳴らす。

「待ってくださいまし、ゴードンさん! この人は怪しい人じゃありませんの!」

マミユが、誇らしげに英一の前に立って胸を張った。

「さっき、ホブゴブリンの群れに襲われていたアタシを、一瞬で助けてくださった命の恩人ですのよ!」

「ホ、ホブゴブリンの群れを? こいつが、たった一人でか……!?」

「ええ! アタシの英雄様ですわ!」

疑念が畏怖へと変わった警備兵を尻目に、英一はマミユに導かれるまま、街の奥へと進んでいった。

◇

案内されたのは「マミユの工房」という看板が掲げられた、体育館のように巨大な石造りの建物だった。

「お、大きい……」

「昔は……お父様のお弟子さんが、たくさんいましたから」

少し寂しげに笑うマミユ。大勢の職人がいたであろう工房は、今は火の消えた暖炉が静かに佇むだけで、がらんとしていた。

「えっと、お茶を出しますね! どうか、ゆっくりしててくださいまし!」

マミユは二階のリビングに英一を通すと、キッチンへと向かった。

やがて、湯気の立つマグカップと、大皿に山盛りにされた肉団子が運ばれてくる。甘辛い、食欲をそそる香りが英一の鼻腔をくすぐった。

「はい、薬草茶と、アタシ特製の肉団子ですわ。たくさん食べてくださいな!」

勧められるまま、英一は肉団子を一つ口に運んだ。

噛んだ瞬間、じゅわっと溢れる熱い肉汁と、しっかりとした味付け。

「――っ! う、旨いっ……!」

無我夢中で肉団子を頬張る。

現実世界では親から「金食い虫」と罵られ、自室で菓子パンをかじるのが日常だった。温かい手料理を、誰かが自分のために振る舞ってくれるなど、いつ以来だろうか。

「久しぶりの……まともな食事だ……」

「久しぶり?……あの、もし差し支えなければ、英一さんのことを聞いてもよろしいかしら?」

マミユの真っ直ぐな瞳に、英一は嘘をつく気になれなかった。

彼は食事の手を止め、「ニホン」という遠い場所から来たこと、死の淵で「女神アクア」に出会い、この世界へ送られたことを淡々と語った。

「なるほどですわ! つまり英一さんは、遥か異国『ニホン』から、女神アクア様によって召喚され、ユニークスキルを授かった勇者様なのですわね!」

マミユの青い瞳が、尊敬と確信の光でキラキラと輝き始めた。

視界の端のミニマップでは、彼女の頭上に浮かぶ青マーカー(絶対的信頼)が、さらに強く発光している。

(まあ、それで納得してくれるなら、いっか……)

英一はあえて否定せず、マグカップの温もりを静かに味わっていた。

その和やかな空気を破壊する者がいた。

ドンドンッ!

工房の頑丈な扉が、破壊されんばかりの勢いで叩かれた。

「おい、マミユ! いるのは分かってんだぞ! 開けろ!」

地の底から響くようなダミ声。

マミユの顔からサッと血の気が引き、彼女は震える足で扉へと向かった。

開かれた扉の先には、熊のように巨大な獣人族の男が立っていた。分厚い筋肉に、獲物を追い詰める捕食者のような鋭い眼光。

「ラウスさん……」

「おい、いつまで待たせるんだ? 今日中に金貨100枚、用意するって話だったよな。できなけりゃ、この工房は売り渡してもらうぜ」

熊耳の男――ラウスは、土足で工房に踏み込み、嘲笑うように告げた。

「そ、そんな!? 約束は一ヶ月後のはずですわ!」

「うるせえな! どうせ用意できねえ甲斐性なしだろうが!」

マミユの瞳に悔し涙が浮かぶ。それでも彼女は、気丈に言い返した。

「お断りします! ここは、お父様が残してくれた大事な工房ですもの! 絶対に、誰にも渡しませんわ!」

英一は、テーブルの椅子に深く腰掛けたまま、その一部始終を静かに見つめていた。

彼の視界に映るHUD(ヘッドアップディスプレイ)には、ラウスを示すマーカーが「黄色(警戒対象)」で表示されている。

(なるほど。借金の取り立てか)

ラウスが、テーブルに座ったまま動かない英一の存在に気づき、威圧的に睨みつけてきた。

だが、英一は一切の動揺を見せず、ただ冷たく凪いだ瞳でラウスを見据え返した。

――ピリッ。

空間の温度が急激に下がったかのような錯覚。

ラウスは、獲物を威嚇するはずが、逆に巨大な肉食獣に喉笛を狙われているような、本能的な悪寒を感じて背筋を粟立たせた。

「……ケッ、威勢のいいこった。まあいい、また来るぜ」

得体の知れない英一のプレッシャーに気圧されたラウスは、忌々しげに捨て台詞を吐き、足早に工房を去っていった。

パタン、と扉が閉まると、張り詰めていた糸が切れたように、マミユはその場にへなへなと座り込んだ。

「うぅ……お父さんが亡くなった時、借金が残ってしまって……。アタシが何とかやりくりしてたんですけど、金貨100枚なんて大金、とても……」

俯くマミユの小さな肩が、震えていた。

現実世界の英一なら、他人のトラブルなど見て見ぬふりをしていただろう。社会に馴染めず、ただ部屋に引きこもっていた自分。

だが、目の前のこの少女は、見ず知らずの自分に温かい食事と、絶対の信頼をくれた。

英一は、ゆっくりと立ち上がった。

そして、泣き崩れるマミユの前に歩み寄り、静かに、しかしはっきりとした口調で告げた。

「お前は、一人じゃない」

「英一さん……?」

涙で濡れたマミユが、驚いたように顔を上げる。

「まだ、一ヶ月あるんだろ? 俺に任せろ」

「で、でも、そんな! 英一さんにご迷惑なんて……」

「迷惑じゃない。美味しいご飯のお礼だ」

英一は、工房の奥にある巨大な炉と工具の山を見つめた。

「これでも、メカや金属を弄るのはプロ級なんだ。二人でやれば、金貨100枚くらいすぐに稼げるさ」

その真っ直ぐで自信に満ちた言葉に、マミユの青い瞳から、今度は温かい大粒の涙がこぼれ落ちた。

「……英一さんっ。ありがとう……ございますっ!」

引きこもりだった少年が、異世界で初めて、自らの意志で誰かを守るために立ち上がった。

女神に与えられたFPSスキルと、彼自身の工業知識が交わる時、この世界の常識を覆すモノづくりが幕を開けようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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