EP 18
エルフのお持ち帰りと、量産体制の確立〜最強工房の完成〜
神話級の魔獣ケルベロスを、ハンドガンによる至近距離の三連射で瞬殺した英一。
だが、その圧倒的な武功がドワーフの国に知れ渡れば、英雄として国に軟禁されかねない。
「えっと、次はドワーフ鋼! どこですの!?」
「お、おい、これじゃねえか?」
ラウスが、倉庫の入り口に積まれたインゴットの山を指さした。
「これよ、これ! 間違いありませんわ!」
マミユは魔法ポーチを広げ、2000本ものドワーフ鋼を猛烈な勢いで吸い込んでいく。
「よし、回収完了だ。ずらかるぞ」
「当たり前ですわ! さあ、皆さん、ラビット号に乗って!」
三人は、先ほどのケルベロスとの衝突で少しひしゃげたままの『ラビット・グランドマスター』に飛び乗った。
マミユがアクセルを全開にし、キャタピラが激しく土を蹴り上げる。ラビット号は一目散にガルドフの店へと向かった。
◇
店に到着するなり、マミユはカウンターに金貨800枚の入った袋を叩きつけた。
「ガルドフさん! 倉庫の掃除は、終わらせましたわ!」
「え? もう終わったのか!? いくら何でも早すぎだろ!」
驚愕して目を丸くするガルドフに、マミユは一方的にまくし立てる。
「ドワーフ鋼は、確かに頂きましたわよ! それじゃあ!」
「お、おう……」
呆気にとられるガルドフを後に、マミユは再びラビット号に飛び乗ると、ヴォルヘイムの城門から猛スピードで脱出した。
街道を爆走する車内で、三人はようやく安堵のため息をつく。
「ふぅ……。これで、良かったのか?」
「さあな。だが、面倒ごとはごめんだ」
その時、後部座席から、おずおずとした声が上がった。
「あのぉ~……。わたくし、ここにいるんですけど……。このまま、どこへ……?」
メルセスが、困ったような、しかしどこか楽しそうな顔で三人の顔を見つめていた。
「「「あっ」」」
三人の声が綺麗にハモった。
仲間を一人、ヴォルヘイムから拉致してきてしまったことに、彼らは今ようやく気づいたのだ。
「ど、どうすんだよ、マミユちゃん!」
ラウスが小声でマミユに尋ねる。
「え、えっとぉ……英一さん。例の、ピストルを……メルセスさんにお渡しすれば、きっとご満足いただけるはずですわ!」
それはもはや賄賂に近い、苦肉の策だった。
英一はため息を一つつくと、懐から『H&K Mark 23』を取り出した。カチャリ、と手慣れた様子で弾倉を抜き、薬室に残った弾丸を排出する。
安全を確認すると、その鉄の塊を、メルセスにそっと差し出した。
「――きゃあああっ!」
ピストルを受け取った瞬間、メルセスは歓喜の悲鳴を上げた。
「す、素晴らしいですわ! この精巧な作り! この部品と部品が、寸分の狂いもなく組み合わさっている……! なんて合理的な機構ですの! あぁ……よ、よだれが出ちゃいましたわ……」
「あ、あの、メルセスさん……。これで、今回のことは許していただけます、かしら……?」
マミユがおずおずと尋ねるが、メルセスはもう何も聞こえていない。完全に自分の世界に入り込み、一心不乱にピストルを分解し、構造を堪能している。
「……良いみたいだな」
「うん」
後部座席でブツブツと専門用語を呟きながらピストルを愛でるエルフの天才魔工技師を乗せて、ラビット号は一路、スタラントへとひた走った。
◇
数日間の長旅を終え、ラビット・グランドマスターはようやく見慣れたスタラントの街へと帰還した。
工房のガレージに車を停めると、入り口からラウスの妻・マナマがひょっこりと顔を出した。
「おや、帰ってきたのかい? お疲れさん」
「母ちゃん!」
マナマは、手に持っていた羊皮紙の束をマミユに手渡した。
「あんたたちが留守の間、ゼニゲコギルドのゲッコーさんから、『約束のレッドオーガの素材を納品に来た』って、大量の革が届いてるよ。それと、これ。あんたが頼んでた、作業員の履歴書だ。長屋の腕利きに声をかけといたからね」
「ありがとう、ございます……マナマさん……!」
英一は、工房内に高く積まれたレッドオーガの革と、魔法ポーチの中にある2000本のドワーフ鋼、そして新しい作業員たちの履歴書を見つめた。
さらに、工具の山に埋もれながら現代兵器の構造を解析しているエルフの天才・メルセス。
英一(現代の工学知識・コア設計)
マミユ(ドワーフの鍛造技術)
メルセス(エルフの魔工学・最適化)
ラウス(元冒険者の品質チェック・前衛)
マナマ(作業員を束ねる労務管理)
「……完璧だな。これで年間1000着のコンバットアーマーだろうが、魔導戦車だろうが、いくらでも量産できる」
英一が満足げに呟くと、マミユが誇らしげに胸を張った。
最強の生産ラインが、ついに確立した。
だが、彼らが莫大な富と力を持つことは、同時に大陸の巨大企業『ゴルド商会』との、知略を尽くしたビジネスバトルへの突入を意味していた。
「さあ、まずはコンバットアーマーの第一ロットを納品して、俺たちの『価値』を思い知らせてやる」
「神眼のエイイチ」が仕掛ける、規格外の異世界企業経営が本格的に始動する。




