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『FPS世界1位の引きこもり、異世界で赤マーカーを撃ち抜く』   作者: 月神世一


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17/20

EP 17

地獄の番犬と、一瞬の閃光〜神眼が導く最適解〜

「グルオオオオオオオオオッッ!!」

岩場エリアに響き渡る、鼓膜を破らんばかりの咆哮。

ガルムの死骸を吸収し、黒い炎を纏う三つ首の巨大な魔犬――神話級の魔獣『ケルベロス』へと変貌した怪物が、六つの赤い瞳で英一たちを睨みつけていた。

「嘘でしょ……ただの素材集めクエストに、なんであんな神話の化け物が……!」

マミユが操縦席で悲鳴を上げる。

「マミユちゃん、車を出せ! あいつは別格だ!」

砲塔に乗るラウスが叫び、機関砲の掃射を浴びせる。

だが、ケルベロスは巨大な図体に似合わぬ俊敏さで、弾道を見切るようにひらりと回避した。

「……! 死んだガルムの戦闘経験から、俺たちの攻撃パターンを学習したってわけか!」

英一は瞬時に敵の特性を分析する。

ケルベロスは、最大の脅威である『ラビット・グランドマスター』を標的に定め、猛烈な勢いで突進してきた。

「来ますわ!」

マミユが必死にハンドルを切るが、ケルベロスの巨体から放たれた強烈な体当たりが、ラビット号の強靭な装甲を激しく打ち据えた。

「きゃあああっ!」

「うぉぉっ!?」

「いった~い!」

車内で三人の悲鳴が上がる。

横転は免れたものの、車体は大きく弾き飛ばされ、激しい砂埃が巻き上がった。

「マミユ! ラウス! メルセス!」

英一は車から飛び降りると、即座にスナイパーライフル『ゴースト』を構え、ケルベロスを狙撃した。

だが、学習能力を持つケルベロスは、再び射線を読んで紙一重でそれを回避する。

そして、目障りな英一へと標的を変え、その眼前にゆっくりと立ちはだかった。

(近接戦闘(CQC)の距離……スナイパーライフルじゃ取り回しが遅れるな)

「……来いよ」

英一は冷静にライフルを下ろした。

ケルベロスの三つの口が同時に大きく開かれる。

その奥で業火が渦を巻き、全てを灰にする灼熱の火炎放射が英一へと放たれた。

圧倒的な死の熱量。

だが、FPSの「神眼」を持つ英一の世界は、極限の集中力によってスローモーションになっていた。

(右下への回避が最適解だ。……武器切り替え(スイッチ))

英一は地面を転がりながら、紙一重で火炎を回避した。彼がさっきまでいた場所が、高熱で赤く溶けドロドロになっている。

そして、回転の反動を利用して立ち上がると同時に、チュニックの下のホルスターから、サブウェポンである『H&K Mark 23』を抜き放った。

サプレッサーを装着した、特殊部隊用の大型タクティカル・ハンドガン。

至近距離での機動力と取り回しにおいて、これ以上の武器はない。

英一は一切のブレがない完璧な射撃姿勢(スタンス)を取り、引き金を絞った。

バシュッ! バシュッ! バシュッ!

くぐもった発射音が、三度、連続で響き渡った。

魔法の詠唱も、タメも、大仰な予備動作も一切ない。

放たれた.45ACP弾は、ケルベロスの三つの頭の、それぞれの眉間――分厚い頭蓋骨の中で最も脆い急所を、寸分違わず正確に撃ち抜いていた。

「ガ……?」

何が起きたのか理解する間もなく、ケルベロスの三つの頭が同時に跳ね上がる。

その六つの赤い瞳から生命の光が失われ、神話の魔獣は地響きを立てて、力なくその場に崩れ落ちた。

完全なる静寂。

英一は立ち上がり、倒れたケルベロスを冷徹に見下ろしながら、ハンドガンをクルクルと回してホルスターへと納めた。

「ハンドガンへの持ち替え(スイッチ)は、リロードより速いんだよ」

スナイパーである彼にとって、最大の武器はライフルでもピストルでもない。

どんな状況でも一瞬で『最適解』を導き出し、それを実行できる、冷徹なまでの判断力とプレイヤースキルだった。

◇

ケルベロスが倒れた瞬間、張り詰めていた戦場の空気が一気に緩んだ。

「や、やった……やったですわ!」

マミユは歓喜の声を上げると、ラビット号から飛び降り、そのまま英一に駆け寄ってぎゅっと抱きついた。

「英一さん! 今の、すっごく、かっこ良かったですわ!」

「へっ! すげえぜ、お前はよぉ!」

ラウスも興奮した様子で駆け寄り、英一の肩をバンバンと叩く。

「あの三つ首の化け物を、見たこともない小さな武器だけで仕留めちまうとはな!」

そして、車内から這い出してきたメルセスは、倒れたケルベロスよりも、英一の腰のホルスターに熱烈な視線を送っていた。

「それにしても……なんて不思議な武器なんでしょう」

メルセスのエメラルドグリーンの瞳が、技術者としての狂信的な光を帯びている。

「先ほどの長い筒とも違う、片手で扱える極小サイズの機構……なのに、あの神話級の魔獣の頭蓋骨を貫通するほどの運動エネルギーを叩き出すなんて……!」

メルセスがよだれを垂らさんばかりの勢いで英一に迫ろうとした、その時だった。

マミユが周囲の惨状――ガルムの死体の山と、規格外のケルベロスの巨体を見渡し、さっと顔を青くした。

「や、ヤバいですわ……これ……」

「どうしたんだ、マミユ?」

「この死体! こんな大物を狩れる英雄たちが国に滞在しているなんてバレたら、『我が国の軍属になれ!』とドワーフの王様に拘束されて、ずぅぅぅぅっと国から出してもらえなくなりますわよ!」

「あー……。それは、ありえるわねぇ。あのヒゲダルマたちは、強い奴と未知の技術には目が無いもの」

メルセスもやれやれと肩をすくめる。

「面倒事はご免だ。目的の素材だけ回収して、さっさとズラかるぞ」

英一の号令に、マミユは大慌てで魔法ポーチを取り出し、証拠隠滅のためにケルベロスとガルムの死体を猛烈な勢いで回収し始めた。

最強の力を見せつけながらも、権力者には一切縛られない。

彼らの自由で痛快な旅は、さらに予想外の方向へ加速していく。

読んでいただきありがとうございます。

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