EP 16
鉱山倉庫の掃討戦〜神眼の突撃狙撃(凸スナ)〜
メルセスの案内で一行がたどり着いたのは、ヴォルヘイムの商業地区でもひときわ大きく、武骨な「ガルドフ商店」の看板を掲げた巨大な倉庫だった。
中からは、金属と土の匂いが色濃く漂ってくる。
「おやっさーん! いるー?」
メルセスが軽やかな声で呼びかけると、倉庫の奥から地響きのような足音と共に一人のドワーフが現れた。
分厚い筋肉で覆われた体に、床まで届きそうな見事な三つ編みの髭。彼が店主のガルドフだ。
「おぅ、メルセスか。どうせ最高級のミスリル鋼が欲しい、とか言うんだろ? いくら出す?」
「もう、違うわよ! 今日は大事なお客さんを連れてきたの!」
メルセスに促され、マミユが一歩前に進み出て丁寧に頭を下げた。
「初めまして、ガルドフさん。わたくしたち、ドワーフ鋼が欲しいんです。それも、かなりの量を」
ガルドフは鋭い目で英一たちを値踏みするように見つめ、ふむ、と髭をしごいた。
「……有るには有る。山ほどな。だがよ、ドワーフ鋼を保管している古い鉱山の倉庫に、魔物が巣食っちまってよ。そいつらをどうにかしねえことには、在庫を取り出せなくて商売上がったりなんだ」
「ああ、そういえばそうでしたわね。ガルムの群れが居座っているとか……」
メルセスが思い出したように言う。
ガルムとは、岩のような硬い皮膚を持つ巨大な狼型の魔物だ。
「お前さんたちが、その倉庫に巣食うガルム共を綺麗に掃除してくれたら、倉庫の中身……ざっと2000本はあるドワーフ鋼のインゴットを、定価から3割引いてやる。締めて、金貨800枚でどうだ?」
「金貨800枚で、2000本……!」
マミユの目が輝いた。それだけあれば、コンバットアーマー1000着の生産ノルマも当面はクリアできる。しかも破格の値段だ。
マミユが英一を振り返ると、英一は既にやる気満々で頷いていた。
「やります! その依頼、ぜひ私共にやらせてくださいまし!」
◇
ヴォルヘイム郊外の古びた鉱山倉庫。
その周辺には、十数匹の巨大なガルムがうろついていた。
少し離れた丘の上から、英一たちは『ラビット・グランドマスター』の車内でその様子を伺っていた。
「さあ、英一さん! 貴方の出番ですわよ!」
マミユが運転席から期待に満ちた声をかける。
「ああ。まずは俺が狙撃で数を減らす」
「おう! 援護射撃は任せな!」
ラウスが車体上部の旋回砲塔『グランド・ピクシー』の座席に乗り込み、力強く頷く。
英一は静かに車を降りると、虚空から漆黒の狙撃銃を召喚した。
彼が「ガンオブデストロイ」で愛用した、隠密狙撃銃『SRS-99 "ゴースト"』。銃身と一体化したサプレッサー(減音器)を備えた、特殊作戦用のライフルだ。
その魔法の工芸品とは異なる無機質な姿に、メルセスの目が釘付けになった。
「な、なんですの、それ……!? 魔力を収束させる水晶も、エネルギーを伝達させる刻印も見当たりませんわ! 魔砲じゃ……ない、わね……?」
異世界の天才魔工技師の常識を根底から覆す構造に、メルセスが興奮で震え出す。
「メルセスさん、落ち着いてくださいまし! 質問は後で! 後でたーっぷり受け付けますから!」
マミユが慌てて制止する。
英一はそんな二人のやり取りを背に、スコープを覗き込んだ。
倉庫の入り口で見張りをしているガルムの頭にレティクル(照準)を合わせ、静かに引き金を引く。
――ポスッ。
空き瓶の口を指で弾いたような、ごく小さな音。
次の瞬間、遥か先にいたガルムの眉間が音もなく貫かれ、その巨体が崩れ落ちた。
仲間が唐突に倒れたことに、他のガルムたちは何が起きたか分からず右往左往している。
英一は冷静に次弾を装填した。だが、その口からは不満げな言葉が漏れた。
「……チッ。やっぱり、芋スナ(安全圏からの定点狙撃)はつまらないぜ」
「え?」
マミユが聞き返す間もなく、英一は丘の上から猛然と飛び出した。
「ちょ、英一さん!?」
英一は突撃しながら、まるでショットガンでも扱うかのようにスナイパーライフルを腰だめで構え、ガルムの頭部を次々とクイックショットで撃ち抜いていく。
「英一さん! もーっ、全く!」
隠密作戦が台無しになったことにマミユは呆れながらも、即座に思考を切り替えた。
彼女はドリーム・ラビット号のエンジンを咆哮させる。
「こうなったら、力押しですわよ!」
ラビット号が、キャタピラで土煙を上げながら戦場へと突入する。
「ヒャッハー! 待ってましただぜぇ! オラオラオラァ!」
砲塔に乗ったラウスが機関砲を乱射し、魔力の光弾がガルムの群れを吹き飛ばしていく。
「楽しそうですわね! わたくしも混ぜていただきましょう!」
メルセスも助手席から自作の小型魔導カノン『ピクシー・シューター』を取り出し、的確な援護射撃を開始した。
前衛で暴れまわる英一の超近接狙撃(凸スナ)。
後方から広範囲を制圧するラウスの重砲撃。
そしてメルセスの魔法弾と、マミユの神がかった運転。
四人の火力が完璧に連動し、Cランクモンスターの群れは瞬く間に蹂躙されていった。
それは、まさに鉄と魔法が奏でる破壊の協奏曲だった。
◇
数分後。
ガルムの群れは一匹残らず殲滅され、戦場に静寂が訪れたかのように思えた。
「ふう、楽勝だったな」
英一がライフルを肩に担ぎ直した、その時だった。
まだ微かに息のあった一匹のガルムが、不気味な黒い光を放ち始めた。
そして、まるで強力な磁石のように、周囲に転がる仲間たちの死骸を次々と吸い寄せ、自身の肉体へと吸収し始めたのだ。
「な、なんなんですの、あれは!?」
マミユが悲鳴を上げる。
「まさか……! あの姿は、地獄の番犬『ケルベロス』じゃないのか!?」
ラウスが冒険者としての知識から、最悪の可能性を叫んだ。
死骸を取り込んだガルムの体はみるみるうちに膨張し、肩から新たな二つの首が生え出す。
現れたのは、黒い炎に包まれた三つ首の巨大な魔犬――ケルベロスだった。
「グルオオオオオオオオオッッ!!」
天を衝くような咆哮。六つの赤い瞳が、英一たちを明確な殺意を持って睨みつける。
ただの素材集めが、神話級の魔獣との死闘へと変貌した瞬間だった。
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