EP 14
大工房国家ヴォルヘイムへの旅立ちと、天才魔工技師との遭遇
ゼニゲコギルドでの痛快な逆襲を終え、工房の作業員確保をラウスに任せた英一とマミユは、ドワーフ鋼を直接買い付けるため「大工房国家ヴォルヘイム」への出発準備を進めていた。
「じゃあ、英一さん。ヴォルヘイムに行くからには、そのお姿を何とかしませんとね」
工房のリビングで、マミユは英一の姿を頭からつま先までじろじろと眺めた。
「あ、あぁ。分かったよ」
英一は念じ、これまで常時着用していた現代のタクティカルベストや迷彩服などの「バトルスーツ」の装備表示をオフにした。
現れたのは、ただのジーンズにTシャツという、現代日本の冴えない若者の姿だ。
「ふふっ、英一さんは背が高くてスタイルが良いから、こういう旅人風のチュニックとマントがきっとお似合いですわ!」
「こっちの革のパンツも、丈夫で動きやすそうですのよ!」
マミユはスタラントの服屋で買い込んできた衣装を、まるで自分の着せ替え人形を楽しむかのように次々と英一に当てがっていく。
されるがままに着替えを終えた英一は、フード付きのマントを羽織り、革のブーツを履いた。
どこからどう見ても、凄みのある凄腕の冒険者だ。
「おぉ……すごく、かっこいいですわ……!」
マミユが顔を赤らめて見惚れている。
「それと、英一さん。分かっていますわよね?」
マミユはハッと我に返ると、真剣な表情で忠告した。
「ドワーフの国で、その……物騒な『魔砲』をうかつに見せびらかしたりしたら、最後ですわ。あの人たちは未知の技術には親の仇みたいに食いつきますから、英一さんに首ったけになって工房から一歩も出してくれなくなりますことよ!」
「分かったよ。対物ライフルじゃなくて、大人しいやつだけにしておく」
英一は頷くと、虚空からサプレッサー付きのハンドガン『H&K Mark 23』を召喚し、新しいチュニックの下に隠したホルスターへと素早く収めた。
「よろしい。では、行きましょうか!」
マミユが満足げに頷き、二人は工房の前に停めた魔導馬車へと向かった。
乗り込もうとした、その時だった。
「おーい! 待ってくれよぉ~!」
猛然とこちらへ走ってくる、巨大な影。愛用の両手斧を担いだラウスだった。
「はぁ……はぁ……。わりぃ、間に合ったか。作業員の募集は、母ちゃんに任せてきた。だがよ、大事な鋼の買い付けに、お前ら二人だけで行かせるわけにはいかねえだろ。用心棒として、俺も連れてってくれ!」
かつての敵が、今は誰よりも頼もしい護衛として駆けつけてくれた。
英一は不敵に笑い、ラウスへ向けて親指を立てた。
「遅えぞ、前衛。乗れ」
「おう! 任せとけ!」
英一がアクセルを踏み込むと、魔導馬車は新たな仲間を乗せ、西の「鉄錆山脈」に位置するドワーフの国へ向けて土煙を上げて走り出した。
◇
スタラントから西へと続く街道を、英一の運転する魔導馬車が爆走していく。
並の馬車ではありえない加速とスピードだが、英一の完璧なハンドリングにより車内は快適そのものだった。
「いけー! いけー! 気分爽快ですわあああ!」
マミユが窓から身を乗り出して歓声を上げている。
後部座席のラウスが、大きな風呂敷包みを開いた。
「腹が減っては戦はできねえ、ってな! ウチの母ちゃんがよ、旅の途中で食えって、握り飯を作ってきてくれたんだ。ほら、食え食え!」
「あら、マナマ奥様が! ありがとうございます、ラウスさん!」
マミユは嬉しそうに一つ受け取ると、それをそのまま運転中の英一の口元へと持っていった。
「はい、英一さん。あーん、ですわ」
「お、おう……」
英一は少し照れながらも、マミユの手から直接その握り飯にかぶりついた。
口の中に、川魚の切り身と絶妙な塩加減が広がる。
「……うまいな、これ」
「だろー? ウチの母ちゃんの飯は、最高なんだぜ!」
ラウスが自分のことのように胸を張る。
「あらあら、ご馳走様ですわ」
「なっ! 茶化すなよ、マミユちゃん!」
車内は温かい笑いに包まれていた。
同じ目標を持ち、笑い合い、美味い飯を分け合う仲間たち。英一はハンドルを握りながら、確かな充実感を感じていた。
やがて、前方に岩山をくり抜いて作られた巨大な門が見えてきた。大工房国家ヴォルヘイムの入り口だ。
あと少し、というその時だった。
「……プスン」
軽快だったエンジン音が途絶え、魔導馬車がスーッと静かに停止してしまった。
「あちゃー……。やっぱり、長距離を全速力で走らせたから、魔力伝達の機構が熱で変形しちゃいましたわ……」
マミユがボンネットを開け、申し訳なさそうに言った。
「限界までスピードが出るようにセッティングしたからな。この世界の冷却素材じゃ追いつかないか……後で冷却系を根本から設計し直す必要があるな」
英一はトラブルにも慌てることなく、即座に改良案を口にする。
「どうする、マミユちゃん。ヴォルヘイムは、もう目と鼻の先だぜ」
「うーん……仕方ありませんわ。皆さん、押して行きましょう!」
三人が馬車を押そうとした、その時だった。
「あら? あらあら……。これはまた、工房やお店では見かけない、面白い形をしていますのねぇ」
背後から透き通るような声がした。
振り返ると、優雅なローブの上に無骨な革の工具ベルトを巻いた、美しい金髪のエルフが立っていた。
彼女――メルセスのエメラルドグリーンの瞳は、英一たちには目もくれず、ボンネットの中のエンジン構造に釘付けになっていた。
「こ、これは……魔力伝達のパイプをあえて並列化して限界までトルクを上げている……!? しかもこの冷却機構の配置、魔力干渉を物理的に相殺しているわ! なんですのこの神がかった設計は!?」
異世界の天才魔工技師である彼女は、一目で英一が施した「現代工学ベースのチューニング」の異常さに気づき、驚愕に身を震わせていた。
「わたくし、メルセスと申します。貴方がた、お困りのようね。よろしければ、この娘をわたくしの工房で見て差し上げますわ!」
メルセスは目をギラギラと輝かせ、有無を言わせぬ勢いで馬車の後ろに回り込んだ。
(……面倒な技術オタクに目をつけられたな)
英一は呆れつつも、この出会いが更なる「最強の魔改造」へと繋がることを予感していた。
奇妙な四人組は、ヴォルヘイムの巨大な門を目指し、魔導馬車を押していくのだった。
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