EP 13
毒を以て毒を制す! 悪徳ギルドへの逆襲と完璧なる契約
「レッドオーガのなめし革を大量に集めるため、かつての借金主である『ゼニゲコギルド』のゲッコーを利用する……ですって!?」
スタラントの街道を歩きながら、マミユが信じられないといった顔で英一を見た。
ラウスも顔をしかめ、冷や汗を流している。
「英一、気持ちは分かるがやめとけ。ゲッコーの旦那は金儲けのためなら何でもする腹黒いカエルだ。俺たちだけで乗り込んでも、足元を見られて不利な条件を押し付けられるだけだぞ」
「俺たち『だけ』なら、な」
英一は不敵な笑みを浮かべ、振り返った。
彼らの背後には、ゴルド商会の豪華な馬車と、完璧な営業スマイルを浮かべた猫人族のエリート支店長・ナーコが付き従っていた。
「ナーコさん。さっき結んだ独占販売契約の『最初のビジネスサポート』として、少し付き合ってもらえますか?」
「ええ、ええ。もちろん喜んでお供いたしますにゃ」
ナーコは楽しげに尻尾を揺らした。
「私共と英一様たちは、もはや同じ利益を共有する対等なパートナーですにゃ。ゴルド商会の看板、存分にお使いくださいませ」
大陸五大企業という「最強の虎の威」。
英一は、武力だけでなく「社会的な権力」すらも完璧に使いこなそうとしていたのだ。
「さあ、毒を以て毒を制しに行くぞ」
◇
ゼニゲコギルドの扉は、悪趣味な金細工で飾られていた。
中に入ると、金と欲望の匂いが混じり合ったよどんだ空気が満ちている。その中心の金ピカの椅子にふんぞり返っているのが、カエル獣人のギルドマスター・ゲッコーだ。
「あぁん? 誰かと思えば、借金取りをクビになったラウスやないか。何しに来たんや? ワテはもう来んでエエって言ったやろ」
ゲッコーは心底不愉快そうに顔を歪めた。
だが、ラウスの後ろから英一とマミユが姿を現すと、ゲッコーは立ち上がって激昂した。
「マミユやと!? てめぇら、ワテに喧嘩を売りに来たんか、コラァッ!」
ゲッコーが怒鳴り散らした、その時だった。
「ごきげんよう、ゲッコーさん」
英一の後ろから、涼やかな声が響いた。
ゲッコーはその声の主を見た瞬間、完全に凍りついた。
「ひぃっ!? あ、貴女様は……ゴ、ゴルド商会の……ナーコ支店長様!?」
さっきまでの威勢は見る影もなく、ゲッコーは冷や汗を滝のように流しながら、床に這いつくばる勢いで頭を下げた。まさに蛇に睨まれた蛙だった。
「こ、こりゃ毎度お世話になっております! こ、こんな場末のギルドに、何で支店長はんが直々に!?」
「今日は、こちらのマミユ様の工房が、ゲッコーさんとビジネスのお話をしたいと仰るので、同席させていただきましたにゃ」
「ビ、ビジネス? この小娘たちと……?」
英一は冷徹な視線で見下ろしながら、あらかじめ用意していた羊皮紙の契約書をゲッコーの鼻先に突きつけた。
「俺たちはゴルド商会と、コンバットアーマーの年間1000着の納品契約を結んだ。それに伴い、お前の持つ裏のツテを全て使って、レッドオーガの素材を月に100体分、確保して納品しろ」
「じゅ、10万金貨規模の契約……!? ゲコゲコ! よっしゃ、分かったがな!」
強欲なゲッコーの目が黄金に輝く。
「ワテの顔で特別に素材を揃えるんや。当然、マージン(手数料)はたっぷり乗せさせてもらうでぇ……」
ゲッコーが法外な値段をふっかけようとした瞬間、英一は冷たく言い放った。
「1体につき、金貨20枚。それ以上は1ゴールドたりとも払わない」
「なっ!? アホ抜かせ、そんなハシタ金で割に合うか……!」
「――ゲッコーさん?」
背後のナーコが、笑顔のまま静かに圧を放った。
「ゴルド商会のパートナーである彼らの提案を蹴るということは……今後、我が商会と一切の取引を停止し、大陸の流通網からゼニゲコギルドを完全に締め出すということでよろしいですにゃ?」
「ひ、ひぃぃぃっ! わ、分かりました! 金貨20枚でやらせていただきますぅぅ!」
ゲッコーは悲鳴を上げ、ガタガタと震えながら屈服した。
だが、英一の「現代ビジネスの知識」はそれだけでは終わらない。
「さらに、この契約書には『違約金』と『情報漏洩(NDA)ペナルティ』の条項が組み込まれている」
英一は契約書の後半を指差した。
「月間100体の納品ノルマを1体でも下回った場合、罰金として月ごとに金貨3000枚。さらに、アーマーの製造に関する情報を少しでも外部に漏らした場合、俺たちがゴルド商会に負う違約金『金貨10万枚』を、お前が全額負担する。異議はないな?」
「な、な、何ぃぃぃぃっ!? そ、そんな悪魔みたいな契約……!」
ゲッコーの顔が真っ青になる。それは、彼を一生飼い殺しにするための、法的拘束力を持った完全な「首輪」だった。
「サインしろ。今すぐだ」
英一の絶対的な圧力と、背後のナーコの視線に耐えきれず、ゲッコーは震える手でペンを握り、涙目で署名した。
かつてマミユを苦しめ、ラウスをゴミのように捨てた悪徳ギルドマスター。
彼は今や、英一たちのための「便利な素材調達パシリ」へと完全に落ちぶれたのだった。
◇
ゼニゲコギルドから出た三人は、大きなため息をついて肩の力を抜いた。
「やりましたわ……! 英一さん、本当に完璧な交渉でした!」
マミユが尊敬の眼差しで英一を見上げる。
「ああ。これで厄介なレッドオーガの革の安定供給ルートは確保できた」
英一は満足げに頷いた。
「だが、まだ問題は残ってる。アーマーの核になる『ドワーフ鋼』だ」
「スタラントの街の在庫だけじゃ、1000着分には到底足りませんわ……」
マミユの表情が少し曇る。
「なら、直接本場に買い付けに行くしかないな」
英一は西の空を見つめた。
「目指すは、職人たちの故郷……『大工房国家ヴォルヘイム』だ」
最強の防具を量産するための最後のピースを求め、英一たちは新たな地へと旅立つ。
そこで待ち受けるのは、未知なる魔法技術と、英一の現代知識に狂喜乱舞する「新たな仲間」との出会いだった。
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