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第6話 約束

 朝日がカーテンの隙間から差し込み、絡み合ったままの僕たちを白く照らしていた。


 時計は午前七時を指している。


 シーツはぐちゃぐちゃで、枕は一つ床に落ちている。部屋にはまだ昨夜の余韻が残っていた。


「……んー」


 寝ぼけた声と一緒に、玲が僕に擦り寄ってくる。


 思わず頬にキスを落とすと、ぴくっと眉が動いた。でも目は開かない。


 代わりに毛布の中から手だけが伸びてきて、僕を引き寄せた。


「あと五分」


 その五分は、結局二十分くらいに伸びた。


 ようやく玲が目を開ける。至近距離で目が合って、一瞬ぼんやりしたあと、耳がほんのり赤くなった。


「おはよ」


「おはよ」


「……身体だるい」


「もうちょい寝る?」


 玲は首を振って、起き上がろうとして——顔をしかめた。


「……誰のせいだよ」


「玲も乗り気だったじゃん」


 枕が飛んできた。


「うるさい」


「可愛い」


「もう知らない」


 毛布にくるまって拗ねた玲を、後ろから抱きしめる。


 そのまま、ふと思ったことを口にした。


「もう、僕のものだね」


 ぴたりと動きが止まる。


 少しの沈黙のあと、小さな声が返ってきた。


「……ずっと前からそうだし」


「ふーん」


「なにその反応。信じてないでしょ」


「今は僕のものだからいいよ」


「“今は”って何」


「これからもずっと」


 そう言うと、玲はふっと笑った。


「当たり前でしょ」


 朝日に照らされたその顔は、いつもよりずっと綺麗だった。


 しばらくして、玲が僕の胸に顎を乗せてくる。


「帰ったらちゃんとするから。他の子と遊ぶの」


「ちゃんとって?」


「やめるってこと」


 少し驚いたけど、僕は何も言わなかった。


 玲が小指を差し出す。


「約束」


「……約束」


 指が絡まる。


 子供みたいな約束だったけど、どこか本気だった。


「腹減った」


 その一言で、空気は一瞬で変わった。


「何食べたい?」


「パンケーキ。あとコーヒー」


 ルームサービスを頼んで、シャワーを浴びて。


 気づけば、いつもの調子に戻っていた。


 朝食を取りながら、ふと玲が呟く。


「こういうの、いいね」


「そうだね」


「キミと来れてよかった」


「僕も」


 そのあと、海沿いを二人で歩いた。


 風が気持ちよくて、観光客もまだ少ない。


「ねぇ、写真撮って」


 自撮りした画面には、少し照れた顔の玲が映っていた。


「こういうの、いいね」


 さっきと同じ言葉だったけど、今度は少し意味が違う気がした。


 しばらくして、玲が僕の手を取る。


 指と指が自然に絡まった。


 玲のほうからだった。


 そのまま軽くキスをする。


「しょっぱいんだけど」


「海だからね」


 笑いながら、また歩き出す。


「帰りたくないな」


「じゃあ、もう一泊する?」


「いいの?」


「うん」


「やった」


 子供みたいに喜ぶ玲を見て、思わず笑ってしまう。


「帰ってもこうしよ」


「うん」


 その言葉が、少しだけ現実味を帯びて聞こえた。


 夜、ベランダで海を見ながら、玲がぽつりと言った。


「帰ったら忙しくなるな」


「なんで?」


「片付けないと。色々」


 少し間を置いて、続ける。


「連絡先、全部消す」


 僕は、少しだけ驚いたけど。


「……そっか」


 それ以上は聞かなかった。


「約束する」


「約束」


 二度目の指切りだった。


 星空の下で。


 その夜、玲はすぐに寝息を立てた。


 安心しきった顔で。


 その寝顔を見ながら、僕は思う。


 本当に、変わるのかもしれないって。


 ——まだ、少しだけ疑いながら。

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