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第5話 水族館デート

 朝。アラームが七時ちょうどに鳴った。


 ……動かない。


 昨日より重症だった。腰に回された腕ががっちり固定していて、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。


 揺すっても反応はない。完全に熟睡している。


「ん……あと五分……」


 昨日も聞いたセリフだ。


 五分だからね。


 ——五分後。


 案の定、起きる気配はゼロ。むしろ抱きつく力が強くなっている。


「……カレー……」


 寝言だった。


 僕は軽く頬にキスをした。


 びくっと体が跳ねて、玲の目が開く。


 至近距離で視線が合った。


 起きた?


「……今の何」


 起きないから。


 玲は枕に顔を埋めた。


 耳まで真っ赤になっている。


「……起きたし。もういい」


 そのまま起き上がって、


「顔洗ってくる」


 逃げるように洗面所へ消えた。


 しばらくして戻ってくると、何事もなかったように、


「朝飯」


 はい。


 トーストとスクランブルエッグ、サラダ。簡単な朝食を並べる。


「八時半の電車。余裕あるね」


 そうだね。


 食後、支度を済ませる。


 リビングに出ると、玲はもう準備万端だった。


「キミも着た?」


 うん。


 振り返ると、玲は僕を一通り見て、


「完璧」


 それだけ言って玄関へ向かった。


 外は冷えていた。吐く息が白い。


 ホームで電車を待つ。


「あと三分」


 寒い?


「平気」


 電車が来た。


 僕は上着を玲にかけた。


「いや寒くないって——」


 言いながらも、結局そのまま着ていた。


「……勝手にしろ」


 でも、少しだけ嬉しそうだった。


 電車に揺られて四十分。


 駅を出ると、海の匂いがした。


「おー」


 語彙が死んでいたけど、目は輝いていた。


「ね、写真撮って」


 はい。


 逆光の中、銀髪が光って綺麗だった。


「どう?」


 可愛い。


「可愛いは違うだろ」


 かっこいいも可愛いも同じだよ。


「何それ」


 納得はしてなさそうだった。


 水族館に入る。


「クラゲどこ」


 あそこ。


 青い光の中、クラゲがゆらゆらと漂っていた。


「すげぇ……」


 子供みたいな顔だった。


「キミと水の中だったら、キミの方が似合いそう」


 玲も綺麗だよ。


「また可愛いとか言う?」


 言ってほしい?


「別に」


 可愛い。


 耳だけ赤くなっていた。


 次は大水槽。


「でっか……」


 玲は動画を撮りながらはしゃいでいた。


「ね、あっちペンギン」


 行こう。


 手を繋ぐ。


 一瞬見てから、握り返してきた。


 何も言わずに。


 ペンギンを見て笑う玲は、いつもの“王子様”じゃなかった。


 カフェで休憩する。


「楽しい」


 ぽつりと呟いた。


 僕も楽しい。


「また来よ」


 うん。


 外に出て、海沿いを歩く。


「ボクさ、こういうの向いてないと思ってた」


 そんなことないよ。


「でも今日、全然飽きてない」


 良かった。


「キミといると調子狂うわ」


 何で?


「いい意味で」


 僕は軽くキスをした。


 玲は驚いたけど、逃げなかった。


「……人前」


 ごめん。


「……帰りたくないな」


 どこか泊まる?


「いいの?」


 うん。


「泊まる」


 即決だった。


 ホテルを予約して、向かう。


 部屋に入ると、海が一面に広がっていた。


「うわ」


 夕焼けが綺麗だった。


 食事を頼んで、バルコニーで食べる。


「うま」


 夜になると星が見えた。


「月が綺麗ですね」


「……死んでもいい、だっけ」


 知ってるんだ。


「じゃあボクも返さないといけないわけ?」


 もう貰ってるよ。


「……ずる」


 少し黙って、


「ボクも」


 小さく呟いた。


 僕はキスをした。


 今度は、少し長く。


「……部屋、入ろ」


 うん。

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