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求婚するために来た男

「思いきり掃除がしたい。雑巾を絞って窓ガラスを拭いて、廊下にモップかけて。」


 クレアが零すと、ソフィはぷっと笑いながら

「クレアさんはね、仕事中毒なの!いずれメイドに戻れるかもしれないんだから、今は休憩だと思ってアトキンズ副団長の補佐役だけをしておけばいいのよ。」と、言う。


 何が悲しいって、わたしより6つも年下の(ソフィ)に慰められているこの現実よね……


 レスターの補佐役に文句があるわけではない。団長と副団長のスケジュールを管理して、休憩時にはお茶を入れたり、来客時の接待や、騎士達への伝達など、まあまあ忙しく過ごしていられるのはありがたい。

 クレアは体を動かす事が好きなのだ。


(だって何も考えなくて済むでしょう?お父様とお母様のこと、住んでいた屋敷のこと、無くしたものたち、いろんな事を思い出さなくて済む。)


 もうすっかり忘れているはずの過去は、寄り添う振りをして、夜になるとクレアを苛む。

(こんな気持ちになるのは、レスター・アトキンズのせいだわ。何故今頃になって現れたのかしら。)


 そして、レスターから届かなかった手紙についても気になっている。

 意図的に2人が近づくのを妨害したともいえるそのやり方に、クレアは疑問を抱いた。何のメリットがあるのだろうかと。

 婚約した後で互いの家にとって不利益が生じたのなら、解消すればよかったのだ。それをしなかった、しかし交流はさせたくなかった。

 つまり、クレアの実家ファインズ伯爵家と、レスターの生家エヴァンズ伯爵家が繋がっている、という事実のみが必要だったという事なのだろうか。

 

 クレアの両親が事故死してしまった事で、その繋がりは不要になり、早々にレスターとの婚約は解消された。そして、レスターはすぐにアトキンズ伯爵家の跡取り養子に出されてしまったのである。エヴァンズ家には嫡男がいるので、レスターの婿入り先を決めてしまいたいという気持ちはわからないではないが、あまりの手際の良さに疑問が湧いてしまう。

 レスターの養子は、以前から決まっていた事なのではないのか、と。


(考えてもわからないし、わたしには関係のない事だわ。)


 クレアはソフィが淹れてくれたお茶を飲みながら、目の前の薄紙に包まれリボンをかけられたクッキーを見つめた。


「それって、ブリトニーお嬢様が作ったんですよね。クレアさんも大変よね。世間知らずのお嬢様のお守りまで請け負うなんて。」


「そうでもないわよ。わたしは一人娘で兄弟姉妹がいなかったから、妹みたいに思えてくるの。あちらは貴族様だから不敬な発言だけど。」


「ええー!クレアさんの妹分はあたしなのに。」


「ふふ、ソフィは妹だけどお姉さんみたいなところもあるでしょう?わたし、いつも貴女の明るさに助けられているわ。」


「だって、クレアさんの事が好きなんですもの。

 あ、ショーン団長の次にですけどね。せっかくだからクッキーをいただいても?」


「もちろん。生地はわたしが作ったから味は保証するわ。」


 


 同じ頃、レスターもまたリボンをかけた小さな包みを手にして困っていた。 


 先程、自分の執務室を訪ねてきたブリトニーに渡されたのだ。彼女が作ったのだと言うが、怪しいものだ。貴族の娘が厨房に立つ事などないはずで、ましてや年齢より幼稚なブリトニーには、他人のために何かを作るなどと言う考えがあるはずがない。


 そろそろ、義父上が手配した迎えが来るというのに、ブリトニーは一体何をしているんだ、どういうつもりなのだろうか。

 騎士団の練習を見学したり、厨房でクッキーを作ったり、レスターの執務室に押しかけては何か手伝わせてくださいと頼んでくるブリトニーなのだ。

 大人しくして、クレア嬢を始め騎士や騎士団の使用人達に迷惑をかけることの無いようにと、あれほど注意したのが全くの無駄だった、とレスターはため息をついた。

 

 迷っていたがリボンを解いてクッキーを摘んで口に放り込んだ。


「意外と美味い。」


 レスターは知らなかったが、クッキー生地を作ったのはクレアで、ブリトニーは型を抜いただけだった。

 そんなレスターを、騎士団員が呼びに来た。



 ショーンから呼び出され、応接室に入ったレスターが見たのは、若い男とクレアが向かい合っている場面だ。


 ショーンに促されて自己紹介をすると、若い男は眉を顰めた。

「ああ、貴方が。クレアの元婚約者なのですね。」


 レスターはムッとした顔を隠し、冷たい視線で若い男を睨んだ。

「……そう言う貴殿は何者だ?何故、我々の関係を知っている?」


 クレアは一触即発の2人をはらはらした様子で見守ったが、自分が口を挟むとややこしくなりそうなので黙っていた。


「これは失礼。僕はジョシュア・ノックスと言います。

第三騎士団所属で、今は休暇中。愛しい女性に求婚するためにこちらへ来ました。」


 ジョシュアはレスターの目を真っ直ぐに見返し、宣戦布告するかの様に、にっこり微笑んだ。





お読みいただきありがとうございます。

新人登場で、クレアを巡る男達の関係がややこしいですが、

ソフィ→ショーン→クレア

ブリトニー→レスター→クレア?

ジョシュア→クレア

クレア、24歳にしてモテ期発動中です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あらすじとタイトルに惹かれ、ここまで読ませていただきました(^^) 宣戦布告……! わくわく♪ 三角関係ならぬ、六角関係? に突入でしょうか。 優しいクレアをはじめ、キャラが魅力的です…
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