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謎の男

 嵐のようにブリトニーが辺境の地へやってきてから、1週間が経った。


 そろそろ、アトキンズ伯爵家からの迎えがやってくる頃だろう。

 ブリトニーの護衛騎士のマイクは、騎士団の練習に特別に加えてもらい汗を流していると、レスターが側に寄ってくるのが目に入って、慌てて敬礼をした。


「マイク、君の剣筋はなかなかの物だな。馬車が襲われた時に、ごろつき共を撃退したのも当然。

 しかし、同乗していたもう1人の騎士らしき男、一体誰だったんだろうな。どんな風采だったのだ?」


「レスター様。わたしにもさっぱり解りません。襲われたのは4台の乗合馬車が辺境伯領に入る手前の事で、その男はわたしと同じく従者用の馬車に乗っていたのですが………」




 王都から離れ、はや10日ほど経過した。乗り換えた馬車に乗って、3日ほど移動したら目的の場所に着くはずであった。

 

 4台の馬車の先頭は一等席。ブリトニーお嬢様と侍女のシーナ、商人夫妻とその子ども達が乗っている、ゆったりした大型の馬車だ。真ん中に荷物専用の馬車が2台。最後の一台に自分達護衛と下働きが乗っている。

 元々商人が仕入れた商品を持ち帰る為手配した馬車に、行き先が同じだからと、代金を払って我々が同乗させて貰えることになったのである。その商人がアトキンズ伯爵を知っており、信用して貰えた事は有り難かった。

 お嬢様をぎゅうぎゅう詰めの乗合馬車に乗せてここまでやって来たが、ようやくまともな馬車に乗せて差し上げられる、その事でほっとしたのか、油断したのか。


 この辺りは辺境伯の目が光っており、辺境騎士団も控えているとあって、比較的安全な筈だった。

 最後の難関の鬱蒼とした小さな森に入った瞬間に、何か不穏な気配を感じた俺は、窓の目隠しを小さく開けて辺りを伺った。その時にシュツという矢が飛ぶ音がした。

 御者が狙われたようだ。

 しかし、辺境地まで向かう乗合馬車の御者になる様な奴は、もともと騎士であったり、傭兵であったりと、手練れが多い。

 つまり御者もまた、護衛として雇われているわけだ。


 前の馬車が止まった。馬のいななきが聞こえる。 

 そっと窓から様子を伺うと、いかにも悪人面の男達が、10名ほど。狙いは商人の積荷か。

 俺は剣をすぐに抜けるように構え直すと、馬車内の下働きの使用人達に、外に出ない様に小声で指示を出した。


 護衛として雇われてる2名と、もうひとり謎の男―その男は護衛達の仲間では無いという―と、俺を合わせて4名。御者が4名。人数的に不足はない。相手はごろつき共だ。


 馬車から飛び出した俺たちに、一瞬の隙を見せたごろつき共とは(ちから)差がありすぎて、こちら側には一切被害はなく、奴らが多少の怪我をしただけで、あっけなく終わった。


 ごろつきと思っていた悪人どもを縛り上げてよく見れば、まだ子どもであったり、元農民だという老人であったり、寄せ集めの草臥れた一団だった。何か事情がありそうではあったが。

 しかし奴らの事など俺には関係ない。先頭馬車にいるお嬢様と侍女殿の安全を確かめる為に近寄れば、あの謎の男がいた。


 先頭の一等馬車を守ったのは、御者と謎の男だった。

 彼がいち早く、守護対象を助けに向かったので、我々は安心してごろつき共に専念できた。

 そして犯罪者を連行する自警団に付き添って、彼は去っていったのだ。



「そうですね。20歳くらいの、若くて綺麗な顔をした男でした。身なりから王都の騎士団の人間かもしれないと思いました。彼の持つ剣が、その、見事だったもので。」


「では、俺も知っている人間かもしれんな。

 訓練の邪魔をしたな。そうだ、打ち合いなら俺も相手になれるぞ。戻るまでに一度手合わせするか?」


 レスターは爽やかな笑顔でマイクを誘った。



 くたくたになったマイクが、騎士団の控室で着替えていると、団長のショーンに声をかけられた。


「ここでの鍛錬はどうだ?レスターが、君は筋が良いと褒めていたよ。

 アトキンズ伯爵家へ戻らず、このまま辺境騎士団(うち)に残る事を考えてみないか?」


「団長閣下!ありがたきお言葉、感謝いたします。

 しかしわたしは、しがない男爵家の三男で燻っていたところを、アトキンズ伯爵に護衛騎士に引き上げてもらった者です。伯爵への御恩返しもまだできておりません。

 閣下のそのお言葉だけでも十分に有難い事です。」


 深く頭を下げるマイクに

「そう、堅苦しくするな。マイク・スピア。辺境騎士団はいつでも君を歓迎するぞ。」

 ショーンは、笑顔でマイクの肩をひとつ叩いた。その衝撃が足にきたが、なんとか踏みとどまったマイクもまた笑顔を返していると、そこへやってきた騎士が告げた。


「団長、面会希望者が来ております。

 団長と、副団長付きのクレア嬢に話がある、と申しております。」


「クレアに?どんな人間だ、その面会希望者は?」


「20歳くらいの、身なりの良い男で、ジョシュア・ノックスと名乗っております。」


 ショーンは聞き覚えの無い名前に首を傾げた。


お読みいただきありがとうございます。

本日は短めのを2本、更新しました。


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