あの人の罪
少し短めです。
(お父様とお母様が生きている。)
隠し守られてきた真相には興味はない。両親が生きている事がクレアにとっては最大の喜びなのだ。
「それで、お父様達は今どこに?」
「身を潜めてもらっている。知られると不味いので。」
「それは、例の漆黒の旅団に狙われているからなのですか?」
エヴァンズは躊躇っていた。
「本来なら我々の仕事内容は極秘であり、死んだ事になっている人間が生きているなど、漏らす事すら許されないのだよ。」
立ち上がると机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「それでも貴女には知る権利があると思う。あの『漆黒の旅団事件』を仕掛けて、忠実なる家令であったジェマーソンを嵌め、王家から調査を依頼されていたファインズ伯爵夫妻を謀殺した真の犯人は………」
*
情報過多だ。この頭痛はそのせいなのだ、とクレアは思う。
両親の生存を知って喜びの涙を流した後に、残酷な事実を知った。
結局、ランバート邸に戻らず、勧められるままにエヴァンズ家の屋敷に泊まる事になった。この家に連れてきた嫡男の夫人のセリーナは既に出奔した後だ。
クレアは、ほんの少しだけ、夫のマイケルが後を追いかけるのではないかと期待をしていた。誰だって切り捨てられるのは辛い。ましてや、セリーナは口では暴言を吐いていたが、心の底ではマイケルのことを慕っていたのだと思う。理由はない、ただの女性としての直感でしかないが。
そんな話をレスターにすると、彼は頭から否定した。
クレアはお人好しすぎると、レスターは苦笑いをしていたが、
「君が隣国の王女として、或いは王妹の産んだ姫としてこの国で扱われても、俺の気持ちは変わらない。」と、熱い眼差しで見つめてくるので、クレアはどぎまぎした。
夜、客室のベッドに横たわると、今日知った事実を思い返す。
父と母は真相に近付き過ぎた為、命を狙われた。そして、24年前の自分の出生にまつわる秘密、生みの母であるアリアを襲ったのは隣国の対立貴族ではなくて、真の黒幕がいた事。
漆黒の旅団の首魁と言う汚名を着せられ冤罪を受けたジェマーソンと、復讐を誓う娘シェイラの事。
それらが指し示す先にいるのは、アルヴィン・ゴールディングであり、そしてその人は、クレアを駒に使おうと目論んでいる。
エヴァンズ伯爵にはクレアを守る義務は無い。レスターは護衛としてついてくれているが、それを指図したのはあの人だ。
いざとなればレスターは切り捨てられるだろうし、ランバート辺境伯も巻き込まれかねない。
そうなれば、何らかの秘密を知っているであろうマーサ夫婦も危ないかもしれない。
マーサの息子、ジョシュアはたしか特殊工作部隊に所属しているはず。彼は漆黒の旅団についても独自に調べていたのだから、クレアの秘密にも気がついているかもしれない。しかし一介の騎士が立ち向かうには相手が悪いし、証拠もない。
(利用価値があると、そう言われた。では利用価値が無くなれば?)
あの人には肉親の情や、他者に対する親愛の気持ちというものが欠如しているのかもしれない。だから、血のつながった人間も平気で見捨てる。
自領の領民の人身売買を、自分の計画のカモフラージュの為に平気で行えるのは、領民を所有物くらいにしか考えていないからだ。
クレアは明け方まで寝付けなかった。考えることが多くて神経が昂っているようだった。
やがて朝が訪れ、レスターが躊躇いながら声をかけてくれるまで、クレアはぐっすりと眠ってしまった。
辺境で働いている時は早起きだったし、王都のランバート邸でも朝の準備がある為、目覚めは良かったはずなのに……と、ぼやくクレアが支度をして食堂に降りると、エヴァンズ伯爵から声をかけられた。
「朝一番で王城から知らせが来ている。
貴女に登城を願うそうだ。」
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