星32 せっかくだから
せっかく王都の外に出られたというのだから、すぐに町に戻ってしまうのはもったいなく感じていた。
周囲の少しの距離を、森の中を散歩してみることにした。
ステラ「不思議、森って怖い所だとばかり思ってたけど、そんなんじゃないのね。何だかとっても心が穏やかになってくる気がするわ」
ツヴァイ「俺にはどれもただの木にしか見えねぇけどな」
ステラ「先生には情緒っていう物が足りなすぎると思うわね」
ツヴァイ「俺にそんなもん、期待するなよ」
軽口を叩きながら、歩いていく。
今まで恐怖していた森は、来てみれば思っていた光景とは全然別の物で、生い茂る木々の葉の間から差し込む木漏れ日が幻想的で、足元に咲く花々が美しく見えた。
ステラ「先生は、王都の外とかよく出るんですか?」
ツヴァイ「当たり前だろ。そもそも俺はこの国の人間じゃねぇんだし、若ぇ頃は旅だってしてたんだからな」
ステラ「そういえばそうでしたね」
医者だったツヴァイは旅をしていて、なおかつ剣も得意だった。そして元騎士。ちょっと才能分けてくれないだろうか。
しかし、そんな簡単な事を忘れていたなんて。
ベッドから起き上がれない身だったステラに、あれほど外の色んな話を聞かせてくれたではないかと、思う。
そんな大事な事を忘れるなんて、拍子抜けしていた分、気が抜けているのかもしれない。
ツヴァイ「ん、こんな所に泉なんてあったか?」
ステラ「え?」
怪訝そうなツヴァイの声。
その声に導かれるようにして視線を動かすと、そこにはこんこんと水を湧き出す小さな泉があった。
ステラ「綺麗な水。前には無かったんですか?」
ツヴァイ「ああ、そういや最近地震があったからな、その時土地に変化が起きたのか」
その事なら覚えている、確か授業中の事で、クラスの皆が騒いでいたのだった。
ステラ「地震が起きるとこういう変化があるんですよね、確か。いつもは水が出ない所に、水が出たり、反対に出なくなってしまったり」
ツヴァイ「ああ、それだけならいいけどな。たまに空間が歪んじまって、その土地から人間が出られなくなっちまうなんて事もある」
ステラ「それは、やっかいですね」
困った所ではない話だ。
実際に起きたら、さぞその場所にいる人達は困ってしまうだろう。
だが、空間が歪むなんて事本当に起きるのだろうか。
口ぶりからして、ツヴァンは嘘を言っている様には見えない。
色んな場所を旅をしてきたというツヴァイなら、そういう他の者が知らない事も知っているのだろう。




