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星30 初めての遠出は荷物となって



 王都 門

 王都の外に出られない。

 なんて話をしたのをツヴァイは覚えていたらしい。


 どうでも良い事はすぐ忘れるのに、どうしてそう言う事だけちゃんと覚えているんだろう。

 そこが先生がステラの先生たる所以であると言えば、そうなのかもしれないけど。


ツヴァイ「で、いつまでそこにいるんだお前」

ステラ「だ、だって」


 王都の端っこ、門のところでカカシになってしまったステラにツヴァイが声をかけてくる。


 まったく、何でこんな事になっているんだろうか。


 いや、分かっている。

 王都の町中で、先生を見かけて声をかけてしまったからだ。


 だって、知り合いを見かけたと言うのに、声をかけないでいると言うのもおかしな話ではないか。


ステラ「せ、先生の……先生の意地悪!」

ツヴァイ「震え声で罵られてもな。意地が悪いってどこがだよ、俺はこんなに親切に世話を焼いてやってんだぞ。ちったあ、感謝しろ」

ステラ「そ、そんな事言われても、無理です……」

ツヴァイ「まったく、普段あれだけ偉そうにしてんのに、何でこうなんだか」


 いくら先生に呆れられても駄目な物はだめなのだ。

 王都の外に出られない。

 森を歩けない。


 足が凍り付いたかのようにその場から動かなかった。


 ここに学校の制服があれば、課外授業だと言って誤魔化しが効くというのに。


ステラ「はぁ」

ツヴァイ「ため息つきたいのはこっちだっつーの。はぁ、ったくしょうがねぇな」


 ツヴァイはため息をつきながらステラの背後にまわって何事かをごそごそと漁る。


ステラ「な、なんですか先生。背後に立たないでください。ちょっと反射で切りかかりたくなっちゃったじゃないですか」

ツヴァイ「怖ぇ事言うなよ。シャレになんねぇだろうが、誰だこいつの剣の腕育てた奴は」


 先生ですよ。

 自業自得です。


 そんな事を言い合いながらされたのは目隠しだ。


 戸惑う。

 これで、戸惑わずに喜んだりしたらおかしな人だ。

 さすがに困惑する。

 それが普通。


ステラ「え、あの……これは?」

ツヴァイ「見て分かんねーのかよ」


 いや、分かる。

 されている事は分かっている。

 分かりはする……のだが。


 ふいにニオの言っていた事を思い出した。

 あれはいつの事だったか。


 図書室で、王都の犯罪歴史を調べる宿題の時に言ってた。


クレイ『なんだ人がいたのか、どけ。俺が使う』

ライド『ちょ、お前。そろそろ解放してくれてもいいのよ。っていうか何時間俺を働かせるつもりだよ。残業手当出せ』


 首輪と目隠しをつけてライドを引きずって来た生徒会長を見て、言っていた。


ニオ『なんか、犯罪級の特殊な趣味の人がいるー!!』

ライド『そ、その声ニオちゃん。助けゴフっ』

クレイ『黙れ奴隷。路頭に迷っていた貴様に餌を恵んでやったのは誰だと思っている。少しはご主人様の役に立とうという意思は湧かないのか』

ライド『湧くか、この性悪人間』

ニオ『これ立派な犯罪なんだねー。あ、後はごゆっくり」

ライド『ちょ……』


 という感じで。


ステラ「犯罪?」

ツヴァイ「おい、こら人を犯罪者よばわりすんじゃねぇ。さすがにこの状況でそれはシャレにならんだろうが」


 見た目が怪しいという自覚はあった様だ。


 ステラが聞いているのはどうしてそんな事をされているのか、と言う事だ。


ステラ「先生、これって。きゃあ」


 で、その後に腰を掴まれて、浮遊感。

 おそらくだが、ステラは持ちあげられて担がれている。


 そして何と、そのままステラはツヴァイに運搬されはじめてしまったではないか。


ステラ「私、荷物じゃないんですけど、ちょ、どういう事か説明してくださいよ。これ、どうなってるのよ、もう」


 というか肩がお腹に食い込んでちょっと痛い。




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