黒い幸せは
孫の様子が少しおかしい
魔導書の写しをしているときも、畑の草取りをしているときも、あまつさえ飯のときですら、何やらボーっとして、心ここに在らずだ。
どうかしたのか聞いても「うん‥ちょっとね」としか言わず、
今は暖炉裏で、ミソとかいう なかなか凄い見た目の調味料の、それの材料を吊した光景を見上げながら うんうん唸っている‥‥
うちの孫は、時々妙なことをする‥‥
‥‥その前兆のような気がする‥‥‥
◆◆◆◆◆◆◆◆
…………香ばしい匂いがしてきたので振り向いた。
そこには、[すまし]を取った後の味噌の粕が、
楢かなんかの乾いた葉っぱの上で、
暖炉の熱で美味しそうに炙られている姿があった。
葉っぱの両端をアチチとつまみお皿に移し、
すみっこをポロッとつまんで口に放り込む‥‥
‥‥サックリポロポロ……
……塩気も味わいも味噌より穏やかで、炙られた香ばしさと 葉っぱの移り香‥‥
ツマミ系のオツな味である。
そんなことを思っていると、前世の珍味の類が脳裏をよぎった‥‥
‥‥あ~~裂きイカ食べたいなぁ~~~………………
焼き粕をアテに、炒った大豆の豆茶をひと啜り‥‥
はぁ~~落ち着くぅ……………
ついでに、何煎目か忘れた豆の茶ガラをヒョイ、
コリコリキュッキュッの歯触り‥‥
‥‥うん、香ばしさもほんのり残ってて、噛みしめるとじんわり甘みが出てくる。しっかり旨い
しっかし まだまだ小さい身の上なのに、随分ジジ臭いことやってるなぁ‥‥
まっ、良っか。悪いことしてる訳じゃないし。
あっ、今は女だからババ臭いの方が正しいのかなぁ、どっちでもいいけど‥
‥‥にしても北欧っぽい世界なのに、バタ臭いこと あんまりしてないなぁ……………
さて、お茶をずずっと もうひと啜りして上を見上げ、吊された味噌玉(味噌の材料)を目に、再び頭を悩ませた‥‥
‥‥‥‥醤油ってど~~~~~~~~やって作るんだっけ‥‥‥
冷や奴をつついてこのかた、そればっかり考えていた。濃口醤油が欲しい。
確か味噌の延長って聞いたことがあるような‥‥
材料は確か大豆と小麦だったっけ……………小麦はどう使うんだろう?
瞳に写るのは、大豆の団子と、今年は雑穀の味噌にも挑戦しようと思って作った、黍や、救荒用で余ってる粟やら稗やら燕麦の団子。
更にはそれぞれを混ぜたやつ。
欲を言えば大麦や小麦、ライ麦も使いたかったけど、
値上がりしてたから食卓にも登らず、売る用にストックしているのを見ると ちょっと使えなかった。
…………小麦が使えないとなると‥‥‥しょうがない、来年かぁ……………
……………………その日はトイヴォネンさんが来る日だった。
せっかくなのでご飯を食べていってもらおうと、キッチンに立った。
まず、塩漬け熟成していたイチボ(牛肉)を 薄い塩水で塩抜きしてから、そのまま軽く火に掛け、取り出してオーブンに移してローストビーフっぽく。
ソース代わりに、塩抜きした汁を少し加え 軽く煮詰めた[たまり]を添えて
次にカブと スモークしたシンタマ(牛肉)の角切りを、イチボを塩抜きした汁を出汁代わりに使って煮て、
ヴオリネンさんのとこから買ってきてもらった生クリームと、味噌、削ったハードチーズ、煮汁を少々加えて温めておく。
食べる直前に、ムースっぽくして添えよう
後は軽い塩で茹でた大豆に、炊いた黍をまぜ込んで、食卓でバターを乗せて[すまし]を一回ししてもらってって感じかな?
ついでに、味噌漬けのカブやルタバガ、
たまり漬けのカブとかの葉、
塩水と薫製肉で漬けたビーツの漬け物、赤い色が出て綺麗
この辺りも出そっか。
しかし、もうちょっと野菜の種類が欲しいなぁ‥‥後 お酢も‥‥
……………ガラガラガラ
おっと、来たみたいだ。それじゃあテーブルに…………
………………
「いやぁ悪いね、すっかりご馳走んなっちゃって」
「驚くなよー、これ全部 孫1人で作ったんだぞ」
「へぇ!!料理上手いねぇ、美味しいよ!」
「えへへ」
「ところでヘンリ、麦なんだけどな‥‥」
「おぉ、今値段どうなってるんだ?」
「いやぁそれが南の国で 変な混ぜもんで水増ししたバカがいてさ‥‥死人まで出る大騒ぎよ。おかげでパニックんなって 麦の買い控えんなって、値段がサッパリ付かんのよ」
「ホントかよ‥‥もう納屋パンパンだぞ‥‥」
うわっ、すこぶる景気の悪い話になってきた
こういうネタって遠くでもトバッチリ食らうんだよなぁ‥‥
ちなみに大豆の後の畑の小麦は、予想していたけど、すこぶる調子が良かった。
間作にも挑んだ矢先に、何とも幸先の悪い‥‥
来年は値段が付くといいけど‥‥
「そんで 麦の類以外に、なんか売れるもんないか?」
「う~ん‥蕎麦はまぁあるとして…………あとは黍くらいしか…………粟とか稗はダメだろ?」
「あぁ~粟は買う買う買う、どんくらいある?」
「でも少ししかないぞ?それでもいいか?」
‥‥そう、使っちゃったのである‥‥
団子になって、あっちゃこっちゃにぶら下がってる‥‥
思わんでいいと分かっていても、何か申し訳なくなってきた‥‥
その思いが、唇を動かした
「あと……コレは………」
卓の上を指差し言った。
茹でた大豆の入った器を
「…………豆?」
「………いいのか?」
「まぁ………けっこう出来たし………」
トイヴォネンさんは少し思案顔を浮かべた後、
「じゃあ買おうかな」
「ありがとうございます。あとコレ、麦の前に植えたら、何か収量増えるっぽかったですよ」
「ホントに??でもいいの?そんなこと言っちゃって‥‥」
‥‥あーそっか‥‥ひょっとしたら お金儲けが出来るかも‥‥だもんなぁ‥‥聞き返してくるトイヴォネンさんはいい人だなぁ
でもそういうお金儲けは、何かめんどくさそう‥‥
「別にいいと思うんですけど‥‥」
言いながらじいちゃんの顔を窺うと、
「まぁ、いいんじゃないか?もう言っちゃったし」
そう、続けた。
「ご馳走様~ 美味しかったよ~~」
嬉しいことを言って去って行くトイヴォネンさんに、こちらも大きく手を振って見送り、その姿が見えなくなって、それからじいちゃんに聞いてみた
「じいちゃん、ちょっと麦、使っていい?」
許可はすんなり下りた




