ペンとインクと左手と
「あぁーービックリしたー‥‥どうした一体?」
袖口で火を消したじいちゃんは、こちらを向いて訪ねてきた。そりゃそうだよねぇ‥‥
「こえ‥‥(これ‥‥)」
一発でだいぶ表面がケバケバになった、両面書きをした魔導書を おそるおそるじいちゃんに見せた。すると、それを手に取り 暫く眺めた後、
「……………そ~~くるかぁー‥‥」
見ただけで勘付いたみたいだった。
察しがいいなあ、流石じいちゃん
「え~と‥風は横に吹かせたほうよさそうたな」
「んぉねぇ‥‥(だよねぇ‥‥)」
「あと……火には気を付けないとなぁ お互い‥」
「んぁねえ‥‥(そうだねぇ‥‥)」
凄ぇ じいちゃん、やめろって言わないんだ‥‥
さすが元研究者
「まぁ、あんまり気にしないでいいぞぉ。俺の小屋一つ吹っ飛ばしたのに比べたら可愛いもんだ」
うぉう!じいちゃんヤンチャだなぁ!!
さて、卓の上をじいちゃんが一通り片付けてくれた後で(ゴメンねじいちゃん)
じいちゃんの手元を覗いて訊ねた。
この家が吹っ飛ばないか確認したくて‥
「いーちゃんぁ ないあってぁの?(じいちゃんは 何やってたの?)」
「おぉ、魔力の加減で火加減が変わらないか試しててな。」
なるほど、込める魔力で火の強さが変われば使い勝手は確かに良さそう。
でも どうも苦戦してるっぽい。魔導書って、そういう融通は利かないんかな?
‥じゃあそれぞれの加減ごとの魔導書を、並べて貼ればどうだろう?
無段階の変化は出来ないだろうけど、それなりに便利じゃないかな?まだ自分、単語でしか魔導書作れないから丁度いいや
さて、火‥‥はなんかちょっとおっかないから ………まあ、お湯にしとこ。
とりあえず切れっ端にお湯の温度を………
………と、左手でペンを走らせたその時‥‥
紙に滑らせた左手の小指が まだ乾いていない文字をこすり‥‥
インクが伸びて文字が潰れた‥‥
あ~~~もう!!!!
今まではこまめに ボロ布を吸い取り紙代わりに当ててたけど‥‥
数文字ごとにイッチイチやんなきゃなんないからホントめんどくさい!!!
ウッカリ忘れりゃコレだし!!!
これで長い文書くのなんか考えたら、もうそれだけでアッタマ痛い!!!
左から右に 文字が流れるこの構造!ほんっっとーーに左利きに優しくない!!!!
あ~~~も~~~前世のボールペンとか鉛筆とかが欲しい~~~~!!!
まあ鉛筆は!左手の横 真っ黒になってたけど!!
………………ん? あれ?……………
………………前世?……………
………………縦に書けばいいんじゃね?
そ~だ前世の日本語みたいに、右から左の縦書きだったら いっつも文字のないとこに左手くるもん。面倒なことなんもないじゃん
いや~いいこと気付いた~~
そうと気付けば心は軽いひゃっほい
ついでに書き文字も日本語にしよっと
早速切れっ端を縦に置いて…………ん~~何書こう??
………え~とぉ~‥‥‥とりあえず‥‥‥
【人肌】
【ぬる燗】
【熱燗】
これでいっか。
それから まだ破ってない、大きめの書き損じを卓上に敷き、
洗い場から魔法で、麦粥を作った小鍋を引っ張ってきた。
中にはカピカピに乾いた、麦粥の名残が張り付いていた。
因みに赤ん坊の頃、パスタの茹で汁?って思ったものは、麦粥の上澄みだったようだ。
ひょっとしたらオートミールのだったかもしれないけれど。
そのカピカピに魔法で水を注ぎ、デンプン糊代わりのネバネバを作る。
そして書き上げた三つの切れっ端を書き損じに貼り付け、早く乾くように魔法で熱を掛ける。
…………魔法でこんだけ出来るんなら 魔導書いらないんじゃね? なんて言う人いそうだなぁ~~‥‥
でもまあ 研究ってそういうもんだし、
そもそも今回なんか、じいちゃんとの遊び道具だもんなぁ。なんも誰はばかることなく楽しみましょ。
ちゃんと張り付いたところで、スープボウルと木のカップを魔法で取って、さっきの小鍋の横に並べる。
さぁ~て、上手くいくかなぁ?
【人肌】から順に魔力を通していって‥‥
チャパッ
チャパッ
チャパッ
………それぞれの器に手を突っ込んでみて…………
うん!大成功!!
貼り付けも、縦書きも日本語も、やっぱり大丈夫だ~!!
喜色満面のこちらを見たじいちゃんはこっちを覗き込み、そして聞いた。
「‥‥それ 何?‥‥」
…………あぁ~……………え~っと……………日本語……………どーやって説明しよう‥‥‥
‥‥‥だめだ~~‥‥‥いい伝え方がサッパリ思い付かん……………
「‥‥んーと‥‥えきとー?‥‥(‥‥えーと‥‥適当?‥‥)」
「……そっか‥‥」
…………良かったぁ~~~‥‥何かよくわかんないけど、とりあえずは深く聞かないでくれたぁ…………
あぁ左利き‥‥
エレベーターのボタン位置
自販機の返却レバーや投入口
駅の改札‥‥




