66・軽口。
サトー領の東側に魔獣が増えてることは商人さん達の間では
噂程度ながら知られてきたらしい。
なのでダートの街の商業ギルドのマスターから頼まれた。
マジックバックの販売をしばらくココに限定してほしいと。
商人さんは売れる商品があるとなれば多少の危険があっても
ものともしない人が多いからね。
「魔獣騒ぎでココへ来る商人が減り気味なんだ。
馬車の手配にも滞りが出たりもしている。
マジックバッグが暫くでもココ限定商品なら騒ぎが収まるまで待たずに
来てくれる商人は居ると思う。
この街の存続のためにもお願いしたいんだ」
その人たちを危険にさらすようなことになりませんかね?
「魔獣は怖い。
でも、対策がないわけじゃあない。
冒険者の護衛を増やしてもいいし守備隊の強化を領主さまに
商業ギルド全体として要請してもいい。
囮にしたい訳じゃあないけれど人が増えれば目撃情報も
増えるんじゃあないかとも思う。
どうか考えてほしい」
リョーさんに相談してみた。
「確かに人がいなくなるのはこの領としても困るな。
兵員の増強は決定の連絡が来た。
まあ、実際にココにくるまでは時間がかかるだろうが。
マジックバッグの専売は期間限定なら大丈夫だろう。
ココで仕入れて他所で売るのは止められないだろうけど。
当分は商人限定がいいと思う。
一番必要なのは彼らだろうしね」
許可がでたのでギルドマスターの要請は受けることになった。
そうして、オレ達は次の街に向かうことになった。
リョーさんと神殿に挨拶に行ったら神殿長のセイルさまにお礼を言われた。
「あの回復薬は効いたよ。
長年の腰痛まできれいさっぱり消えてしまったからね。
回復魔法でもなかなか抜けないくらいのモノだったんだ。
魔力の回復薬で全盛期の時くらいまで回復するってアレが言ってたんだが
まさかそのとうりだなんて思ってなかった。
アレだけでもかなりの騒ぎが起こりそうな気がする。
できたら秘密に……」
あー、上級回復薬はもうほとんど再現できたようでココの守備隊で人体実験、
もとい臨床データの収集を始めたようです。
ソレを使ってみますか?
「あ! そういえばそんなこと言ってたな。
もうできたなんてウソみたいだな。
そうか……兵士達で試してみるのか……」
七割から八割くらいの効果は保証すると再現者のひとりが手紙に書いてました。
多分原料がオリジナルと違うんじゃあないかと思うんです。
オレの元の世界とココの植物は似てますが違いますからね。
「うん、ソレはあるだろうな。
再現して見せただけスゴイってことだろうね。
まあ、兵士たちの使い心地なんかの結果をみてからトライしてみるよ」
物理ダメージ軽減のお札とマジックバッグの製造がこの街のためにも
神殿のためにも子供たちのためにもなるとお礼を言われちゃいましたぁ。
オレは教えただけで造るのは皆さんなんですけど。
「人のこない街は寂れるしかないからね。
神殿の収入も確保できなくなったら我々だけでなく子供達も困ってしまう。
最悪、他所の街の孤児院でお世話にならなければいけなくなる
なんてこともあるんだよ。
生まれ育ったこの街を自分の意思でなく出て行かなければならないなんてことは
悲しいからね」
神殿長さんはお祈りするだけじゃあなく世俗の事もかなりご存じな方なようで
商人も役人もできそうな気がしたね。
「次にまた会えるかは分からんが余生は楽しくやってくれ。
オレも薬の効果が切れたらあの世行かもしれんからな。
まあ、心残りはこの領地と孫の領主なんでこうやってウロウロしてる訳だ。
生きてたらまた来てやるから魔獣なんぞに喰われたりするんじゃねぇぞ!」
「あの上級回復薬は結構効いたからな。
またねぇちゃんたちと遊べそうだよ。
お前のいない間に遊びまくっておくからまた叱りに来い。
遊ぶなら魔獣よりねぇちゃん達の方がイイからな」
そ、そんな大声で……神殿長さま……
神官さんたち、笑ってていいんですかぁ?
何十年も会って無くても友達のままでいてくれたんだね。
二人ともコレが最後かもしれないってコトが分かってて
軽口をたたいているってことはオレにも分かったよ。
さよならだけが人生だ
(井伏鱒二意訳 干武陵の漢詩 「勧酒」の一節)
別れがつきものの人生とはいえ別れがあるから
出会いもあると言えます。
それでも辛いのでこの詩人は酒を友人に勧めてるわけです。
まあ、一杯飲めよ。ってとこですね。
もう一度来ることがリョーさんはできるでしょうか?
来ても神殿長さんが無事でいるという保証はありません。
それでも笑って別れようと軽口をたたきあってます。
そういう友人なんです。




