閑話・貴重な人材。(令嬢の護衛 ビル)
令嬢は冷遇されている。
母君が後妻だったことや父君も母君ももう亡くなられているなんてことが
いろいろ影響してるらしい。
領主さまはご自分の母君のご親族ばかりヒイキしていると皆が言っている。
オレもそう思う。
だが、たかだか護衛騎士ではご意見することすらできない。
まあ、身分がなぁ。
少人数で王都まで護衛することになった。
ご婚約が決まって喜んでいたのにこんな少ない人数で王都までだなんて
一体どういうことなんだ?
「隣のサトー卿が王都に行かれるそうで婚約者の所まで一緒に
行って下さるそうだ。
私は体調もあって結婚式も参列できないが代理をも引き受けて下さった。
まあ、妹は彼の姪だからな。
色々面倒をみて下さるだろうよ。
お前たちはそのまま婿君の家に雇ってもらうことになった。
せいぜい気に入られるように頑張るんだな」
どうやらオレたちが領主さまのご令嬢への扱いを不満に思っていたのを
感づいておられたらしい。やれやれ。
まあ、行く先は王都だ。
婿君に気に入られなくても新しい仕官場所くらいはなんとか成りそうな気もする。
ところが王都どころかサトー家の領都にもたどり着かないのに
大ピンチに陥ってしまった。
馬車の馬はやられた。
コボルトはそれほど強くは無いが群れで来るのでやっかいだ。
しかもこの群れはなんだか統率者がいるようで動きが鋭い。
ハッキリ言って手強かった。
ところが助けが来た。
魔力の矢! 石礫の魔法! 動揺するコボルトども!
あらかた済んだと思ったら上位個体が出てきた。
コイツが統率してたんだな!
だが石の槍が二発も飛んできた。
ココだ! と首に切り付けたらなんと快心の一撃になった。
助けはまだ子供な雰囲気のヤツだった。
「勝手に手出しして済みません。
コボルト……嫌いなんで……つい。」
まあ、アレを好きなヤツなんていないだろう。
しかし変なヤツだった。
馬車は操れるのに馬には乗れない。
回復魔法がかなりの腕のようなのに神官じゃあないと言う。
馬の乗り方を教えたら魔法の発動ができるようにしてくれた。
身体強化の魔法まで教えてくれるなんてなぁ。
戦争前はできるヤツがゴロゴロいたそうだけど今はほとんどいないし
教えられるヤツが居ると言う話も聞かない。
コイツは一体何者なんだろう?
気が付けば先を行く彼の馬車の後ろは道がきれいだった。
商業ギルドの依頼で旅のついでに土魔法で舗装をしているんだという。
「ギルドで聞いたんですけど領主さまも土魔法の使える人に
道路の補修と舗装をさせる計画らしいですよ。
オレはまあ、そのお試しみたいなものらしいんです」
領都に着いて驚いた。
アイツは領主の知り合いで王都までの道路の舗装係だそうだ。
結局、領主のガイ様の護衛連中とかガイ様ご本人、果ては令嬢まで
アイツに魔法と身体強化を習うことになった。
アイツはこういうことを教えるだけで喰っていけそうだな。
魔法使いも神官もココは不足している。
騎士や兵士のケガが減って攻撃力も上がる身体強化は
神官の負担を減らすことにもなる。
ガイ様はアイツを専属で雇いたいそうだ。
まあ、そう上手く行くかは分からないがアイツは確かに貴重な人材だと思う。
ガイ様の護衛騎士のバールがしみじみと
「あの時コレができてればなぁ……」と言った。
戦争中に水が足りなくて無茶苦茶苦労したという。
彼が出せる水はコップ一杯程度だがソレがどれほど貴重なものだったかを
語ってくれた。
ほんの少しの魔法でもバカにしたもんじゃあないんだな。
アイツの生徒は増えていくようだ。
王都の手前の領主もガイ様に教授してくれるように頼み込んでいた。
勿体ぶるでもなくホイホイと言う感じで皆に教えているが
自分じゃあソレが貴重なことだとは思ってないんだろうか?
まあ、できるヤツが増えればまた魔物や魔獣に出くわしても
やられる連中が減るだろうからな。
貴重な人材のアイツには頑張ってもらいたいもんだ。
……オレでも教えられるかな?
クローバー君にしてみれば皆やればできるのにほんのちょっと
コツが分かってない……程度にしか思ってません。
自分のやってることが重大なことだなんて全然思ってません。
ダートの街のロブさんも皆に教えまくってたからビルさんにも
教師役はできるでしょう。
新しい雇い主の婿君のところで教えてあげれば
きっと今までいた人たちとも仲良くなれるかもね。
ビルさん自身が貴重な人材になれるかも~~。




