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 そして、約束の金曜日の夜。

 特になにもなく今日を迎えたわけだが、大丈夫だろうか。実を言うと、私、あんまり怖い話って得意じゃないのよね。みつが何とかできるって判断したものなら大丈夫って思えるんだけど、何もなく聞くだけの怖い話って……苦手。後でフジさんとみつからお札もらおうと、今からひそかに決めている。だって、あの二人、よくもわるくも能力持ちなのよ? 何か呼ぶ可能性もあるけど、それを払えるのもあの二人だ。

 全く、フジさんも何を考えているのかわからない。


 とりあえず、今日は定時で帰らず、枝野さんが迎えに来るのを待つ。

 玉葉くんには、みつから言われた事を噛み砕いて伝えた。みつが伝えても、多分玉葉くんには伝わらないから。


「今日は、みつの知り合いのフジさんの所に行くのよ」

「そうなの?」

「なんでも、怖い話をして涼むっていうことをするみたい」

「? 何で、怖い話をしたら、涼しいの?」

「人間は、怖い話を聞いたり見たりしたら、寒くなる気がするのよ」

「? 気のせいなんだよね?」

「まあ、そうね。でも、気のせいでも良いから涼しくなりたいものなのよ」

「そうなの」

「そうよ」


 一応、納得してくれたみたい。まあ、玉葉くんにとっての怖い話しと私達にとっての怖い話しが一緒とは限らないとは思うが。


カラン、コロン


 そうこうしているうちに、閉店の看板を掲げたドアを開ける音がした。


「こんばんわ、お嬢さん方。準備は出来たかい」

「よぉ~、面白そうだからついてきたぜ」

「うわ」


 最初に入ってきたのは枝野さん、ついで柿森さんだった。柿森さんの来訪を想定していなかったのだろう、みつが露骨にいやな顔をしていた。それを面白そうに笑う柿森さん。相変わらずだ。と、枝野さんが私の方を見て、ビックリした顔をした。


「神凪さん、その狐は? 確か、飼うのには許可が必要なんじゃなかったかな」


 枝野さんの言葉に、玉葉くんを見て、苦笑する。


「このこは、玉葉くんです。普通の狐じゃなくて、その」

「玉葉は妖狐だよぅ。一緒に連れて行くんだ~。玉葉、枝野さんと柿森さんに挨拶しな」


 みつが、私達の間に入って、玉葉くんに言った。玉葉くんはみつに持ち上げられながらも、こくんと頷いて二人を見た。


「玉葉です。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げると、二人はビックリしたように玉葉くんを見ていた。ああ、そっか。もう慣れてしまったけど、狐が喋るのは普通じゃないものね。尻尾も三つあるし。

 しかし二人はやっぱり大人であり、普通ではない現象も有ると知っているので、ちゃんと対応してくれた。


「枝野だよ。宜しくね、玉葉…くん」

「珍しい狐だと思ってはいたが…。私は柿森、以後よろしくな」


 柿森さんが、玉葉くんに右手を伸ばした。握手でもするのかと思っていたら、そのまま玉葉くんの頭を撫で始めた。玉葉くんはまんざらでもなさそうに撫でられていた。動物の扱い方上手いのね、柿森さん。


「じゃあ、そろそろ出かけようか。フジも待ってることだろうし」


 枝野さんが言う。その言葉で、みつは玉葉を床に下ろし、自分の小さい鞄を取りに行った。鞄というより、ポーチだが。私は事務所に戻ってくるつもりなので、鞄は置いておく。

 そして、床に下りた玉葉くんを撫で続けている柿森さん。玉葉くんを気に入ってくれたようだ。そんな二人を見ていた枝野さんが、苦笑しながら声をかける。


「ほら行くぞ、かっきー」

「おう、すまんすまん。いや、何だか昔飼ってた犬に似ていてなあ」

「犬? そのこは狐だろう」

「そうなんだが……何というか、似てるんだよなあ。長くは一緒に居なかったが」

「あなたからは、うっすらと稲荷の気配がするよ」


 撫でられて気持ち良さそうに目を細めていた玉葉くんが、不意に言った。その言葉に、二人は顔を見合わせた。


「稲荷って、あの稲荷神社の稲荷かい」


 玉葉くんは、その言葉には言葉で返答しなかった。撫でられるままだ。


「とにかく、行こう。ほら」


 枝野さんは、無造作に玉葉くんの胴を持ち上げると、私の方に渡してきた。それを受け取り、抱っこする。

 ね、猫と違って体が硬いから抱っこの仕方よくわからないのよ。大丈夫かしら。まあ、何かあったら言ってくれるでしょう。

 柿森さんは名残惜しそうに、扉に向かった。


 ようやく、四人と一匹が揃って車に乗り込めた。

 いざ、フジさんのお寺へ、だ。



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