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お誘い





 雨があがり、照りつける日差しがじりじりと厳しくなってきた頃。

 夏の盛りのアスファルトは溶けるように暑く、小さな蜃気楼を作っていた。

 が、私が事務所に行く足取りは軽い。なぜならば。


「おはよう玉葉くん」

「おはようございます、神凪さん」


 カラン、コロンといつも通り扉を開けると、最近普通になった、私に返事をしてくれる声。日によって居る場所は違うけれど、すぐにわかる。だって可愛いから! 今日は、来客用のソファーの上で丸まっていた。首をピョコンと上げて私を見つめている、金色のふわふわの毛をもつ狐。太陽の光のように柔らかく光る毛皮は素敵以外のなにものでもない。

 玉葉くんは大半を狐すがたで過ごしており、よく撫でさせてくれる。


「汗かいてるね」

「そうなの。だんだん朝も暑くなってきちゃって。歩いているうちに汗が出ちゃうのよ。でも、玉葉くんがクーラーを入れててくれるから、涼しくて良いわ。ありがとう」


 机に鞄を置き、顔に浮いた汗を拭きながら言う。玉葉くんはとっても賢いので、私が来る前に事務所のクーラーをつけていてくれるのだ。時計を教えていてくれたお姉さんに感謝だわ。

 ちなみに、玉葉くんは熱い寒いも感じないらしい。羨ましいような、そうでもないような。

 玉葉くんは、私が仕事の準備をしはじめたのを見て、あげていた首を降ろしてまた寝始めた。

 こちらに居る間は、補給できないガソリンを使い続けているようなもの、らしい。みつが言ってた。だから、なるべく寝ていたほうが効率良いらしい。玉葉くんも大変だけど、そのうちみつが解決方法を見つけるだろうと、私は楽観視している。


「ふぁ~あ。おはよ~」

「おはようございます」

「おはようございます、不破さん」


 みつが、いつものように遅い出社をする。お昼にはまだ早いぐらいだ。

 みつは片手を軽くあげて返事をし、自分の机に向かう。良いなあ、出社が無いって。汗一つかかないんだもの。

 みつがいつものように机の上に顔を乗せ、溶けようとした時、


 プルルル、プルルル


 事務所の電話が鳴った。玉葉くんがピクッと顔をあげたが、みつは顔をあげようとしない。全く。

 私は、電話の受話器を上げ耳にあてた。


「はい。不破探偵事務所です」

『こんにちは。キミは、神凪さんかな。大藤ですが、みつはいますか?』


 落ち着いた男性の声だった。受話器を通すと違う声に聞こえるというが、フジさんは優しそうな声のままだった。


「はい。少々お待ちください」


 いったん保留を押し、みつの方を向く。


「みつ。フジさんからお電話よ」


 ガタガタタと、椅子を派手にならしながら、みつが慌てて電話の方に来た。はいどうぞ、と受話器を渡すと、ありがとうと言って受け取り、


「フジさん! みつだよ。どうしたの」


 と、嬉しそうに話しだした。本当にフジさん関連の事になると動きが早いんだから。苦笑して自分の机に戻ると、玉葉くんが近よってきた。ぴょんと私の机に乗っかる。普段とは違うみつの動きに驚いたらしい。


「神凪さん。不破さんどうしたの?」


 机の上、私の目の前でちょこんと首を傾げる玉葉くん。ああ、可愛いなあ。頭を撫でつつ、答える。


「みつはね、今お話してるフジさんにとっても懐いてるのよ。久しぶりにお話できて嬉しいんじゃないかしら」

「ふぅん?」

「玉葉くんも、お姉さんと久しぶりに話せたら、嬉しいでしょう? そういうものだと思うわ」


 頭を撫でられてご機嫌の玉葉くんは、そうだね、と笑った。そして、ふと寂しそうに目を伏せた。


「そうだね。久しぶりに、姉さんに会いに行こうかな」

「あとで、みつに言ってみたら? でも、こちらにもちゃんと戻ってきてね」

「うん」


 玉葉くんは、うれしそうに尻尾を揺らした。

 そうこうしているうちに、みつの方も話しが終わったようだ。ご機嫌に私達の方に歩いてきた。


「かおちゃん、それに玉葉も」

「なんですか?」

「突然だけど、金曜日の夜、フジさんのお寺に行って納涼怪談話こわいはなしをしよう」


 楽しそうに、そう言った。


「はぁ?」

「フジさんが、最近暑いから少しでも涼しくなるようにって、私達を呼んでくれたんだよ。行くよね、かおちゃん」


 こてん、と首を傾げて私に伺いをたてる。玉葉くんが入ってないのは、強制参加のようだ。玉葉くんが行くのなら、私も参加しないと(みつが無茶振りしないか見張るため)


「……そうですね。まあ、断るのも申し訳ないし、行くわ。でも、みつ、その、危なくないのよね?」

「もちろんだよ! 何かあっても、私がちゃんと守るよ」


 誇らしげにふふんと笑い、胸に手をあてる。うん、あんまり嬉しくない。頼ってるのは、頼っているんだけどね。


「じゃあ、決まりだね。金曜日の夜に、枝野さんが迎えにきてくれるって」


 みつは、フジさんの所にいけるので嬉しそうだが、何だか別の考えがある気がする。ただの勘だが。じっとみつの顔を見ていると、みつは目を逸らした。ううん、絶対何か別の事を考えてる。が、何を考えてるのかわからない。まあ、フジさんがいれば悪い事にはならないだろうと、追求するのをやめる。

 それより、


「玉葉くんは、一緒に行くのよね。お家かお堂かわからないけれど、大丈夫?」

「大丈夫でしょ。抜け毛とかないし、フジさんには説明してあるし~。楽しみだなー」


 みつはウキウキしながら、机に戻って行った。

 さてはて、どうなる事やら。




珍しいフジさんからのお誘い

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