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ガイア・レコード  作者: 平田公義
第十二章
88/118

~収穫祭~ 演劇の魔王アル・ガイア

 緊張の中で(マサキ)たちは〔アル・ガイア〕の操縦席でそわそわしていた。


 夜が来てプロヴィランの活気が高まっているところに、巨大な機影が街中を闊歩すれば当然視線は集まる。その突き刺すような視線の雨で(マサキ)たちの不安と緊張が膨らんでいく。


「大丈夫、かな?」

結子(ユイコ)が台詞をちゃんと言えて、(マサキ)が操縦を間違えなければ平気よ」

「すごい緊張する……。心臓、破裂しそう」


 結子(ユイコ)は青ざめた顔で渡されている台本に目を通していた。体を丸めて、台本に顔を押し付けるかのように凝視しており、周りのことは見えなかった。


 着ているウェイトレスが嫌に蒸れる。スカートの隙間から悪寒が這い上がって、思わず内股になってしまう。


 一方で(マサキ)は周囲に目を走らせて、慎重に機体を操縦する。彼女の目に映るのは高い屋根の上に上った野次馬や、足元の煌びやかな大通りに殺到する人々の絨毯である。〔アル・ガイア〕の巨大な脚部は土の露出した大通りを固く踏みしめるも、一本橋を渡るように慎重で見苦しいものになっていただろう。


 (マサキ)も市街地での運用は緊張して、いつも以上に口数が少なかった。


「手を家にぶつけないでよ」


 フォノも周辺に目を配らせて、落ち着き払った声で忠告する。今回の彼女は楽な役回りで二人ほど心労はなかった。


「舞台までもうちょっとよ」


 そういってフォノはまっすぐに伸びる大通りの先、広場にある舞台の明かりを視界に入れた。


                 *     *     *


 その舞台はノード教会の聖書とヨーロッパに伝わる古い叙事詩を合わせたものである。大雑把に言えば古い英雄と神の契約を語った物語である。


 演劇や叙事詩は教会と権力者を結びつける根強い人気があった。


 舞台の前には人が集まり、富裕層は後方で優雅に座席に座りつつグラスを片手に舞台の中央に立つ二人の役者を見つめていた。舞台正面では敷物を引いただけの自由席に体を小さくして見物する人たちが殺到している。


 舞台に一番近い楽句隊も指揮者のタクトと役者の台詞に注意して、準備を始める。


「なぜっ! 人は滅びねばならぬのか!? なぜだ?」


 純白の衣を纏う騎士がマントをはためかせ、観客を仰ぎ見て糾弾する。


 照明は暗く、白い騎士の透き通った声が夜の闇に響いた。


 舞台を囲う家々の屋根でスポットライトを当てる劇団員たちは慎重に演技の進行を眺め、白い騎士が頭を抱えグルグルとまわるのに光を追随させる。


 ライトの光源は松明の火でそれを反射板で増幅しているのだから、自然、照明係は蒸し暑さと皮手袋越しに伝わる照明器具の熱さに汗が噴き出す。


 演劇は第三幕。世界を牛耳る魔王を前に絶望と葛藤をする騎士たちの場面である。


 そして、白い騎士が舞台袖に消えると入れ替わりで黒い甲冑を着込んだ騎士が飛び出して激昂する。


 大きく手を広げて、観客に訴えかける彼の回答は迫力があった。


「なぜだと! われらの旅はそうさせないためにここまで来た。神を欺き、人を欺いてなお、我らが目指す清らかな世はすぐそこにある。この痩せこけた土地を見ろ!」


 その一言で舞台の天蓋に吊るされているランプ式の照明の遮断機が開き、荒野を模した舞台セットが現れる。夜の冷たい風がその荒涼とした空気、重たく、暗い雷雨の背景と相俟って息苦しくもある。


 観客が舞台に集中する中で、劇団員たちは緊張の面持ちで進行を見据えていた。


 舞台袖で大道具や小道具、さらには次に出る役者たちが呼吸を整えて待っている。照明が降り注ぐステージは夏の日差しを浴びるかのように暑い。


 熱演する黒い騎士役などはその色彩故に熱を吸収して、蒸し焼き状態である。


「本当に来るのかよ?」

「説得はできたんだ。あとはやるしかないだろ」

「リハーサルもなしなんだぞ」


 大道具の巨漢たちでも不安を隠し切れなかった。


「本当に『魔王』が来るの?」

「舞台を壊さなければいいんだけど……」

「あたしたちだって女優よ、舞台役者よ。負けられないわよ。ラストシーンの華なんだからね」


 羽衣を着た女性陣が美声をひそめて自分たちを鼓舞する。


 瞬間、舞台の照明が暗転。舞台前の楽句隊の中からシンバルやティンパニの音が壮大に響き渡る。豪雨と雷鳴を連想させる肌を震わす力に観客も息をのんだ。


「ついに奴との決戦の時!」


 それは白と黒の騎士の雄叫びであった。


 緊張が高まる中、楽句隊の演奏が止まる。プロヴィランの各所で奏でられる旋律や人の歓声が微かに聞こえた。


 そして、その中に交じって腹の底に響く地鳴りが一歩、また一歩と大きくなる。


「聞こえるだろう? 奴の足音だ……」


 白い騎士は立ち上がると薄暗い照明の中で耳を澄ます姿勢を取りながら言う。その顰めながらも、観客たちに聞こえる塩梅のよい声量に緊張感が漂う。


 観客たちも例年とは違う演出に期待に胸が高鳴る。


「奴はすぐに来る。この日をどれだけ待ち望んだことかっ」

「故郷の仇、傍若無人をここで絶たねばならない!」


 舞台が明るくなり、二人の騎士は観客に背を向けて剣を抜き放つ。


 鋭い地鳴りが舞台全体を揺るがした。


 それは誰も想定していない出来事で、舞台袖でも小さな混乱が起きていた。吊るされている照明器具が揺れ、背景がガタガタと震える。


 そして、舞台の天蓋から上半身をさらけ出すようにして『魔王』は現れ、スポットライトを浴びる。


 照らし出された『魔王』の姿に観客たちが感嘆の声を上げる。


 まがまがしい幾何学模様を浮かび上がらせ、凶悪な相貌には四つの瞳が輝き、鋭い角が伸びていた。天蓋を覆わんとする巨大な両腕は黒鉄色の鉄槌。


 頭部の側面にある排熱ダクトから熱風が噴き出すと水蒸気となって風に流れる。今にも炎をまき散らしそうな、強さと恐ろしさが漂った。


 しかし、それを操る少女たちは恐ろしさと弱気に打ちひしがれていた。


「踏み込みすぎた」

「緊張してるから」


『魔王』こと〔アル・ガイア〕を操る(マサキ)は冷や汗をかきながら、フォノの声を聴いた。


〔アル・ガイア〕の登場で観客たちがどよめき立ち、演劇は緊張を増した。


「魔王! 魔王よ! 貴様の命はここまでである!」


 白い騎士が切っ先を〔アル・ガイア〕に掲げて叫んだ。


 結子(ユイコ)は舞台上の役者二人を確認して、手元の台本を広げる。そして、指定された台詞を読み上げる。


「命を絶つ? できるものか」


〔アル・ガイア〕から放たれた言葉はノイズを混ぜ込んだもので、誰も女の子の声とは思わない。重たく、ざらついた声はこの世のものとは思えない、まさしく魔物の声であった。


 (マサキ)がタイミングを合わせて、〔アル・ガイア〕の右腕を上げて、ゆっくりと舞台へと振り下ろす。


 白い騎士がその拳を一度切りつけて、華麗に踊るように位置を変える。剣戟の瞬間、楽句隊のシンバルがけたたましくなる。


「やってみせるのだ!」

「愚かな人にできるものか」


 魔王の台詞は怠惰で、次に振り下ろされる左拳が黒騎士へと迫る。黒い騎士は剣を構えると、それを受け止めた。


 (マサキ)とフォノは左腕部に搭載されているカメラから役者との距離を測りつつ、そのまま押しつぶしてしまわないように動きを止める。気を抜いたら、本当につぶしかねない。


「ぐ、ぬぅぅ!」


 黒騎士の役者は重たくのしかかってくる拳に一抹の不安を抱きながらも、大きく呻いて大げさな演技に変える。


 観客たちにも〔アル・ガイア〕の拳の重々しい様子を見て息をのむ。


「どうだ! お前の鉄槌は利かないぞ! さあ、次はどうする」


 黒騎士が力一杯に拳を押し上げる動作に合わせて、〔アル・ガイア〕は両腕を引いた。


「お前は神に背き、力を蓄えながらも、我々ちっぽけな存在をも屈服できない」

「裁きの時が来たのだ」


 黒と白の騎士は舞台の中央によって、ふたたび剣を掲げた。その雄々しい後姿は、前列の観客たちから見れば空を覆う魔王に立ち向かう勇ましさが一層引き立って見えただろう。


「今日の舞台はすごいわね」


 後列で見る貴婦人たちも、グラスを外して囁きあい、マンネリな舞台演出とは違う臨場感に浮き足立っていた。


 だが、演劇の経験のない(マサキ)たちには観客たちの熱い視線に体が沸騰しそうなほど熱くなってしまう。大通りを抜けてきたときの視線とはわけが違う。皆が期待と喜びの目で見てくるのだから。


 そのプレッシャーに結子(ユイコ)は二言言っただけで一層内股を酷して、身もだえる。口元をわななかせて、必死に声を絞り出す。


「お、お前たちにどれほどの価値がある……」


 その震えた声があたかも動揺しているように聞こえて、舞台袖の役者たちは眉をひそめた。


「怯える演技は必要ないぞ?」


 演出家の男はその台詞回しはもっと猛々しいはずだったのに、急に熱がさめるような気がして不安になる。屋根の上にいるスポットライトの照明も冷や汗をかく。


 そして、続くはずの台詞が出ず、妙な間が生まれてしまう。


 楽句隊も入るタイミングを見失った。


 静けさと共に違和感がさざ波のように押し寄せる。


 (マサキ)はその間を埋めようと〔アル・ガイア〕の上げた両腕のマニピュレーターに動きをつけてつなげる。少しでも『魔王』が気圧されていると思わせるためだ。


 それに合わせて騎士役の二人も一歩前に出るなどして、アドリブに乗ってくれた。経験則からくるものである。


結子(ユイコ)、次の台詞っ」

「も、もう無理だよ。恥ずかしいよ……」


 フォノの内線に結子(ユイコ)は涙目で首を横に振った。大勢の前で足がすくんで、自分の演技がどれほど体たらくか痛感する。


「こんな時に何を言い出すのよ。演出家さんに見込まれたんでしょう。いつもの調子で言えばいいのよ」


 フォノは焦りを覚えて、食い入るように立体モニタに映る結子(ユイコ)に言った。


 しかし、結子(ユイコ)は口元を閉ざして震えるばかりである。


「フフッ……」


 すると、(マサキ)がキザったらしく含み笑いを浮かべる。その声は外部スピーカーに流れて、停滞していた空気を動かした。


〔アル・ガイア〕もまた怖気る演技をやめて、糸が切れた人形のように腕を引っ込めて頭部を俯かせた。


「何がおかしい?」


 黒騎士役の男は声を張り上げて話にメリハリを呼び戻す。


「フフフッ。ハハハハ……」


 フォノと結子(ユイコ)が耳をそばだて、観客、役者、裏方の人たちもその歪な魔王の声に耳を傾ける。


「そうだ。強欲、猜疑、苦しみ逃れの弁解をこの私っ! 魔王に向けてなんとするか!」


〔アル・ガイア〕は頭部を上げると四つのセンサーアイを真っ赤に染めて、傲岸不遜に両腕を上げた。


 今度は白い騎士と黒い騎士が気圧される。楽句隊の奏でる鋭い旋律が響く。弦楽器の心をひっかきまわす甲高い音、チェロの重たい音が心臓を押しつぶそうとする。焦燥、恐怖が揺蕩う。


 (マサキ)は口が動く限り、台詞を絞り出した。


「貴様たちの勇気、勇猛、勇姿、それもよかろう。しかして、それを以てしてもこの私に勝てはしないっ!」

「倒して見せるといった!」


 黒い騎士の役者は台詞になぞらえていったが、彼女の台詞の違和感に声が震えた。


「ほぉ? ハハッ。怯える子羊のたわごととはこういうものだ。神の箱庭に住み、己を神に選ばれた種と自賛する愚かしい者はこの私の力を受け入れない。なぜか!?」

「お前は人をたぶらかし、死者を煉獄に放り込み、挙句その灰で終末を呼ぶからだ。だが、我らは屈しない。この命がある限り、人の安寧、人の望みを体現して見せる」


 白い騎士の役者はアドリブを交えて、流れを呼び戻す。


 曲の転調に伴って、騎士たちの台詞に勢いが増していく。


「人が神の奴隷だとしても、尊い命、罪なき人の生き血をすするお前は悪そのものである」


 黒い騎士は雄々しく剣の切っ先を払い、叫んだ。


「我らが剣は守りの剣だ。この心はただ理想を求めてやまない精神である」


 白い騎士は優雅に剣を胸の間で構えて、曲に合わせて静かに宣言した。


 そして二人の騎士は互いに切っ先を『魔王』へと掲げる。


「我らが求むるは平穏なる世界。我らはこの地に楽園を築く者である!」


 二人の役者の声が重なった瞬間、言い知れない衝撃が観客席へと駆け抜けていった。


 英雄譚の口上などは聞き飽きているだろう観客たちでも、彼らの高らかな声と〔アル・ガイア〕が演じる動じない鋼の視線が緊張感を膨らませる。


 そして、この台詞が一つの合図であった。


「みんな準備はいいな!」


 演出家は舞台袖を早歩きで降りていき、出番を待つ役者たちに言いつつ、舞台裏で待機する劇団員へと向いた。


 彼らの手には打ち上げ花火が握られており、いつでも発射できるようになっていた。花火と言っても点火剤的な役割しかない物だ。その目標に〔アル・ガイア〕が定められる。


「点火の準備が始まってる。(マサキ)、機体を下げて」

「アハハハッ! 我が身を討つこと、後悔するがいい! アッハハハハハ!」


 (マサキ)は顔を真っ赤にして、思いつくままに口を走らせる。脳みそがとろけそうなほど熱く、体中から汗が噴き出してくる。心臓が高鳴り、とにかく演劇をつなげることだけが頭によぎった。


 フォノは映像内線で見る混乱した(マサキ)を見て泣きたい気持ちになってきた。


「もうっ! 安請け合いするからこうなるのよ」

「あたしが下げる」


 結子(ユイコ)(マサキ)の壊れたような高笑いを聞きながら、操縦の権限を奪い取り、フットペダルと操縦桿を引いた。


〔アル・ガイア〕が一歩下がって、右腕を振りかざす。


「我らが剣によって滅べ!」


 白い騎士と黒い騎士は気勢を上げ、剣を振り下ろした。


 それが次の合図となって、舞台裏の大道具たちが一斉に花火に火を入れた。ドドドドッと大太鼓のような爆音が連打される。


 楽句隊の音楽が止んだ。


 次々と上がる花火が空を切って〔アル・ガイア〕に殺到する。そして、装甲に塗られた塗料、マグネシウムと酸化剤の発光剤が鋭い閃光を焚いた。


 まばゆい光と煙が〔アル・ガイア〕を包み込んだ。


 観客席から悲鳴にも似た歓声が沸いた。


「例え、我が死のうとも、この血肉が大地を汚す。この魂はいずれまた蘇るだろう! アーッハッハッハッ!」


 目まぐるしい光が乱発して、その中に(マサキ)のやけくその高笑いが遠のいて、〔アル・スカイ〕が舞台の陰に隠れるようにしてしりもちをつく。


 舞台の照明も落とされて、しばらくマグネシウムを焚いた臭いが漂い、冷たい風が凪いだ。


「外部スピーカーはちゃんと切れてる。どうにか、なったのかしら?」

「誰も下敷きになってない、よね?」


 フォノと結子(ユイコ)は周囲にともるランプの明かりを視認しつつ、彼らが両腕で大きな輪っかを作っているのを見て一安心する。


 舞台上でも魔王を討つシーンが終わり、幕引きに向けて役者たちが神への信託と自己犠牲のラストシーンに打ち込みだしていた。


「あははは――、ってあれ? 出番、お、終わったの?」


 (マサキ)はようやく周囲の変化に気づいて、首を左右に振る。顔がほてったように熱くて、スカートの上から膝をさすりながらまだひかない鳥肌を沈めようとする。


「終わったわよ。ほとんどアドリブでかなり端折り気味だったけど」

「う、うまくいったでしょ? あたし、偉いでしょ?」


 (マサキ)は自分の咄嗟の行動が功を奏したと信じたくてそんなことを言った。


 フォノはため息をついて、ウェイトレスドレスのボタンを緩めて胸元を煽る。一生分の汗を流したようで、服の張り付く感触が気持ち悪くて仕方ない。


「偉いというか……。今後はもう少し考えてから行動しましょうよ。結子(ユイコ)も緊張しちゃうんだもの」

「ご、ごめん」


 結子(ユイコ)は肩をすぼめて、もじもじとする。


「でも、よかったじゃん」


 (マサキ)は照れながらいう。


 その言葉は本心から出てくるもので、やがて楽句隊のフィナーレを飾る優美な旋律が流れてくる。頭上のモニタを見上げても、星空は見えなかった。街の明かりが強くて、星の光をも眩ませる活気に見ている証拠である。


 フォノと結子(ユイコ)もようやく緊張から解放されて大きく息を吐きながら、彼女の意見に同意する。


「剣を振り回して命のやり取りするよりも――」


 (マサキ)は深く息をついて晴れやかな顔をする。


「やられ役の大根役者の方がみんな、笑ってくれるもん」

「大根役者なら失笑かもよ?」


 フォノは意地悪にそういった。


「それならそれで、今度はうまくやって見せればいいだけだもんっ」

「あたし、役者向いてない」


 結子(ユイコ)はまだ赤いままの耳に触れながらつぶやく。


 と、楽句隊の演奏が静かに夜空に溶けていく。少しの余韻を隔てて、舞台の向こうから拍手喝采が巻き起こる。その音ほど胸を打つものはなかった。


 (マサキ)たちはほっと胸をなでおろして、舞台が無事に終わったことを実感する。


 (マサキ)がふと足元に顔を向けると、劇団員たちが腕を大きく上下させて何かジェスチャーをしている。


「立ち上がれっていうの?」

「カーテンコールが残ってるのよ」


 フォノはボタンを占めて、身だしなみを整える。外から見えるわけではなかったが、最後の締めくらいはちゃんとした格好でいようと思ったのだ。


「機体に問題はなし。参列させてもらおう」


 結子(ユイコ)は機体の状態をチェックして、各アクチュエーターと電子回路を調整する。


「それじゃ、答えましょ」


 (マサキ)はそういうなり、フットペダルと操縦桿を操って〔アル・ガイア〕を立ち上がらせる。


 視界が高くなり、舞台の照明がまばゆく光る。観客はスタンディングオベーション。はやし立てる口笛や惜しみない賛辞が湧き上がる。


 そして、彼女たちは観客席にいる人たちから送られる万雷の拍手を浴びる。舞台上には役者たちが並び立ち、背後にそびえる〔アル・ガイア〕にも礼をした。


「あ、ありがとう!」

「ありがとうございます」

「あの、ありがと……」


 (マサキ)たちは気恥ずかしさとちょっぴりの誇らしさを胸に抱いて観客に応えた。


〔アル・ガイア〕もお辞儀をしたいところであったが、ただぎこちなく手を振って顔を動かすのが精一杯であった。


 そして、その姿を教会の鐘楼でヴァイスは眺めていた。


「…………」


 その光景はどこまでもお気楽で、笑えるほど滑稽である。しかし、そのことが彼の頭を重くして、無視できない大きなことのように思えた。

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