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ガイア・レコード  作者: 平田公義
第十一章
79/118

~白昼夢~ 広葉夢幻

 (マサキ)たちにとって広がる世界はすべてが新鮮で、すべてが摩訶不思議であった。


 重たい曇り空に突き刺さる高層建築、広々とした通路には車輪を回して疾走する自動車、人が通るために設けられた通路には色とりどりの、南国の野鳥を思わせる豪奢な服に身を包んだ人たち。土の色も草木の緑など微塵もない。


 夢のような世界。いや、夢の世界だろうか。


「一体、ここはどこなの!!」


 (マサキ)は叫んで、バイン・アウトーを車道の路肩に寄せて停車。バッテリーはアイドリングのまま、今一度周囲を見渡す。田舎娘が都会に出てきたかのような、ちぐはぐな感じ。土地勘がわからない。どこを見ても同じ建物が並び、標識には見たことのない文字で指示されている。


 おまけに赤、黄色、青の光が交差点でせわしなく光っている。電源が何であるかもわからない、三つの発光体が光を増減させて浮いている。


「見たことないものばっかりじゃん」


 (マサキ)はむくれて、一人腕組をする。外気は冷たく、素肌を撫でて思わず体が震えてしまう。


 正反対に厚手の服を身にまとい、行きかう人々は奇異の目を向けて過ぎていく。彼らは一様に笑みを浮かべて、くすくすと笑っていた。


結子(ユイコ)がいつも着てる服にそっくり」


 (マサキ)は通行人を見てぽつりとつぶやいた。


「ねぇ、見られてるよ……」


 フォノは自分の格好を思い出しながら、(マサキ)の背中に顔をうずめるようにした。火がついたように顔が熱く、赤くなっていた。


「この町から出るまでは我慢」


 結子(ユイコ)は車道を走る自動車の流麗的なフォルムに目をやりながら、高層建築の透明な窓ガラス越しからも視線をむけられていることを察した。


「変な街……」


 結子(ユイコ)は視線を下げて、つぶやく。


 バイン・アウトーや馬車が一台も走っておらず、凹凸のない平坦な石壁が並ぶさまは異様に感じられた。


「すみません。ちょっとっ」


 (マサキ)は行きかう人たちに声をかけえるが、誰一人止まってはくれなかった。笑って素通りして、遠巻きに監視するばかりである。


 われ関せずの姿勢はわからないでもない。しかし、堂々と観察する様子は異質である。口の端を釣り上げてじっと目を開いて見つめてくる人々はとても機械的である。


 すっと背中の方でフォノが身を寄せてくるのがわかった。


(マサキ)、移動しよう。なんだか、薄気味悪い」


 結子(ユイコ)は少し腰を浮かせるとフォノの肩に顔を載せるようにして言った。


「そうだね」


 (マサキ)は肩越しに二人を見る。


 不安げな顔は二人も同様の違和感を覚えていると感じられた。


「出すよ」


 (マサキ)はバイン・アウトーのギアを入れて、ゆっくりと横を過ぎる自動車の群れに合わせて発進する。路肩をリズミカルに歩き、自動車が次々と追い抜いていく。


 と、自動車が赤い発光体がひときわ輝くのに合わせて、交差点の前で停止した。


 (マサキ)は何もない交差点を見て、そのまま直進してしまう。


 瞬間、激しいクラクションの嵐が左右から響き、自動車が突っ込んできた。


「なんで!?」


 (マサキ)たちは驚き、背筋が凍り付いた。静穏性が高い自動車ゆえに、その接近に気付くことさえできなかった。まして林立する高層建築で視界がきくはずもない。


 だが、とっさに(マサキ)はスロットルをふかして、巧みにギアを上げていくとバイン・アウトーを跳躍させる。高く飛び上がった鋼のダチョウが飛び込んでくる自動車を飛び越えて、反対側の通路へと着地。そのまま走り出す。


「な、何なの! 危ないでしょ」


 (マサキ)たちは振り返って、何事もなく走る自動車の流れを見た。交通ルールなど知らない彼女たちに信号の存在意義を説くものなどいるはずもない。


 文句を飛ばす少女たちであったが、次の瞬間甲高い周囲に反響するサイレンと交差路から飛び出してくる白黒の自動車が迫る光景に嫌でも閉口するほかなかった。


「違う気色の奴が出てきた」

「どういう機体なのかしら?」

「とりあえず――」


 (マサキ)たちはサイレンを響かせて迫ってくる自動車の群れに警戒心を強める。


「逃げるよ!」


 (マサキ)は即決してバイン・アウトーを疾駆させる。


「わわっ」


 フォノと結子(ユイコ)の体が一瞬後ろに引っ張られる。お互いに体を密着させながらも、その急発進には心臓が飛び出しそうになる。


「いきなり走らせないで! まったく――」


 フォノは(マサキ)の背中にしがみついて上擦った声を上げる。


「上に何かいる」


 結子(ユイコ)がフォノの続く言葉を遮るようにして警告する。


 フワフワと綿毛のように浮遊する無機質な鉄球が上空からバイン・アウトーをつけてくる。それ以上のアクションはないが、ずっと付きまとって後続の白黒自動車たちと協力しているようにも見える。


「もう、何なのよ!」


 (マサキ)は上空を一瞥するなり、アクセルをフルスロットルで回し、バイン・アウトーを疾駆させる。


 伸びる逆関節の脚部は硬い地面をけり上げて、前方を走る車を飛び越して車の合間を縫うように走っていく。クラクションが鳴り響く。


 その後ろを白黒自動車が追跡する。サイレンを聞いた車たちは路肩に避ける針路をとるも、間隔があかずに車体をひっかかれるような事態が多発する。最悪、追突されるものもあった。


 荒々しい運転。周りの迷惑などお構いなしだ。


「この状況、前にもなかった!?」


 フォノは激しく上下するシートの上で、(マサキ)の胴に回す腕の力を強めて声を張り上げる。


「注目されてるし!」

「珍しいんでしょう! 次、右!」


 (マサキ)は適当に返して、目の前に迫る交差点を見据えて叫んだ。


 彼女たちの乗るバイン・アウトーは点滅する信号機など無視して、横断する車の流れに突っ込む。


 クラッチを切り、ギアを落とし、三人同時に体を横倒しにする。


 バイン・アウトーは大きく傾き、重心を変えてコンパクトに右折した。続いて、追跡する白黒自動車は大きく弧を描いて車道へ侵入し、追いすがる。


 歩道にいる人々が驚きの声を上げ、車道を爆走するバイン・アウトーと追尾する機体を指さす。滅多にお目にかかれないカーチェイス。あるいは動物園から脱走したダチョウの捕獲劇を見ているようである。


「これって本当に夢なの?」


 吹き抜ける風の感触や肌に突き刺さる冷気、肺が含む冷え冷えとした空気が生々しい。


 バイン・アウトーはより高層化する建造物のほうへ針路を進む。


「街を抜けるには外周の方に行かなきゃなのに!」


 (マサキ)は次々と脇道から現れる車両を目で追いながら、バイン・アウトーを小道へと侵入させる。高層建築の合間は直角なつくりで、互いの外壁が二メートルもない狭さである。


 暗く、湿った空気が流れる。


「後ろどう? まいた?」


 (マサキ)は正面にある出口の薄明かりを見据えながら問う。


 だが、けたたましいサイレンの音は今だ後ろから聞こえてくる。妙な威圧感もあった。貴族がこすれるような嫌な音さえあった。


 最後尾の結子(ユイコ)が振り返って驚愕する。


「追ってきてる! 車体を横にして!」

「嘘ぉ!?」


 (マサキ)は後ろを振り返る余裕もサイドミラーを見る余裕もなかった。


「本当!?」


 続いて振り返って確認したフォノが目を白黒させて叫んだ。


 追跡する車体は器用に車体を斜めに入れて外壁と地面にタイヤを当てて迫る。天蓋を壁にこすりつけるたびに火花が散り、ひび割れた音が響いた。パーツが吹き飛ぼうと、塗装がはがれようと関係ない。


 獰猛な肉食獣のように逃げる少女たちだけを見据えて迫る。


「無茶苦茶だ!」


 (マサキ)は一気に速度を上げて、距離を稼ぐ。車体をこすって迫る白黒自動車の速度は遅くなっていた。速度で劣るバイン・アウトーでも十二分に間隔をあけることが出来る。


 風を切るバイン・アウトーは一歩踏み出すごとに大腿部から大量の熱風を吐き出す。シートも熱くなり、三人の着ている薄い布地ではお尻がヒリヒリする。


 路地とシートの不快感がピークに達しようとしたとき、バイン・アウトーが明るい表の道へ飛び出した。冷たく、乾いた空気が三人を包んだ。


「どいてぇ!!」


 (マサキ)は叫びながら、バイン・アウトーを回頭させる。脚部が地面をこすって焦げ臭いにおいを放つと、すぐにターンをして走り出す。


 屋外ショッピングモールらしい佇まいの道。しかし、人影は少なくさびれた雰囲気である。


 だが、バイン・アウトーが姿を現して間もなく、店や脇道から、あるいは屋上から人々が次々と姿を現す。公道のモータースポーツを観戦するかのように歓喜する声が湧き上がっていく。


「喜んでる?」


 結子(ユイコ)は人々から沸き立つ声音を判別しつつ、その人たちがどうしてこの場に集結できたのかと考える。


 だが、その思考を遮るようにして物騒な轟音がショッピングモールに響き渡る。


 (マサキ)たちは振り返り、その光景に息をのむ。


 路地から出てくる車両が次々と曲がり切れずに、正面の店に激突していく。あとに続く車両がさらに積み重なり、金属のひしゃげる音を盛大に立てて埋もれていく。


 とても正気の沙汰とは思えない。


「嘘でしょ……」


 (マサキ)のスロットルを握る手が緩まって、バイン・アウトーがガチャガチャと嫌な音を音を立てて減速する。


 だが、次の瞬間には常軌を逸した光景が待っていた。


 ひしゃげた車体が生き物のように飛び跳ねて、再び追跡を始めたのだ。バッタのように鋼鉄の塊が跳ね回り、驚異的な弾性で車体をもとの形に戻すとショッピングモールを驀進する。


「また追ってくる!」


 結子(ユイコ)はもう何が何だかわからず、事実だけを大声で叫んだ。


 しかし、その声はフォノにも(マサキ)にも届きはしなかった。周囲の熱狂渦巻く歓声に耳がつぶされていたのだ。


 そうでなくともフォノは激しく揺れるバイン・アウトーに耐えなければならなかったし、車体のバランスを保つために体重移動に注意しなければならなかった。


 (マサキ)も緩んでいた運転に集中して、この恐ろしいことから逃げることに専念するほかなかった。


 歓声、奇声、サイレン、轟音。様々な音が(マサキ)たちの心をかきむしる。頭痛が激しくなり、吐き気すら覚える。


 だが、もっと恐ろしいことはバイン・アウトーと白黒自動車のカーチェイスにもかかわらず人垣が徐々に狭まってきていることであった。


「正気なの? 街中でああいう機械がぶつかったら――」


 (マサキ)が最悪の状況を想像した瞬間、それが現実に起きる。


 人垣から押し出された一人がバイン・アウトーの前に倒れこんできた。


 心臓が止まりそうになる。頭が真っ白になりかける。そのギリギリの状態で(マサキ)は素早くハンドルを持ち上げて、バイン・アウトーを跳躍させる。


 倒れた人を飛び越して、走り続ける。


「はぁ……」


 (マサキ)が安堵のため息を漏らす。


 その数秒後に生々しい衝突音が背後から聞こえて、安心は一瞬にして砕かれた。そのあとも背後で鈍い音が何度かはじける。


 背筋がぞっとした。それでもやまない熱狂と歓声、興奮した人々の視線。


 (マサキ)たちは音の正体がなんであるか考えないように努めて、今は進むことを考える。危険な運転をする機体につかまったら、どうなるか想像もつかない。


 バイン・アウトーが再び広い車道に出る。


 今度は車両の影は一つもない。閑散としており、いくら加速しても人的被害はなさそうに思えた。だが、その突出した静寂さも作為的で警戒心が増すばかりである。


 サイレンがぷっつりと止んで、狂乱の声も白黒自動車の気配や球体追跡機もないのだから。


「追手がない?」

「そうみたい」


 (マサキ)は後ろを見る結子(ユイコ)の声を聴いて、バイン・アウトーを車道の真ん中で停車する。ドッとため込んでいた疲労を吐き出すように、大腿部の排熱ダクトから大量の熱風が吐き出される。


 だが、それに混じって別の音が耳に張り込んでくる。


 背後から接近してくる轟音に(マサキ)たちは不安と緊張で顔をこわばらせる。独特の音響で鈴を転がしたような音が胸を突く。


 重たい曇り空を背後に広い車道に滑り込んでくる人のシルエットが目に移る。それが瞬きする合間に急接近をかけてきた。


「今度はアーデル・ヴァッヘ? きゃうっ」


 フォノは顔を伏せて、靡く髪を抑えるようにした。


 頭上を眩い光が過ぎて、力強い熱風がバイン・アウトーを押さえつける。機体は脚部を折り曲げて駐機状態になって踏ん張った。


 それでも(マサキ)たちの体は前に吹き飛びそうになほどの圧力を受ける。まともに目も開けられず、身を縮こまらせて暴風に耐えるしかない。


 前方で起きる地鳴りと振動に三人は体をつぶすつもりで寄り添って耐える。互いの体温と鼓動が早なっているのを感じて、不安と安心のせめぎ合いの中で正気を保つ。


 巨大な影が前方に着地して数秒。乾いた砂埃が収まるのを待って、(マサキ)は顔を上げた。


「あ、〔アル・ガイア〕……? また、助けに来てくれたの?」


 彼女の視線の先には、見知った黒い装甲の巨人〔アル・ガイア〕が直立していた。改めて見上げるその機体は周囲の高層ビルに負けず劣らず、頭部などは出っ張った胸部の装甲で見えなかった。


「う、うしろ、来てないかしら?」

「来てない、みたい」


 フォノと結子(ユイコ)も恐る恐る振り返って確認。


 後方から迫る影はなく、静かで冷たい風が背後から吹き抜ける。消失点に集約されるように建物が並んでいる風景が平べったいものに感じられた。


 彼女たちの正面に立つ〔アル・ガイア〕はゆっくりと跪き、上体をかがめて右腕部を差し出した。頭部のセンサーアイが赤く発光し、促すように頭部の排気ダクトから熱風を漏らす。


「乗れば、いいの?」


 (マサキ)は首筋のアクセサリに触れるも、何らモニタは表示されなかった。本来なら任意でウィンドーが見えるはずなのだが、その出力はなかった。


 しかし、選択肢などなく(マサキ)はバイン・アウトーのギアを入れると、差し出された鋼鉄の掌に乗せる。それから、機体を駐機状態に持っていく。


〔アル・ガイア〕は(マサキ)たちが乗ったのを感知したらしく、右腕部を上げていく。左右に大きく揺れて、三人はバイン・アウトーに咄嗟にしがみついた。


「うわっ。動いた」

「自動操縦ってこと?」


 何の情報もなく、〔アル・ガイア〕が動き出したことに(マサキ)たちは不安を抱いた。


 初めて機体を動かしたときも、自分たちの制御を離れて動いていたのだ。そのことが起きないとは限らない。


〔アル・ガイア〕は掌に載せた(マサキ)たちを観察するように頭部に近づける挙動を取った。彼女たちの頭上にかぶさるようにして〔アル・ガイア〕の顔が位置する。


 (マサキ)たちは真っ赤な四つの光と迫るブレードアンテナに息をのむ。


「また勝手に暴走しないよね? そうよね?」


 フォノは早口に前後の(マサキ)結子(ユイコ)に言う。


「とにかく、操縦席のほうに移動したいけど……」


 (マサキ)はバイン・アウトーから降りて、冷え冷えとするマニピュレータに降り立つ。


〔アル・ガイア〕の腕部は固定されて移動する気配も、胸部に近づけるそぶりもない。銅像のように固まったまま、動こうとしない。


 (マサキ)は手首のほうへ移動して、ちらっと下の方を確認する。一番近い足場である〔アル・ガイア〕の大腿部ですら目もくらむような高さがあった。その下の地面などはメモ覆いたくなるほどである。思わず一歩あと退って肩部へと延びる腕部に視線を動かす。


 曲線を描いた装甲、直線的な関節、肩から首にかけての凹凸のある道のりを見て息をのむ。


「いけるかな……?」

「無理。落ちたら死んじゃう」


 結子(ユイコ)(マサキ)の無謀な考えに待ったをかける。


「そう。無謀な考えは自滅するしかないのだよ」


 瞬間、彼女たちの背後から角張った声が響いた。


 (マサキ)たちは戦慄し、素早く振り返る。


 パッと〔アル・ガイア〕のセンサーアイの一つが明るいスポットライトとなり、(マサキ)たちの背後、指先に立つ人物を照らし出す。


 口元だけを残した仮面がまず目に飛び込んできた。それが全身を覆うマントをかぶっているのだから、たちの悪いテルテル坊主にも見える。


「ようこそ、楽園へ」


 男か女かもわからない角張った声とすっきりとした顎のライン。ピエロのように口の両端を釣り上げると、今度は頭を足にくっつけるほどにお辞儀をする。


 (マサキ)たちはその奇怪な人物に恐れを抱きながら、冷静に状況を観察する。


「あなたは、誰?」


 (マサキ)はバイン・アウトーに手をかけながら問いかける。


 すると、素早く身を起こしたその人物は機械的に首を傾けた。


「ご存じない? それはそれは……」


 何がおかしいのか、ニタニタとほほ笑んだまま今度は青いスポットライトに照らされた。


 そのほの暗い青色の中で仮面が顎を引いて影を落として見つめてくる。


 (マサキ)たちは舞台演出のようなやり口と〔アル・ガイア〕の頭部を交互に見比べて、機体が仮面の人物の支配下にあると推測する。


「問題にすることではない」

「どういう意味?」


 結子(ユイコ)が問う。


「お名前はないの?」


 フォノが続いた。


 それから仮面の人物はしばし黙考してマントの下から細い長い手袋をはめた腕を出して指を鳴らした。


 瞬間、白い光に彼は照らし出された。喜んでいるようにも、注目を集めるようにも感じられた。


「ありません。マスケとでも、お呼びになられてはどうでしょう? フォノ・アインリヒ」


 フォノは仮面の人物、マスケが告げてもいない自分の名前を口にしたことに目を丸くした。


「それに結子(ユイコ)・サーマル、(マサキ)・カイリ。もっとも、これが適切かどうかはわかりかねるが」


 続いてマスケは細い指先を結子(ユイコ)(マサキ)に向けていった。


 二人はマスケの言葉に心臓が跳ね上がった。名前について二人は発音の違いや家の問題で偽っている。マスケが隠したいことを暴く口ぶりは尋常ではない。


「どうしてわかるの?」


 (マサキ)は慎重にマスケを見据える。冷たい汗が頬を伝う。


 マスケは口の端を引っ張り上げるようにして笑った。


「では、お話ししましょう。それを聞いたうえで、お嬢さんがたはこの楽園を手に入れるのです」


 (マサキ)たちは緊張して彼から視線を離せなかった。


 足元は〔アル・ガイア〕の右腕部なのだ。もしマスケにコントロールを奪われているとしたら、彼の意志によって(マサキ)たちは溶かされかねない。


 これまでにない圧迫感が三人に襲い掛かり、マスケは悠々と笑い続ける。

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