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ガイア・レコード  作者: 平田公義
第七章
52/118

~与奪~ 第二戦 〔アル・ガイア〕と〔ゼルドナァ・ヘリック〕

〔エクセンプラール〕が動き出した時、ヘリックたちの艦隊も呼応して移動を開始した。


 夕日は西の地平線にかかり始めて頃で、艦はそれを左手にしてライン河に沿って下流へと進んでいく。空は黄昏時で、青紫色。それでも真っ赤に燃える日差しが、長く巨大な艦影を作っていた。


 曲がりくねった川沿いを並走するバイン・シフは互いの距離を測りながら、攻防を繰り広げる。


「ミトさん、手筈通り動ける?」

「ええ。でも、無茶はしないで――。きゃっ」


 (マサキ)は操縦席の中で、ミトの短い悲鳴に不安が過ぎる。


〔エクセンプラール〕の甲板には左腕部を接着し、どうにか駆動系を回復させた〔アル・ガイア〕が汎用機関銃(ドゥーオ)を右腕部で構えて牽制射撃。残りの液体金属の残量は少ない。一射ごとに敵の射撃のタイミングをズラすので手一杯であった。


 その反動を移動しながら受ける〔エクセンプラール〕が幾度も揺らめく。


「上陸ができるほど、身軽ではないのだ。命中させろって」

「砲手に言えっての!」


 フライハイト側の艦橋ではそんな売り言葉に買い言葉な応対がされていた。


 不安定に動く〔エクセンプラール〕を仕留めようと出し惜しみなく榴弾を発砲。砲弾はジグザグに動く〔エクセンプラール〕の周囲を取り囲むようにして爆発、爆炎の柱が立ち上る。


 ライン河を挟んで、バイン・シフは走り続ける。


 いくつかの合流川を踏み越えて、気色が荒涼とした大地となってきた。


 周囲を警戒するように首を振っていた結子(ユイコ)はムーアに似た荒廃的な地質だと思えた。


 ちらほらと岩塊がゴロゴロとしており、どこか物悲しい雰囲気を出している。ムーアと違うのは形あるものが崩れ去った年月を感じさせるところだろうか。


「見えてきた……」


 (マサキ)は艦の進路上に湖の輝きを認めた。夕日を反射する鏡のような湖たちの群れ。眩い光に(マサキ)たちは目を細めながら、射撃の手を止める。


「いくよ! ミトさんたちは後退して」


 (マサキ)は〔エクセンプラール〕が停止して、元来た道へ回頭するのを確認すると、〔アル・ガイア〕を跳躍させる。


「どちらを狙うんです?」

「アーデル・ヴァッヘの方だよ、マヌケ! そのための作戦だろうが」


 フライハイトの砲撃主たちは迷わなかった。そういう命令が下っていたから、跳躍して夕日を浴びる〔アル・ガイア〕に狙いを定める。


 徐々に隊形を変えていく〔ガング〕が一斉に対空砲火を仕掛ける。徹甲弾によるものだった。


 結子(ユイコ)は手前に展開する艦砲射撃が強くなるのを見て、びくりと肩を震わせる。しかし、湖の後ろに回った〔ガング〕三隻と〔ノインツェーン・ブルク〕の動きを見逃さなかった。


「後方がアーデル・ヴァッヘの起動に入る。前衛二隻は壁になってる」

「時間稼ぎね――、うっ」


 フォノは冷静に俯瞰の光景から敵の配置を記憶して、落下の負荷に口を堅く結った。損傷していたはずのモニタはすっかりきれいに直っており、ひしゃげて飛び出していた部分も引っ込んでいた。敵の姿はよく見えた。


 外れた砲弾が土塊を舞い上げながら地面に着弾していく。


〔アル・ガイア〕が落下しつつ、二、三発応戦してライン河へと着水する。暗い川底に一度身を潜めると、流れにそって横っ飛びする。曲がりくねった川の流れに沿って、〔ガング〕の艦首へと回り込む。


 着水した場所に徹甲弾が次々と降り注いで、水面下に水泡の柱を膨らませる。


「まだ、震えてる……」


 フォノは汎用機関銃(ドゥーオ)の残弾量を一瞥して、震える右手を叩いた。


 敵を目の前にして、今更怖気づいても遅い。かと言って、殺し合いをする気など毛頭ない。確実に的確に戦力を削ぐ、狙撃をしなければならない。


 (マサキ)は水面が激しく攻撃されているのを見上げながら、タイミングを窺う。水柱が上がるたび、心臓が止まりそうになる。緊張と恐怖とで体中に嫌な汗が噴き出て、落下してきた徹甲弾が〔アル・ガイア〕の肩を過ぎて落ちるのを見た時には、ヒキガエルのような短い悲鳴が上がった。


 水流に気を付けながら〔アル・ガイア〕も威力の落ちた砲弾を回避して、操縦者のタイミングを舞った。


 そして、砲撃の雨が止んだ。


「出るよ!」


 ありったけの勇気を振り絞って、(マサキ)はその瞬間を狙ってふっとペダルを押し込んだ。


〔アル・ガイア〕が川底の泥を巻き上げながら、跳躍する。水の抵抗が激しく、機体が思ったように加速しない。スタック・スラスターの水力を得られれば無理にでもできただろう。だが、まだ使える状態ではなかった。


 そして、〔アル・ガイア〕の上半身が水しぶきを伴って川面から飛び出した。


「――――っ」


 フォノは瞬時に〔ガング〕の艦底にぶら下がる〔AW〕の姿を見て、即座にトリガースイッチを押した。


 標的となったのは前部で発艦している二機で、フルオートの弾丸が〔パンツァー・グランツ〕の展開された脚部を食い破り、腹部から下を破壊した。寄り添っていた艦の二機も発艦作業を止める事が出来ず、一機が行動不能になる。


 その破片がスーパーボールのように跳ね回って、艦底で作業をしていた整備員たちに負傷者が出たのは当然だった。


「これで、もう動かないでよ」


 フォノは喉の奥がひりひりするのを覚えながらつぶやいた。操縦者が死んでいないことを心の底で祈った。そう思わなければ、罪の意識に押しつぶされてしまうだろう。〔ガング〕にいる人の事を思いつかなかったのは、考える余裕がなかったからだ。


〔アル・ガイア〕が再びライン河に姿を隠して、後方で展開している〔ガング〕から山なりの砲弾を避ける。


 (マサキ)は機体を岸に近づけつつ、フォノの真っ青な顔を見た。


「フォノ、今は考えないで。集中して!」

「う、ん。わかってるわ……」


 フォノは喉まで出かかったモノを胃の中に押し込んで、軽く頭を振った。


 結子(ユイコ)が機体の状態を見ながら、早口に言う。


「敵の大将を戦闘不能にすれば、それで済むはず。この地形ではアーデル・ヴァッヘもうまく立ち回れない。勝算はある」


 湖がまとまった地形を選んだのは、敵の機動力を減衰させるためだ。


 バイン・シフは水の中では機動力が著しく低下する。そのためにライン河を渡って、攻め入ってこれないのだ。そして〔AW〕もまた水中機動に適した機械ではなく、湖がそこここに散らばっていると動きも落ちると踏んだのだ。


 それはミトの素人考えであって、実際の湖の深さや地質的な情報はなかった。


 しかし、その考えは敵も同じことだった。敵の分散の効果がはっきりと出たのが証拠だ。


 (マサキ)たちもうまく立ち回る術を用意していたから、敵の動きの鈍さには感謝する。


「まだ左腕、動かない?」

「ダメ。あと少しで、スラスターは使える」


 (マサキ)結子(ユイコ)は短い問答をして、気持ちを引き締める。


「次、いくよ!」

「ええ! いいわよ!」


〔アル・ガイア〕は全く動かない左腕部を引っさげて、再度跳躍。水のまろやかな音が耳をくすぐる。


 黒い鋼の巨人は水しぶきを纏ってライン河から抜け出すと、西日を浴びて陸地へと着地する。周囲に河の水が降ってきた。


 同時に艦砲射撃の嵐が襲い掛かる。彼らは着地したところを狙って砲撃したが、予想以上に〔アル・ガイア〕が下流に流れていたので、砲軸修正をしても間に合わなかった。


「くぅっ! こっちに来て」


〔アル・ガイア〕をさらに北西に向けて走り出させた。その先には水たまりのような湖が金色の輝きを反射して横たわっている。


「うぅ……」


 結子(ユイコ)は首を窄めながら、立体スクリーンの情報を整理する。


 いくら狙いがずれたとはいえ度重なる爆音に身体が震えてしまう(マサキ)たち。先の戦いでのことが頭に過ぎって、どうしても拭いきれなかった。


 しかし、ここで止まるわけには行かない。


〔アル・ガイア〕は敵艦隊の攻撃の注意をすべて向けさせて、携えている汎用機関銃(ドゥーオ)で勇ましく応戦する。


「左腕が動いていないな」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕を立ち上がらせながら、ヘリックは河を背にして発砲してくる〔アル・ガイア〕を睨んだ。命中精度が低く、とにかくダメ押しに叩き込んでいる程度に見えた。


 弾丸の数発がヘリックたち後方部隊の横間を過ぎ去り、風が鳴った。


 先に出た〔パンツァー・グランツ〕六機が、〔ガング〕を盾にして射撃体勢に入る。欠損した機体ゆえに高射砲程度の役割しか持てなかった。接近戦を仕掛けようと待機する機影もあったが、手負いとは言え飛び道具を持つ〔クイーン級(ケーニギン)〕の相手が勤まるはずがない。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は優雅にバウスプリット・ランスを掲げて、頭部を回して周囲を確認する。


「アーデル・ヴァッヘは艦の護衛にあたれ。俺がケリをつけてくる」

「しかし――」

「今の機体で渡り合えるか。艦隊はさらに北北西に展開して、城の陣形を整えろ」


 ヘリックは言うなり、ライン河を背にして走る〔アル・ガイア〕を見据える。


 すでに機体情報は熟知している。


 一度は負かした相手だ。気負う必要はないが、油断はならない。回復不十分な機体でナイト級とどこまで渡り歩くか。


「機体が不死身とは言え、操縦者はそうではあるまい。根性据えてかかってこいっ」


 ヘリックは血潮のたぎりを覚えながら、自身の分身とも言える〔ゼルドナァ・ヘリック〕を疾駆させる。マントを靡かせて、バウスプリット・ランスを構えて突き進む。


 飛来してくる弾丸などは脅威ではなかった。まともに照準をつけられない武装にどれほどの威力が宿ろうものか。ただひたすらに〔アル・ガイア〕の機動を追って、直進していく。


「白兵戦をやるなら――――」


 (マサキ)は迫りくる〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見据えて、〔アル・ガイア〕を停止させる。予定の半分も進むことができなかったのは痛手であったが、ナイト級の突進で砲撃も止んだ。


 そして、フォノもまた射撃を止めて汎用機関銃(ドゥーオ)を背部の補助アームに懸架させ、白兵戦の準備に入る。


「受けて立つわっ」


〔アル・ガイア〕は左のサイド・ラックに右腕部を回して、カタナを抜き放つ。長い刀身はバウスプリット・ランスほどではないにしても、十分間合いは稼げる。


「また時間稼ぎのつもり? 敵艦隊が陣形を整えてる」


 結子(ユイコ)(マサキ)とフォノが迫る強敵に集中する中で、周囲の動きを観察する。


 そうでもしなければ、いつ何時砲弾や奇襲が来るやもしれない。その緊張もあったが、〔ゼルドナァ・ヘリック〕と正面からぶつかることに未だ怯えている部分があり、向き合いたくなかった本音もあった。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕の鋭い突きが放たれる。


〔アル・ガイア〕は機体を引きながら、刀身の腹でランスを受け流す。切っ先を下にくるりと回して、その返す刃で敵を討つ型を取った。しかし、それを放つには間合いが近すぎ、さらに言えば〔ゼルドナァ・ヘリック〕の突きは鋭く速い。返し技を出せる余裕などなかった。


 火花が散り、鋼の交わる音が夕日の平原に響く。


「んっ」


 (マサキ)たちの手が痺れた。


 フィードバック効果とは違う、操縦席に直接伝わる振動だ。横間を過ぎる〔ゼルドナァ・ヘリック〕の頭部と鋼の鎧を目に入れると、半透明のバイザーの下で何かが動くのを見た。


 (マサキ)たち、そして、ヘリックは互いから目を離さない。例え、少女たちの中には恐怖しかなくとも、目を離した瞬間が死に直結することを本能的にわかっていた。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕はそのまま駆け抜け、〔アル・ガイア〕との間合いを取って、構え直した。


「なるほど、身のこなしはいい。技を物に出来ていないのが、残念であるが……」


 ヘリックはそう言いながらも、頬を伝う汗の冷たさに緊張する。


「気は抜けないな……」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は腰を落として、バウスプリット・ランスを持つ右腕部の脇をしめる。じりじりと間合いを詰めて、飛び出す瞬間を窺う。


 (マサキ)たちは息を整えながら、〔アル・ガイア〕の右肩部、右脚部を突きだしてカタナの切っ先を伸ばす。西洋風の構えで、左腕部を庇うようにしていた。待つのではなく、攻勢の意志があった。


 元来、戦場とは乱戦だ。互いの呼吸を計って、相手の息を止めるために気を張っていくようなことはしない。動かなければ、他の兵士に討たれてしまうからだ。


 しかし、これはもう決闘である。


 操縦者たちの目は目の前の敵をどう打ち破るかに集約されて、他の事への注意は散漫になっていた。


 二機の刃の切っ先が軽く触れた。


 (マサキ)たちはびくりと肩を弾ませたが、〔ゼルドナァ・ヘリック〕の静かな動きを注視する。彼女たちが動揺をしても〔アル・ガイア〕の重々しい巨体はその心を隠した。相手に悟られない、という意味で機械の面構えや姿態は便利であろう。


 切っ先が二度、三度触れて、間合いを計る。


 そして、(マサキ)は目を見開いて、操縦桿を引いた。


「仕掛ける!」


〔アル・ガイア〕がふっと腰を落とす様にした。脚部に自重を乗せて、踏み出そうというモーション。


「遅い――っ!」


 ヘリックの声と共に〔ゼルドナァ・ヘリック〕が飛び出した。


 ランスはカタナの剣線を逸らして、真っ直ぐに矛先を突撃させる。その一拍の挙動の差が、両機の攻撃に差をつけた。


「ぐぅ――」


 苦し紛れに〔アル・ガイア〕が踏み込んだ。


〔アル・ガイア〕の腹部を〔ゼルドナァ・ヘリック〕のランスが深く抉る。神速の一撃は避けようもなかった。対して、〔アル・ガイア〕の一撃は相手の肩部を軽くこすった程度で、致命傷を与えることはなかった。


 鋼鉄の装甲が一度ぶつかり、跳ね返った。


 その瞬間、少女たち三人は目を見開き、本命の一撃を作動させる。


「この間合い――」


 (マサキ)はそう呟いて、〔アル・ガイア〕の右腕部で間合いを取ろうと引き戻されるバウスプリット・ランスを絡め取り、動きを封じる。


「コイツ――っ」


 ヘリックが呻く。〔ゼルドナァ・ヘリック〕も腹部を穿った相手が、得物に纏わりついてきたのに動きが鈍る。


〔アル・ガイア〕は右サイド・ラックの鞘を反転させて、肉薄した〔ゼルドナァ・ヘリック〕の腰部に向ける。


 戦い方など知らない。見よう見まね、試行錯誤して一撃を与えるしかない。そのために、〔アル・ガイア〕に無理をさせなければいけないのだが、傷つかなければ活路を見いだせない時もある。


 唯ならない気配をヘリックは本能的に感じた。彼が目にしているモニタには〔アル・ガイア〕の頭部しか見えない。それでも、その四つのセンサーアイが勝ち誇ったように〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見下していた。


 ヘリックがふっとペダルを切り返して、左脚部を下げた。


 その瞬間、目にも留まらぬ速さで鞘からカタナの柄が飛に出し、引き遅れた右脚部を破壊する。刀身がさながら杭のように伸びて、右の膝関節を粉砕して見せた。


 破片が飛び散り、空気が破裂する音と共に衝撃波が二機の間に生まれた。


「んなろ――っ」


 ヘリックの操縦で〔ゼルドナァ・ヘリック〕はランスの銃口を開放して、光弾を一発吐き出した。


 雷鳴の如き発射音と眩い閃光があたりを包み、さらなる熱風が機体を襲う。


〔アル・ガイア〕と〔ゼルドナァ・ヘリック〕がその衝撃に耐えかねて倒れ込む。


「あう――っ。やった?」

「確実に、当てたわ。間違いないわ!」


 結子(ユイコ)が問いかけると、フォノが興奮した様子で言った。


 事実、地面には切っ先を天に向けたカタナが一本突き刺さっており、足元のモニタには〔ゼルドナァ・ヘリック〕の千切れた右脚部が見える。


〔アル・ガイア〕は右腕部を使って、起き上がろうとする。しかし、腹部を穿たれて、思うように機体が再起できない。せいぜい、〔ゼルドナァ・ヘリック〕から距離を取る程度である。


 (マサキ)たちは早くこの場から離れたい衝動に駆られていた。決着がついたという気持ちはどこかで働いていた。


 しかし、


「これはやられたな」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕の外部スピーカーからヘリックの声が漏れた。うめき声混じりながらも、余裕のある声音であった。


 (マサキ)たちは機体を起き上がらせることをしながら、その声に戦慄する。勝利を期待していたからこそ、その野太く余裕が垣間見える声に驚いた。


「これはただの強がり……。相手の強がりだもん……」


 (マサキ)は破裂しそうなほど速くなる鼓動を抑えようと自分に言い聞かせる。


 片脚を失った〔AW〕がまともに戦えない。普通ならまず操縦者は機体の損傷から、戦闘の継続は不可能と考えるだろう。


「流石に、そういう使い方ができるとは思わなんだ」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は残る左脚部、その鋭い爪を大地に食い込ませる。そして、その脚部の力だけでゆっくりと起き上がっていく。アクチュエーターの悲鳴のような駆動音を響きわたる。


「だが、足を一つ取られた程度じゃ、負けじゃねぇんだよ」


 バウスプリット・ランスの矛先を大地に突き刺し、起き上がった〔ゼルドナァ・ヘリック〕が勝ち誇ったように〔アル・ガイア〕を見下ろす。破壊された右脚部の膝関節からは、ケーブルが垂れ下がり、内部フレームが露出して、本来の機能を果たしていない。


 だというのに、ナイト級の機体は平然と立っている。


「あぁ……」


 (マサキ)たちはさっと血の気が引いて、唖然とした。機体のスペックもさることながら、ヘリックに戦意の衰えを感じない。底知れない闘争心が固い装甲を突きぬけて、少女たちの肌を泡立たせる。灼熱の太陽を前にしているかのようである。


「どうした? 降参か?」


 その挑発する声に、(マサキ)たちは悔しさと恐怖がない交ぜになって、目にいっぱいの涙が滲んだ。


 怖くて、恐ろしくて、それだけで心臓が止まってしまいそうだ。それでも諦めたくない。何もせずに敗れ去るのは嫌だ。


 みんなで生き残る!


 (マサキ)たちの闘争心に火が付いた。


「まだまだぁ!!」


〔アル・ガイア〕の背部のスリットが解放されて、スタック・スラスターが爆発したように青白い光を噴射した。脚部を支点にして、黒い巨体が弧を描く様に起き上がり、右腕部のカタナを突きだした。


 ヘリックは迫りくる刃に怖じ気ることはなかった。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は素早くバウスプリット・ランスを分離させると、その手甲で繰り出される刃を弾き飛ばした。カタナが乾坤一擲の斬撃であったなら、手甲の薄っぺらい鋼など貫けただろう。それができないのは、やはり急所を外した弱腰の攻撃しかなかったからだ。


「甘いっ!」


 ヘリックには、その緊張感のなさに腹が立った。


 (マサキ)たちは攻撃をしのがれ、さらに威喝されて頭がこんがらがる。敵の声と動き。そのどちらも理解できないまま、感情の猛りが加速する。


 そこへ〔ゼルドナァ・ヘリック〕の左腕部が拳を作り、腰部を捻って〔アル・ガイア〕の頭部をぶん殴った。


「あっぶ――っ」


 (マサキ)は操縦席に来た振動に視界が眩んで、周囲で何かが砕ける音を聞いた。


〔アル・ガイア〕が倒れまいとドタバタと脚部をせわしなく動かして、後退する。自動反応(オートリアクション)で、フォノと結子(ユイコ)も敵の攻撃に目が眩んでいた。


「生半可な意志で、その機体を引きずり出したところで勝てないということがわからないか?」


 ヘリックは頭部のひしゃげた〔アル・ガイア〕を見て声を張り上げる。


 この場に誘い込んで決着をつけようと云う腹案は読めている。死力を尽くしてでも、ヘリック指揮下の部隊を突破するということも、戦法からもわかる。


 しかし、一貫して殺生に対する嫌悪感だけは抜けていなかった。


 (マサキ)たちは四肢に力を込めて、粗いCGコンピュータ・グラフィックで形成された〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見る。


「殺す気で来なければ、倒せないということだ。その気がないなら、戦いの場に出て来るな!」


 その言葉に(マサキ)は苦いつばを飲み込んで、外部スピーカーのスイッチを押した。


〔アル・ガイア〕が下げていたカタナを上げて、戦意を示した。


「戦うからって、簡単に人の命を奪っていいの?」

「そうしなければ、自らを生かすことはできない。お前たちがこうまで俺たちを拒むからには、譲れないものがあるのだろう」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕はバウスプリット・ランスの手甲を逆さまにして、フルーティングと呼ばれる余剰部分を分離していた矛に突き刺した。


「命張って守る価値があるなら、相手の命奪ってでも手にしておくのが筋だろ」

「そんなやり方をするから、フライハイトも修道騎士団も嫌いなの!」

「それがどうした!」


 ヘリックが一喝して、〔ゼルドナァ・ヘリック〕がバウスプリット・ランスを構える。片脚の状態でも、その鉤爪が大地に食い込み、機体すべての駆動系がバランスを維持する。


 痛々しくも力強い、生きることへの貪欲さが滲み出ている。それは意地汚いというよりも、全身全霊をかけた輝かしいものにも見える。


「そうしなきゃ、生きていくことができねぇんだよ。人並に生きていくためには……、俺たちは迷わない」


 (マサキ)とフォノは胸が痛んで、〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見据える。


 フライハイトが奴隷身分の人を中心で構成された組織であることを痛感する。彼らは自由のために、権力を砕き、彼らが望む未来を作ろうとしている。


 結子(ユイコ)もまたその未来に憧れを抱いていた。


「信念があるから、認められない。戦いを絶やさない」


 結子(ユイコ)がぼそりと呟いた。


 その声は〔アル・ガイア〕から漏れて、ヘリックの耳にも届いた。


 フライハイトが信念を持って行動するのは、一見すれば権力主義からの解放を謳う素晴らしいものに見えるかもしれない。だが、それを暴力で決着をつけてしまっては幾度となく繰り返してきた歴史の二の舞、三の舞である。


「人はそれを繰り返してきた。時代がそうさせる」


 ヘリックが返した。


「時代がそうさせるなら、わたしたちが戦う理由は何?」


 フォノが問うた。


 三人の少女の声を聴いて、ヘリックは口元をゆがめて間を置いた。〔アル・ガイア〕の操縦者たちによる策略とも懸念したが、そうは思えなかった。


 ケルンで目にした背の小さな、まだ子供の顔をした女に時代の風も、信念の太陽もわかるはずがないのだ。この戦いに意味などはなく、彼女たちの生活の枠から飛び出た巨大な機械に振り回されているだけなのだから。


 それでも、ヘリックは彼女の問いかけには素直に本心をぶつけた。


「俺たちの都合だ」


 どれだけ崇高な信念、理想を掲げても根源は人間の身勝手さである。


 それを制御できないからこそ、戦いという方法に打って出るのだ。遠くで艦隊を編成している組織員には言えないことだ。


「話は終わりか?」


 ヘリックは静かに最後の質問をぶつける。


「…………」


 (マサキ)は口を固く結って、鼻水をすすった。張っていた肩を落として、冷静に敵を見詰める。フォノと結子(ユイコ)も気を引き締めて、浮かび上がる立体スクリーンの情報に目を配り操縦桿の握り心地を確かめる。


 三人の気持ちに応えるようにして〔アル・ガイア〕はカタナを構えて対峙する道を示した。迷いはある。彼らが悪そのものであるなら、彼女たちには何ら引け目を感じなかっただろう。


 感じてしまうのは、これ以上言葉を重ねて敵を知りすぎるのを拒否したからだ。向き合うにはあまりにも立場が違い、理解しがたい事情が互いにあった。


「勝負だ……」


 ヘリックの低い声と共に、〔ゼルドナァ・ヘリック〕はバウスプリット・ランスの後部、発振装置を作動させて片脚の踏み込みに勢いを乗せる。


 眩い光電が夕焼けの平原を走り、背後のライン河が光を反射する。


 先ほどの突きとは比べ物にならない電光石火の一閃。その負荷は操縦者であるヘリックの身体に容赦なく伸し掛かり、身体が砕けそうになる。


 その一撃を〔アル・ガイア〕は体をさばいて、紙一重に回避する。それは(マサキ)たちの操縦ではない。機体の自動反応(オートリアクション)が働いたに過ぎない。


 (マサキ)たちは身体をくの字に曲げて、その衝撃に耐える。内臓が喉元を通ってくるかのような気持ち悪さに苦悶の表情が浮かぶ。


「――――っ」


 対するヘリックはモニタに赤みがかった帯のようなものが見えたが、フットペダルとコントロールスティックを素早く操作する。毛細血管がぶちぶちと切れる音が手足から鳴る。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は左脚部を素早くひきつけ、鉤爪をやわらかい土壌に付きたてる。そして、発振装置をさらに増幅させて、機体を捻った。


 乾坤一擲の左腕部の裏拳がさらに〔アル・ガイア〕の頭部に襲い掛かる。


 破片が舞い跳び、黒い巨人がその勢いに負けて、よろよろと後退する。〔アル・ガイア〕の頭部は二度にわたる拳で無残な状態であった。四つのセンサーアイはカバーがつぶれ、えらのように吐出していた排熱機構も砕け、側頭部の回折式カメラも破損している。それでも光学センサはまだ起動している。モニタの画質はさらに荒くなったが、敵の動きはまだ追跡できた。


 問題は搭乗している(マサキ)だ。


「うぅ、がぁ、ああ!」


 全身を鞭で打たれたような痛み、手足が千切れたのではないかと言うほどの衝撃に苦痛の表情を浮かべる。意識ははっきりしている。だというのに、上がってしまった顎が戻らない。


 モニタには亀裂が入り、次に一撃を貰ったら操縦者に達しかねない。


「援護射撃はできないのか?」

「ヘリックさんが近すぎて撃てねぇよ」

「本当に一人で決着つけるつもりだぜ、ありゃぁ……」


 城壁のように連なる〔ガング〕艦隊と護衛の〔パンツァー・グランツ〕隊はヘリックの援護に入りたかったが、互いの距離が近すぎて身動きが取れなかった。


 いや、この戦いに水を差すのは無作法だとも感じられた。彼の実力と〔クイーン級(ケーニギン)〕との実力は計り知れず、手を出したら後味の悪い結果を生むだろう。どちらが勝っても負けても、そこには矜持があり、フライハイトの面々はただ息を呑んで彼らの決闘の行く末を見守る。


「こ、の……」


 フォノはよろける機体の出力を上げさせながら、片脚で迫りくる〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見据える。その前身はシュールな光景であったが、次にまた電光石火のランスを食らったらやられる。


「機体の構造を見抜かれてるの? だから、頭ばかり……?」


 結子(ユイコ)は追いすがってくる敵機を睨みながら、〔アル・ガイア〕と〔ゼルドナァ・ヘリック〕との間隔を一定に保つようにした。センサがすべてやられていなかったから、一定距離を保つように指令を打ちこめた。


 それでも気休めにしかならない。単調な動きで、後退を続ける〔アル・ガイア〕には高度な技を受ける力はない。避けられても、また追撃が来る。


「湖が……後ろに」


 結子(ユイコ)は振り返って、〔アル・ガイア〕の背後に広がるため池のような湖を目にする。深さはわからない。黄金に光を反射させて、その全貌も定かではなかった。


「次で終わりだな……」


 ヘリックは大きく上下し、背骨を砕かんとする衝撃に苦悶の表情を浮かべながら自機に最後の攻撃の準備をさせる。右脚部が健在であったなら、ここまで身体を酷使することはなかった。脂汗が滲み、まだ霞んで見える赤い帯に闘争心を燃え上がらせる。


 互いに体力の限界。次の一撃が勝負であった。


「負け、られない」


 (マサキ)は伸びきっていた首を力ずくで縮ませ、バウスプリット・ランスを構える〔ゼルドナァ・ヘリック〕を見据える。


〔アル・ガイア〕が湖のほとりで立ち止まり、夕日を背にする。その兜の内を黒い影に隠して、カタナを振り上げる。切っ先は紫色に染まる空を指し、同士討ち覚悟の攻勢の構えを見せた。


「タイミング、来るよ!」


 結子(ユイコ)の報告と共に〔ゼルドナァ・ヘリック〕が左脚部を屈める。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕の脚部コンデンサに電力が蓄えられ、背負うマントが静かに下りていく。


「出力、最大。一瞬でお願い!」


 フォノは機体のわずかなエネルギーを開放し、タイミングを(マサキ)に預ける。


〔アル・ガイア〕のセンサーアイがかすかに発光して、閃光と共に疾駆する〔ゼルドナァ・ヘリック〕の姿を捉える。


 ヘリックと(マサキ)の叫びが轟いた。


 そして、交差する刃。砕け散り、崩れ落ちる鋼の音が操縦者たちの感覚を引き伸ばし、〔アル・ガイア〕と〔ゼルドナァ・ヘリック〕の挙動が遅く感じられた。


 バウスプリット・ランスは〔アル・ガイア〕の頭部に伸ばされていた。しかし、その穂先はすでに振り下ろされたカタナによって切断されていた。さらにはランスは〔アル・ガイア〕の右肩部をかすめただけで搭乗者を捉えることはできなかった。


〔アル・ガイア〕は全ての力を刀身にかけて、袈裟斬りで〔ゼルドナァ・ヘリック〕の左腕部の末端を切断、そして、要である左脚部を無理やりに食い込んだ。しなった刃が無理な角度からの切り込みに堪えかねて、甲高い音を立てて中ほどで折れた。


 互いの機体が倒れる。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕は湖の中に頭から突っ込み、水しぶきを上げる。予想以上に浅く、機体の半身が表面に出ていた。


 倒れた衝撃に操縦者たちは歯を食いしばる。


「まだ、終わりではない!」


 ヘリックは叫んだ。舌の上で血の味が転がる。


「まだ動くぞ!」


〔ゼルドナァ・ヘリック〕の右腕部が動く。得物もまだ使える。


 彼は意地になり、自機を仰向けにして右腕部が握るバウスプリット・ランスを分離。マニュピレーターを水中で回転させて、護拳をランスと合体させた。


「――――ハァッ」


 (マサキ)たちは警報音を耳にして息を呑んだ。


 まだ敵は戦う気で、必殺の一撃を叩きこもうとしている。背中がジワリと汗ばんで、吐き気がした。三人の感情が一気に膨れ上がって、がむしゃらに操縦桿を操作した。


〔アル・ガイア〕は折れたカタナを棄て、背部に懸架している汎用機関銃(ドゥーオ)のグリップにマニュピレーターを伸ばしながら振り返る。


 そして、湖に仰向けになりながら、空洞のランスの切っ先に光が宿っているのを目にする。


〔ゼルドナァ・ヘリック〕はオーバーロード寸前の射撃に、斬られた砲身から漏電が起きていた。収束装置であり投射装置でもあるランスが不完全であるがゆえに、その射撃精度にも心配があった。


 ヘリックはそのような機体の状態など気にせず、振り返り銃口を向けてくる〔アル・ガイア〕の頭部が目に飛び込んできた。夕日を浴びて、浮き上がったその顔に思わず目を見開いた。


 ボロボロになって、涙を流しているように見える機械の顔だった。


「――――惑わされるな!」


 ヘリックは自分を鼓舞して、トリガーを引く。先手を取った。


 機械が憐憫の眼差しを向けるはずがない。いや、そう錯覚してしまうのは(マサキ)たちとの問答が心にしこりとなっていたから、だろうか。


 凝縮された光弾が放たれる瞬間、ヘリックは少女たちの悲しげな顔を見た気がした。眩い光を浴びて、浮き立つ柔らかい肌の色、目を閉じて、涙を流しながら、何かに耐える一瞬。幾度となく見てきたはずの、虐げられてきた同胞たちの顔だった。


 放たれた光弾は雷鳴のごとく轟いて、余剰の燐光が湖の水を蒸発させる。

 

「……っ」


 (マサキ)、フォノ、結子(ユイコ)は固く目を瞑って、祈りながらトリガースイッチを押す。頬に温かい滴が伝う。死んでしまうという恐怖も、生きていたいという願いも、その一滴に込められていた。


 その時、〔アル・ガイア〕がぐらりと後方に仰け反った。


 腹部に受けた損傷と結子(ユイコ)が設定したプログラムが実行されたのだ。光弾は衝撃波でこそ〔アル・ガイア〕を圧倒したが、その砲弾は微かにアンテナの角を溶かして不発に終わった。


 同時に光が生み出す轟音の中で、汎用機関銃(ドゥーオ)の青白いマズルフラッシュが食われ、連射音が殺された。


 (マサキ)たちは暗闇の中でお尻を突き上げるやわらかい衝撃を受けて、目を開いた。


「生きてる……? フォノ!? 結子(ユイコ)!?」


 (マサキ)は自分の五体がまだあることを確認して、内線で二人に呼びかける。


「生きてるわ」

「こっちも、大丈夫」


 二人からの返答に(マサキ)は心の底から、嬉しくて胸を撫で下ろす。


「けど……」


 結子(ユイコ)の震える声を耳にして、(マサキ)は正面を見て息を詰まらせる。


 水蒸気が晴れて明らかになったのは、赤く燃えるような湖の上で横たわる〔ゼルドナァ・ヘリック〕であった。使用したバウスプリット・ランスは銃口が溶けてなお、標的に向けられたままで、胴体には無数の空洞が空いていた。


 ピクリとも動かない、鋼の骸である。


「わかってる……」


 (マサキ)は赤く腫れた目元に溜まる涙を払って、尻餅をついた〔アル・ガイア〕を汎用機関銃(ドゥーオ)を支えに立ち上がらせる。


 実力ではなく、最後の最後、運が味方をしてくれたことは(マサキ)たちが一番よくわかっている。


「わかってるよ」


 (マサキ)は自分に言い聞かせるように言いながら、視線は只の屑鉄と成り果てて、動くことのなくなった〔ゼルドナァ・ヘリック〕にも向けていた。


 実力の上では格段にヘリックの方が上であることを認める。しかし、結果として(マサキ)たちは生き残り立ち上がることができる。


 この戦いの結末であり、結果である。


「敵にさ、同情だなんて……。撃たなきゃ、こっちが死んでいたんだから」


 (マサキ)たちは苦しい思いを抱きながらも、嵐が過ぎ去ったかのような清々しさを感じていた。終わってしまったこと。そして、取り返しのつかないという事実だけがふわふわと頭の中に浮かび上がってくる。


 今はまだその呵責は強くない。罪悪感と嫌悪感で動けなくなる前にやらなければならないことが残っている。


〔アル・ガイア〕は遠くで城壁を築いた艦隊を視界の端に捉えながら、放り捨てたカタナ二本を回収する。〔ゼルドナァ・ヘリック〕から離れても、砲撃を加えてくることはない。敵わないと思ってくれているのだろうか。それとも、たぎる怒りを抑え込んで、悔しさを噛み締めているのだろうか。


 (マサキ)たちは人を殺めてしまった。


 その意識は頭の中にあるのだが、生理的な部分でうまく飲み込めず、淡々と引き揚げる操縦をすることができた。もし、敵が〔アル・ガイア〕の背を向けた瞬間に砲撃を加えてくるようであったなら、彼女たちは沈んでいる気持ちを跳ね上げて遁走しただろう。


 だが、結局は〔アル・ガイア〕が上流の方へ移動していくのを、フライハイトの部隊は静かに見送って手出しはしなかった。


「打ち合わせ通り、上流でミトさんたちの手伝いをするよ? 大丈夫?」


 (マサキ)は一言もしゃべらないフォノと結子(ユイコ)に気を利かせたが、返事はなかった。


〔アル・ガイア〕は重々しい足取りで進んでいく。右手には地平線に夕日が沈もうとしていた。


「…………」


 (マサキ)は一人、夕日が沈む前に振り返って〔ガング〕艦隊がひっそりと〔ゼルドナァ・ヘリック〕が横たわる湖に接近するのを目に入れて、胸のつかえが少しだけ和らぐのを感じた。

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