~畔~ 強襲起動
「くしっ」
柾たちは焚火に当たって暖を取っていた。
洗濯中に沢に落ちて全身びしょ濡れとなり、おまけに汚物をひっかぶったようなもので、心身共に最悪な気分だった。
冷たい水で体を洗ったとはいえ、その汚辱の記憶を拭うにはまだまだ時間が必要だった。だからこそ、人気が少なくなった湖畔に来て、昼食をとることにした。
「着替え分がないとはいえ、その格好。寒いでしょう?」
焚火にかけていた川魚の焼き加減を見ているミトが、柾たちの格好を見てあきれ返っていた。
三人とも寒々しい格好だ。柾はワイシャツ一枚、フォノと結子は下着姿である。年頃の女の子がそんな恰好で、秋空の下で珠のような肌を晒しているのはどうなのだろうか。
ぱちぱちとはじける焚火に当たりながら、柾は鼻を啜った。いつものマフラーはなく、彼女のすっきりした顔の輪郭が現れ、鼻頭はいつもより赤くなっていた。薄いワイシャツはだぶだぶで、肩が少しずれている。袖口も幾重にもまくって、小さな手を出している状態だ。
「寒いけど、羽織るものないもん」
「毛布は怪我している人や老人優先だものね……。くしゅっ」
フォノはくしゃみをして、自身抱くようにして腕を摩った。キャミソールに薄いズボンのようなズロースではとても寒さをしのぎきれるものではなかった。髪もまだ生乾きで、お気に入りのストールも干している最中。張り出した胸や尻、細い腰つきは目を引くものがある。
湖が静かに波立って心地よい音をしていても、寒さが増すばかりに思えて仕方ない。
「…………」
結子も結わいていた髪を解いており、サラサラな黒髪を撫でている。胸元は筒状のトップとタイトなショートパンツだが、どちらもまだ生乾きで気分が悪い。夏場ならおかしくなかっただろう。ほっそりとした華奢な体つきは寒さに無抵抗な印象すらある。
三者三様の姿。そして、時代のばらつきは二世紀ほどの差を感じさせる。これまで生活感の違いもある。それが彼女たちの溝のように感じられた。
ミトは焼き上がった川魚を一つ手に取って、青ざめた顔をする結子に差し出した。
「はい。お腹、空いたでしょ?」
「あ、ありがとうございます……」
「柾とフォノも」
柾とフォノも串刺しになった川魚を受け取る。
いただきます、と三人が言って一口齧り付くと、うっと微妙な表情を浮かべた。口に含んだ瞬間、焼け焦げた皮の部分だとか、妙に火が通っていないとか、そういう問題ではない。
ミトがやっぱりか、と愛想笑いを浮かべる。
「お塩も節約しなくちゃダメだから、ちょっと生臭かったかな……」
「生臭いというか、身が……」
咀嚼する柾は目を細めて、口から離した焼き魚を睨んだ。口の中に残る生臭さ。しかし、何とも味気ない身が嫌な後味を残す。皮の焦げ目の方がまだ食べられる。
水っぽいシーチキンというか、悪く言うと湿った大鋸屑を噛んでいるような感じ。
フォノももくもくと食べて飲み込むと、苦い表情を浮かべる。
「大味……、かしら。大きい魚ってこうなのかな?」
「湖育ちだから、かな?」
結子は二口を食べて感想を言った。
綺麗な湖を眺めて、ここに生息する魚がどんなものを食べているのか三人は思う。
ミトは難しそうに頭を掻いて、適当な石に腰を下ろす。
「そういう問題とは、違うんじゃないかな?」
「じゃぁ、どういう問題?」
柾は焼き魚の小骨を噛みながら問うた。
ミトが思案顔をして、湖を見渡す。
柾たちも改めて、湖畔を眺める。綺麗な水面は空に浮かぶ雲を映しだし、青々とした山稜をも落としている。きらきらと太陽の光を照り返して、豊かさと静けさを宿している。遠くの岸辺に目を向けると、鹿だろうか。動物が水を飲んでいるように見える。
自然豊かな場所で、動物たちには憩いの場と言えよう。
「なんか、変なのよ……」
じっくりと眺めたミトは漠然と言った。物憂げに、喉の奥に何かを詰まらせたような言い方。
柾たちはからかわれている感じがして焼き魚に齧り付く。ホクホクと熱い身が舌の上で踊った。それでも不味いのは変わらない。
「水とか綺麗だから、普通お魚だっておいしいはずなのにね」
「いいもの食べてなかったんじゃない、この子」
柾は冗談交じりに食べかけの焼き魚を振った。
「こういうのを、毎日食べてくのかな、あたしたち?」
「贅沢言えないといえ、これは……」
結子とフォノは苦い顔つきになりながら、食べている焼き魚のことを思う。
旅に出て、まず問題となるのが食料だ。自給自足は当たり前で、こういった場所である程度量を取っておかないと大所帯を支えることなどできない。幸い、量はそれなりに釣り上げたらしく、〔エクセンプラール〕の近くでは釣った魚の加工が始まっている。
ミトがそのもうもうと立ち上る煙を一瞥して結子とフォノに視線を戻した。
「燻製にするなりして、どうにか味を調えるしかないわね。さすがに生は無理でしょう。日持ちしないし」
「凍りづけにすればいいのに」
何気なく柾はいうも、ミトは頭を振る。
「できたらやってる。けど、あの船の氷室、氷がなければ冷やせないわ。よくアレで船旅ができるものね」
「バイン・シフって言っても大陸巡航のするのに、町に寄るからね」
柾は思い出しように言う。
その隣のフォノは胸元を押さえて、妙な胸焼けを覚える。
「加工品ばかり食べてたら、味に飽きそうね」
「油漬けとか塩漬けとか、種類ある、よね?」
結子も味の心配をしていた。旅に贅沢なことは言えないが、この焼き魚の味を考えても空きが来るのは早いと踏んだ方がいい。
「それもやってる。だからここに、お塩がないの」
柾たちは途方に暮れるミトに空返事をして、焼き魚を食べきる。
ミトからすれば水っぽいところを除けば、まだまだ食べられたもので結子とフォノの言い分は少し大げさな気がした。
「そんなにマズイかな? フォノも、結子もちょっと失礼じゃない?」
フォノと結子の懸念に、柾が口元を尖がらせる。おいしくはないも、食べていける満足感はある。
「柾。あなたって、本当にお嬢様だったの?」
「そうだよ。工場の食堂でだってもう少しおいしいの出てきたのに」
二人の訝しむ視線に、柾はきょとんとしながら骨身だけになった焼き魚を焚火の中に放り込んだ。
それから、火に当たっている素足を擦る。蟹股になって、内側を摩る。
「お嬢様って言われても、ピンと来ないよ」
「柾ってお嬢様だったの? こら、下着つけないのに足広げない」
ミトはぴしゃりと柾を叱りつける。
無神経というか、羞恥を知らない子供というか。
彼女がお嬢様と呼ばれるのがどうにもしっくりこない。普段から下着もつけない、ズボンばかり穿いて、機械いじりや遠出しては汚れて帰ってくる柾は女の子というより男の子っぽい。
柾は膝小僧を突き合わせて、内股になると肩を寄せる。ぶかぶかのワイシャツに、彼女の胸が強調される。
「だって、寒いんだもん」
「女の子として、どうなのってこと」
ミトはため息をついて、こめかみを抑える。
「そうよ。柾はもっと清楚でいることを心がけるべきよ」
「…………」
語気を強めてフォノが付け加える。
その横で結子が焼き魚に齧り付けながら、二人の体つきを見た。七年の間に妙に差がついてしまって、どことなく不思議に思う。
特にフォノは美麗で可憐になったと思う。小さいころからそういった雰囲気を感じさせていたが、張り出した胸やくびれた腰つき、細い足を間近で見ると一層強く思うのだ。
「どうかしたの、結子さん?」
「いいえ、なんでもありません」
ミトに気遣われたが、結子は冷静に返す。その視線がどこか上の空。
ミトも深くは追及せず、柾に向き直る。
「それで? お嬢様だったのよね?」
「お嬢様って言うか、家が技術士で。あたしはその、えと、端くれなの。貴族様のように着飾ったり、習い事してたわけじゃないの」
「その技術士って、教会公認の名家でしょう? アーデル・ヴァッヘとかバイン・シフとか直したり、組み立てたりする」
「詳しいね、ミトさん」
「一応、その筋に詳しい人が昔いたのよ」
ミトの呆れた物言いに柾は小首をかしげる。
フォノはむくれながら言う。
「小さい時からこんな感じだったわ。スカートを穿かない女の子、初めてだったもの」
「そう?」
「最初会った時、男の子かと思った」
「わたしもっ!」
結子のつぶやきに、フォノは激しく同意した。
その様子をおかしそうにミトは笑った。
柾だけはさらに首をかしげて、疑問符を浮かべるばかりだった。
「世間離れしてるってところはお嬢様かもね。にしても、本当に仲がいいのね、あなたたち」
ミトの何気ない言葉に、柾たちは顔を見合わせる。誇らしげに微笑んで、だけど、どこか陰りのある瞳で目配せをする。
「た、大変だぁあああっ!!」
と、森の方から男の子が大声を上げて柾たちのもとへ駆けこんでくる。息せき切って、青ざめた表情がただならない雰囲気を醸し出す。
ミトがいち早く立ち上がって、男の子のもとへ歩み寄る。
「どうしたの? 何があったの?」
ミトが心配する傍らで、男の子は手を膝について息を整える。
柾たちは振り返って不安げ視線を向ける。
「教えて。何があったの?」
ミトは屈んで、改めて問うた。
男の子はミトと柾たちを見比べて、途切れ途切れに言う。
「き、騎士団が————、騎士団が————っ」
男の子が声を張り上げようとした瞬間、空気を揺さぶる爆音が轟いた。
咄嗟に柾たちは地面に伏せて、ミトもまた男の子を抱き寄せる。一筋の雲が低空で流れて、近くの森林に落下した。爆発はない。だが、木々をなぎ倒し、土塊が飛び散った。
地面の激震が収まるのを待って、柾たちは姿勢を低くしたまま寄り集まった。先の爆音で耳なりがして、互いの声も自然大きくなっていた。
「どこから来たの!?」
「爆発はなかった! でも、カノン砲の砲撃だよっ、きっと!」
フォノの青ざめた顔を見て、柾は必死に言った。
「このことを知らせに来たの!?」
ミトは胸に顔を押し付ける男の子に言った。男の子は震えたまま頷いて、ぎゅっと彼女にしがみつく。
「騎士団が来てる! しかも、攻撃してきてるっ!」
結子がミトたちの様子を観察して、柾たちに告げた。
鋭利な刃物が突き刺さったかのような痛みが柾の胸を貫いた。同時に二度目の砲撃が鳴り響く。
「騎士団…………」
柾は茫然自失で戦慄する。血の気が引いていき、考えないように努めてきたことが不意に蘇って体を縛り付ける。
二度目の砲撃は〔エクセンプラール〕よりも奥へ落下した。雷鳴のような轟音は心臓を激しく揺さぶった。
「スモークで見つかった?」
結子は二度の射撃を見てそう判断する。弾道の軌跡はどれも燻製で発生したスモークを貫いている。しかし、発生地点を狙っていない。別の目標に向かって撃っているとしか思えない射撃だ。
「次が来る前に移動しましょう!」
フォンが全員に言った。
ミトもそうね、と力強く頷いて立ちあがった。早く見晴らしのいい湖から離れる必要があったからだ。と、抱きかかえる男の子が彼女の耳元で何かを囁いた。
「フォノ、柾、急ごうっ!」
結子は震える足で立ち上がると、柾たちを促した。
フォノは返答して、近くにいる柾にすり寄った。
「柾もっ!」
「あたし——、あたしを殺しに来たんだ……」
柾のうつろな瞳と譫言にフォノは息を飲んだ。
それから、無理やり腕を引っ張って立ち上がらせる。
「何言ってるの! そんなはずないでしょう!!」
フォノは感情的に叫んで、柾の肩を担ぐようにして走り出す。
続く三度目の砲撃が響いて、今度は湖に落下した。水が意志を持ったように大きくうねり、波を作り上げる。
柾たちは激震に足を取られながら、迫りくる波から必死に逃げ出す。ぱらぱらと飛沫が雨となる。
激流が背後から勢いよく迫る。
柾たちは茂みに入ると、手近な樹木にしがみついた。柾とフォノ、結子と男の子をかかえたミトでそれぞれ身を寄せ合って樹木を盾にしつつ、幹にしがみついた。
波はすぐに森へと進行し、腰まである奔流が襲い掛かってきた。冷たい水が体を打ち付ける。足元をすくわれて、転倒しそうになるも互いに体を支え合って引いていく波の力強さにも耐えた。
全身びしょ濡れになって、凍てつくような寒さと恐怖に震えながら合流する。
「大丈夫!?」
ミトが確認を取って、柾たちは頷いた。
「船にいる人たちがアーデル・ヴァッヘを出すって。わたしたちはとにかく船の方へ————」
結子は男の子から得た情報を口にする。
瞬間、柾の目の色が変わった。恐怖に彩られた黒い瞳が結子を射抜く。
「それは、ダメだよっ!」
柾は大声で叫んで走り出した。
「どうして!?」
ミトが問うても、柾は何かに憑りつかれたように一心不乱で船を目指した。
その後ろ姿を追うようにして、フォノと結子も走り出す。胸の奥でざわめく嫌な予感。柾の不安定な情緒を垣間見て、一番辛かった記憶が脳裏にちらつく。
七年たっても癒えない、別離の傷跡が疼いて三人の絆を軋ませる。
「あなたたちまで——、待ちなさいっ!」
ミトはすぐにも走って追いつきたかったが、彼女の右足は足枷のように動かず駆けだすことを許さない。抱える男の子の怯えを肌で感じながら、足を引きずって進む。
見る見るうちに三人の後ろ姿が小さくなっていく。砲撃なんかよりもずっと怖いものが、彼女たちの背中から感じられた。
「第四射、用意」
湖を超えて、〔エクセンプラール〕から二、三キロ離れた地点で修道騎士団の〔カヴァレリー・ポーン〕が射撃陣形を敷いていた。
「目標をおびき寄せばいい。船は今回は無視しろ」
隊長機がハルバードを押しながら、背後にいる砲撃隊に外部スピーカーで言った。
砲撃担当の機体が屈んで、カノン砲を定める。機体は茂みに隠れて、ろくな照準もつけられない。しかし、近くで並ぶ白兵戦担当の機体が樹木の天蓋から少し目元をのぞかせて、立ち上るスモークを視認する。脚部のサスペンションストロークを最大限にして、背伸びをしている状態だ。
「仰角、二度修正。方位、そのまま」
「仰角、二度修正。了解」
彼らは短く、ヘッドライトの信号で静かにやり取りする。
四射目をする砲撃機がカノン砲の砲身を少し持ち上げる。操縦者のゴーグルにはレティクルと仰角、角度を示す数字が小さく記載されている。操縦者の操縦桿の動きよりも、音声入力で〔カヴァレリー・ポーン〕は自動で角度修正をしてくれる。
狙撃には適したシステムだが、どういう働きかけがあるのか操縦者たちは理解していない。ただそうであることを受け入れて、便利程度にしか思っていないのだ。深く追求する理由もない。
そして、弾倉から下った徹甲弾が砲身に込められる。
静かに、砲撃機は姿勢を安定させる。操縦者も呼吸を整えて、相手の見えない場所へトリガーを引いた。
マズルフラッシュが瞬き、徹甲弾が森林を突き破って飛んでいく。煙の尾を引いて、放物線を描く。
激震が走り、〔エクセンプラール〕の甲板に躍り出た柾たちは一瞬よろついてしまう。
「近い……」
柾はつぶやいて、首にアクセサリを装着する。時間がない。いつ〔エクセンプラール〕に着弾してもおかしくない状況だった。
フォノと結子も各々アクセサリをつけて、あたりに気を配りながら横たわる〔アル・ガイア〕に駆け寄る。そこには多くの男たちがたむろして、やんややんやと喚いている。
「どうして動かせない!?」
「敵はすぐそこまで来ているんだぞ」
「だったら、お前が動かしてみろってんだ!! できるものなら、誰かがやってるだろうがよ!」
柾たちは大人たちがべたべたと〔アル・ガイア〕に触れているのを見て、本気で戦う気だとわかった。
しかし、ショーウィンドーに飾られている新しい玩具に羨望する子供のようでもあった。
「何してるの、どいてよ!」
柾の声に男たちは振り返って、目を丸くする。彼女たちのあられもない姿に驚きとスケベ心をくすぐられた。
一人の男が近づく三人の前に躍り出て、顔を真っ赤にして怒る。
「なんて格好だ。恥ずかしくないのか? おい」
「動かないんでしょう? あたしたちが動かす。どいて」
柾が怒鳴りつける。
「どけないんだよ。こっちも」
「どうしてっ!」
通せんぼする男のほかに数人が集まって、柾たちの行く手を阻む。
強行突破を試みても、力の差が歴然ですぐに突き返されてしまう。意地悪にしては冗談が過ぎる。
「こういうことは男に任せろ。女の出る幕じゃない!」
「あなた方はそんなことを言って————、駄々っ子じゃないでしょう!? わたしたちだって好きで乗るわけじゃないわ」
「裸の女なら、そういうだろうよ」
訴えかけるフォノに誰かが冷やかすように言った。視線が突き刺さって、気恥ずかしさともやもやした気分が膨れ上がる。
結子が周りを見渡して言う。
「相手は、修道騎士団。手ごわい。あなたたちで勝てるの?」
「言い争ってる場合じゃないの。死にたくないでしょう? 相手を殺したくないでしょう?」
柾は必死に叫んで、目の前の大人たちに凄んだ。
しかし、どこ吹く風といった様子で大人たちは彼女たちの言い分に聞く耳など持たなかった。砲撃が来て、冷静さを失っていた。戦う力がすぐそこにあるというのに、動かないという焦りがさらに女子供の柾を見下す要因となった。うっぷん晴らしなのだ。
「男はこういう時に働いて見せて、女を守るのが役目だ。お前たちに動かせて、俺たちに動かせない道理はどこにもないだろ!?」
「なんて屁理屈をごねてるの!?」
フォノは呆れて、素っ頓狂な声を上げる。
五射目の発射音。今度は〔エクセンプラール〕に触れそうなほど低い弾道だ。
誰もが姿勢を低くして、頭上を通り過ぎる砲弾を見送った。巻き起こる風圧が甲板にいる人たちの姿勢をよろめかせる。
柾はワイシャツの裾を抑えつつ、怯えている大人たちを見て一気に駆けだした。フォノと結子もまた駆けだすと、正面の男に体当たりを決める。
三人分の勢いと竦んだ足ともあって、簡単に突破できた。
「二人ともっ」
「わかってる」
「任せて」
三人は短く言い合って、それぞれの操縦席へと向かった。
柾は頭部へと向かって全力で走り、フォノと結子は腕によじ登るとその上を走って胴体へと向かう。
男たちは追いかける気力をなくし、ただ彼女たちの毅然とした走りに嫉妬した。〔AW〕を動かせる素質。力を振るうことができる特権を羨ましいと思うのは当然と言える。男たちは何しろ可愛く尻を振って走る女の子に守られていることになるのだから。
プライドも何もあったものではない。
柾は頭部にしがみつくと同時に六射目が背後の方で落下するのを確認した。
「当たらない? 六発目なのに?」
「ね、姉ちゃん、その格好なんだよ!?」
「カーヴァル! あんたまで」
柾は頭頂部のハッチから顔をのぞかせる美少年、カーヴァル・イルスロットを見て胸が痛んだ。男たちは男たちで〔アル・ガイア〕を弄ぶ。
カーヴァルのような子供まで、遊び半分で乗り込んでいる現実が辛くて憤りを感じてしまう。
カーヴァルは目を白黒させて、ワイシャツ一枚の柾を見た。肌に張り付いたワイシャツが艶めかしくて膨らんだ部分に目が釘付けになる。
「早く出る!」
「けど、これ、動かないんだぞ」
「動かし方は、お姉ちゃんたちが知ってるの。だから、早く出て! 下にいる人たちの誘導をして」
柾は頭部に備えてある窪みに足をかけて、ずんずんハッチへと登っていく。
「いやだ。あいつらは俺が倒すっ」
「いい加減なことを言ってると怒るよ」
「もう怒ってるじゃん!」
操縦席に引っ込むカーヴァルに続いて、柾も侵入する。
「これは、俺らが使うんだ。姉ちゃんたちだけズルいぞ」
「ズルい? あんたって子はっ」
駄々っ子のようにシートにしがみつく彼を柾は思い切り蹴飛ばし、首元を掴んでハッチへと引っ張った。
「ふざけてんじゃないのっ!」
そういって、あらん限りの力を振り絞って高身長のカーヴァルをハッチの外へ投げ飛ばした。彼は一メートル近くから落下したが怪我はなく。すぐに立ち上がった。
「まったく——」
柾はハッチからアイランドに向かって駆け出すカーヴァルの後ろ姿を確認してから、シートに座った。
砲撃は六発目で止まり、異様な静けさを醸し出していた。
命中したと思っているのだろうか。だとしたら、好都合だ。
「フォノ、結子、聞こえる?」
ハッチを閉じて、柾はアクセサリから流れ込んでくる情報と起動しだすモニタを眺めながら二人を呼んだ。
すると、フォノと結子の声が操縦席のスピーカーに流れる。
「柾? こっちは準備できたわ」
「準備万端。いつでもどうぞ」
二人のイメージ映像がモニタに映るのを確認して、柾は気持ちを引き締める。一人で戦うわけではない。二人がついている。
だからこそ負けてはいけない、と心に刻みつける。
たとえ相手が修道騎士団だとしても怖気てはいけない。忌まわしい罪の記憶にとらわれている場合ではないのだから。
「了解。〔アル・ガイア〕、お願い」
柾は小さくつぶやいて、フットペダルを踏み込んだ。
そして、〔アル・ガイア〕の四つの瞳に光が宿る。




