~旅立ち~ 黒銀の悪魔
目の前に広がった火の海と黒煙の草原を見下ろして、蹂躙する〔AW〕の影を目に焼き付ける。
〔アル・ガイア〕の四つのセンサーアイと側頭部の一対の回折式カメラが乗り込んでいる三人の少女に提供する。
柾、フォノ、結子はその景色に息が苦しくなり、呼吸が浅く短なっていく。悪夢でも見ているかのような胸焼けや手足の痺れが思考を遅滞させる。
「嘘……」
柾は乾いた唇を震わせてつぶやいた。
と、〔AW〕の何機かがカノン砲を構えて小山の斜面にたたずむ〔アル・ガイア〕に砲撃する。飛来してくる砲弾は直撃こそしなかったが、機体の付近へ落ちて土塊を跳ね飛ばしては爆音を上げる。
〔アル・ガイア〕に泥が跳ねて、あちこちに付着する。それで損傷があるわけでも、支障があるわけでもない。
彼女たちがいる操縦席はモニタで投影された映像でしかない。直接三人を汚すことも爆音で耳を傷めることはなかった。
シートは幾何学的なデザインで、お尻を包む程度の座席に身体のラインに沿った細い骨子、その先端の手足を拘束するような操縦装置。モニタは金魚鉢をひっくり返したような構造で、足元だけは暗い影のようになっている。まるで人形を収める台座だ。
「こんなの嫌……」
フォノは狼狽して、心臓が破裂してしまいそうだった。
住み慣れた町が、少し目を離しているうちに赤く燃え上がっている。これを現実として受け入れるのは、あまりに残酷なことだ。
「…………」
結子も奥歯を噛み締めて、モニタに映る〔パンツァー・グランツ〕を睨み付ける。
調査のために送り込まれた彼女だったが、こうして〔AW〕部隊が直接町を焼き払う話は聞いていない。裏切られたと思うよりも、非道な手段で町を蹂躙することが許せなかった。
立て続けに襲い掛かる砲撃。敵が焦っているのか、いまだに当たらない。
三人の心がその砲撃と焼き尽くされる町、それをやった〔AW〕への敵意で極限状態に陥った瞬間、操縦席のモニタが赤いウィンドーに埋め尽くされる。嵐のようにめぐる文字の羅列。耳障りな電子音が操縦席を満たす。
〔アル・ガイア〕はセンサーアイを赤く煌めかせる。そして、顔の左右にある放熱フィンから熱風を吐き出すと、機体をかがめる。
そして、その体重移動でぬかるんだ斜面を滑りだす。
「動いたぞっ!」
フライハイト、修道騎士団の〔AW〕操縦者たちは動き出した〔アル・ガイア〕を見て叫んだ。
「何!?」
「どうなってるの!?」
「わからないよ!?」
柾たちはスロットル式の操縦桿を回したり、足をじたばたさせて操縦装置を動かすが機体は全く反応しない。
代わりにモニタに映り込む〔AW〕を片っ端から捕捉、カーソルを固定して目標を定める。
「この子が勝手に……?」
柾にはそうとしか思えなかった。
〔アル・ガイア〕が独自に判断して動いている。それは今まで見てきたどんな機械も成し得なかった高水準技術だ。〔AW〕もバイン・アウトーも人の操縦がなければ、鋼鉄の塊でしかない。だが、〔アル・ガイア〕は三人の操縦なしでも動くことができる。
砲撃の手が緩んだ瞬間、下っていた斜面を強く蹴り上げた〔アル・ガイア〕が燃え盛る戦域へ跳躍する。
少女たちは身体が潰れてしまいそうな衝撃に全身を強張らせて耐える。
「なんだ? あの機体は!?」
向かってくる〔アル・ガイア〕に〔カヴァレリー・ポーン〕も〔パンツァー・グランツ〕も恐怖する。
間近に迫るその大きさに圧倒され、四つの眼光が恐怖心を煽る。この世のものとは思えない禍々しい巨人は炎を蹴り飛ばすように着地するとその勢いに乗って駆けだす。
「応戦しろっ!」
〔パンツァー・グランツ〕を率いる隊長が叫んで、兵たちを鼓舞する。
「反乱分子は後回しだ! 角つきを狙え!」
〔カヴァレリー・ポーン〕を指揮する分団長は周囲の騎士たちに指示を出して、長柄の戦斧を構える。
修道騎士団もフライハイトも互いにつぶし合いをしている場合ではないと判断したのだ。
大股で大地を踏みしめて疾駆する〔アル・ガイア〕の底知れぬ力。両軍の砲撃の中を走り抜け、接近してくるのだから。
〔アル・ガイア〕は接近しつつ、応戦に出てくる〔カヴァレリー・ポーン〕一機に狙いを定める。
「戦うの!?」
フォノが消えていくウィンドーから僅かに見えた剣と盾を有した甲冑の騎士に目を丸くする。
不安の声を聞き届けたかのように〔アル・ガイア〕が右腕部を握り締めて、秘められた力を起動する。大気を揺るがし、熱量を上げる鋼鉄の腕。目立った変化は視認できなくとも、その強烈な振動音と熱量は尋常ではない。
モニタに二種類のサークルゲージが出現し、一気に跳ね上がる。
「素手で勝てるつもりかっ!」
〔カヴァレリー・ポーン〕の操縦者は気勢を発して操縦桿を操る。
体格差があるとはいえ剣技を習得した騎士にとってそれは大した支障にはならない。剣を突出し、盾を構えて突撃する。
〔アル・ガイア〕の右腕部が大きく薙ぎ払いを繰り出す。
「————っ」
結子は剣先が自分を貫くと覚悟した。鋭い光が目の前に煌めいて、心臓が跳ね上がる。
グボオォッ。気泡が破裂したような音と雷鳴のごくき轟音が耳に入り込む。
覚悟していた一撃を〔アル・ガイア〕の右腕部が打ち砕いたのだ。
いや、右腕部は剣諸共、〔カヴァレリー・ポーン〕の胴体を溶解させたのだ。〔カヴァレリー・ポーン〕はまるで血のように溶けた真っ赤な装甲が滴らせて、残った下体部が燃え盛る民家へと倒れ込む。
舞い跳ぶ火の粉。〔アル・ガイア〕の手のひらに粘っこい灼熱の金属が握られる。そして、ゆっくりと水銀のように手のひらに取り込まれていった。
「な、なんて奴だ。機体を溶かしやがった……」
誰かがそうつぶやいた。
〔アル・ガイア〕に勝てる術が思いつかない。素手で機体を溶かしてしまう悍ましい腕を持っているのだから、恐怖せずにはいられない。
「く、来るなぁああ!!」
砲撃部隊が後退しつつ、発砲する。
弾丸が〔アル・ガイア〕を捉えるも、右腕部がまるで予測していたかのように突き出した拳が唸る。
拳と弾丸が激突するとバッと四方に広がる燃え盛る液体が生き物のように地面を跳ねた。溶解された弾丸だ。瓦礫を押しつぶし、さらに炎の勢いを強めた。
そして、〔アル・ガイア〕は疾駆する。一機の〔パンツァー・グランツ〕を正面に捉えて殴る。マニピュレーターが手刀となって敵機の胸部を貫いて、そのまま上へ振り上げて溶かし尽した。
「うっ、えぇ……」
柾は目の前に上がるドロドロした鋼鉄が血しぶきのように見えて、垣間見える断面はハチミツのように流れて下半身へと流れていく。
フォノも結子もその流れていく真っ赤な液体に意識が跳んでしまいそうだった。
彼女たちの知る〔AW〕の機能の範疇を超えている。人の死に方ではない。溶かされて、あるいは蒸発して死ぬなどあってはならない状況だ。
「このぉおおおおおおお!!」
「くたばりやがれっ!!」
すると、〔パンツァー・グランツ〕二機が〔アル・ガイア〕を挟撃する。
〔アル・ガイア〕はしかし、膝から崩れ落ちる〔パンツァー・グランツ〕の残骸を前にしたまま動かない。
二機の得物、ハルバードと戦斧が〔アル・ガイア〕の腰部と左脚部に斬り込む。刃はさらに〔パンツァー・グランツ〕の力で深く深くめり込んで、装甲をひしゃげさせて内部へと侵入する。
だが、面白いくらいに刃がめり込む。鋼鉄ではなく、粘土に刃を突き立てている感覚だ。
「————っ!?」
「なんだこの感覚は」
攻撃に成功したはずの操縦者たちが狼狽する。普通なら得物の刃が装甲を食い破った時点で相手は崩れ落ちるものだ。
だが、〔アル・ガイア〕はまとわりつく二機をその赤い瞳で睥睨して、左腕部で戦斧を握る〔パンツァー・グランツ〕を掴み上げる。圧倒的な指圧でつかんだ肩部がひしひしと潰されていく。
「た、助けてくれぇえええええええ!!」
掴み上げられた操縦者は操縦席で喚く。ぎしぎしと聞こえる死の音。操縦席が歪んでいくのが耳に入り込んで全身に悪寒が走る。
ハルバードで攻撃した〔パンツァー・グランツ〕は仲間の危機に対して得物を手放して後退を選ぶ。とてもではないが、恐ろしい右腕部がある以上接近し続けるのは危険すぎる。
「あ、あぁ……。悪魔だ。こんなものは——」
操縦者は目を泳がせて、僚機を握りつぶそうとする〔アル・ガイア〕をそう呈した。足ががくがくと震え、操縦かんを握る手も思うように力が入らない。全身は凍える様な寒気を覚えて震えて、汗が滝のように流れる。
仲間に悪い、と思う。しかし、彼の心を縛り付けるのは圧倒的なまでの恐怖。
「ダメッ! 止まってよ!」
柾は操縦桿を必死に引き上げ、機体を止めようと努める。
だが、次には〔アル・ガイア〕は腰を捻って掴み上げていた〔パンツァー・グランツ〕を軽々と後退するもう一機に投げつける。
何十トンはある機体が嘘のように宙を舞い、後退していた機体を押しつぶすように落下した。
ドンッと地鳴りがあたりに響いて展開している〔AW〕各機は半歩後退る。勝てるとはもう思えなかった。砲撃も接近戦も太刀打ちできるものではない。
「撤退だ! 撤退しろっ!!」
まずフライハイトの〔AW〕隊がいち早く状況を見て、撤退を宣言した。今は戦力を削られるわけにはいかない。ここは引いて、目の前で体に突き刺さった刃物を抜き取る〔アル・ガイア〕の対策を撃たなければならない。
〔パンツァー・グランツ〕各機は砲撃機の牽制射撃を受けて後退を始める。投げ飛ばされた機体も半壊ながら下敷きにしてしまった見方を担いで逃げ出していく。
「そう。逃げて……」
結子は逃げ出していく仲間の影にそうつぶやく。
「動かないで、もうこれ以上動かないで……」
フォノは祈る様につぶやき、操縦桿を握る手に力がこもる。
「あなたたちも後退して! 戦わないでよ!」
柾は操縦席で叫んだ。
モニタに映る五機の〔カヴァレリー・ポーン〕が得物を構えてこちらに狙いをつけているのがわかった。紅蓮の炎に照らされて、濃い影となって挑もうとする面々。
その姿は騎士にふさわしい勇猛さや、高潔さが窺えた。それでも、たとえ崇高な精神を持とうとも、破壊の限りを尽くそうとする〔アル・ガイア〕の前ではどれだけ対抗できるのか。
修道騎士団はフォーメーションを組んで白兵機二機が突撃してくる。
「奴を野放しにするな! 艦砲射撃を要請しろ!」
「ここで仕留めなければ、被害は拡大するぞ!」
彼らには〔アル・ガイア〕がお伽噺に出てくる魔王のように感じられた。
〔カヴァレリー・ポーン〕の宝玉のようなセンサーアイの先で、黒い悪魔は悠々と自身にめり込んだ刃を力任せに引き抜いて放り捨てる。弱った様子はない。むしろ、その濁った赤色をした四つ目を向けて、威圧を与える。
圧倒的な力を振りかざし、いともたやすく二人の命を奪った。それも常識では考えられない力を使って。
だからこそ、修道騎士団は神を信じる者、この町の外で暮らす多くの民のために剣を奮う必要があった。
砲撃機の一機が黒煙の立ち込める空へと一発の信号砲弾を放つ。後方で待機している艦隊へ位置を知らせるためだ。
「来ないでっ! 止まって!」
柾の必死な叫びとは裏腹に、〔アル・ガイア〕は大きく脚部を開いて踏ん張りを利かせると向かってくる二機を見据える。そして、肩部の装甲が一部展開する。
すると、操縦席のモニタに二つの照準線が出現し自動で〔カヴァレリー・ポーン〕を捕捉する。
照準線が緑から赤に変わる。完全に有効射程距離内に張り込んだ。
〔アル・ガイア〕は瞬間、展開した肩部から銛を射出した。ワイヤーを伸ばして銀色に煌めくその切っ先が一瞬にして二機の〔カヴァレリー・ポーン〕の胸部を貫く。
「————っ」
柾たちは圧倒的なまでの戦闘力と唐突な攻撃に瞠目する。発見したものの凶悪さに後悔の念が募る。
砲撃機が後退しつつ発砲し、あたりでさらに爆発が巻き起こる。
〔アル・ガイア〕はワイヤーを素早く巻き上げて貫いた二機を引き寄せると、右腕部でまたも溶解した。まるで獣のように肉を引き裂き貪るように、燃えて滴る金属をその手にして、相手の息の根を止める。
残りかすのようになった機体の部品が地面に落ちる。火の粉と粉塵を巻き上げる。
「この機体、どういうこと……?」
結子は表示されているウィンドーを見て驚愕する。
ウィンドーには機体のステータスが表示されている。先ほどまで損傷した腰部と左脚部は赤く塗りつぶされていたというのに、警告色の黄色に変わりだしていた。
〔アル・ガイア〕の傷口は徐々に銀色の液体で覆われて、かさぶたのようになっていた。
自己修復機能。
そんな単語が三人の頭の中に過った。さらに先ほど使った銛、マルチ・ハープーンと呼ばれる兵器や右腕部のフェイズ・トランジション・アームの呼称も頭の中にふっと浮かび上がる。
自分たちが知るはずのない知識が頭の中で暴れまわる。
「どうしてあたし、この機体のことを知ってるの?」
柾は動揺を口にするも、走り出した〔アル・ガイア〕の衝撃で身体が圧迫される。
〔アル・ガイア〕は後退する残りの〔カヴァレリー・ポーン〕を追って町の外へと飛び出す。
真っ青な午後の日差しが機体を照らして、三人はその眩しさに目を細める。
「船がある?」
柾は細めた目で、正面に待機する三隻のバイン・シフを見た。修道騎士団の旗を掲げた〔ガング〕二隻と見慣れない形状の一隻。次々と〔ガング〕の砲門が火を噴いて、強力な火球があたりに降り注いだ。
収穫間近の畑に容赦なく降り注いでは、実った穀物が消し飛んでいく。さらに後退する〔カヴァレリー・ポーン〕と〔アル・ガイア〕の鋼鉄の脚が踏みつぶしていく。
「どうすれば、止められるの?」
柾は混乱する頭で操縦桿やペダルを弄りながら、具体的な停止方法を模索する。
このままでは畑も、〔ガング〕と見慣れないバイン・シフも〔アル・ガイア〕に破壊されてしまう。
〔アル・ガイア〕は確かに独自で動く、自動操縦モードになっている。
だが、停止させる手段は必ずあるはずだ。
〔アル・ガイア〕が旗艦と思われる大きく、平たいバイン・シフに狙いを定めて跳躍する。
その一蹴りは後退している〔カヴァレリー・ポーン〕の頭上を軽々と飛び越えていく。
「空中では身動きはとれまい!」
「撃ち落とせっ!」
「船に近づけさせるな! 出し惜しみをするな」
すぐさま艦隊と〔カヴァレリー・ポーン〕の砲撃が殺到する。空中では身動きが取れないと踏んでの攻撃だ。
焦りの中で事態の打開に努め始めた柾、フォノ、結子に次々と知識が流れ込んでくる。
それは三人が操縦するための知識。咄嗟に操縦桿とペダルを動かした。
〔アル・ガイア〕は脚部と背部、肩部に備えたスリットを展開。隠れていたスラスターを噴射して軽やかに軌道を変えて落下する。そのスラスターから黒煙が立ちぼって、弱々しい線を引いた。
柾たちにとっては崖から身を投げ出したような気分で、まともに下を見れなかった。自分が浮いているという感覚よりも下へと引っ張られる感覚が大きい。
「アーデル・ヴァッヘが空を飛んだぞ!」
修道騎士団は蒼穹を背に落下してくる〔アル・ガイア〕を見上げてそう叫んだ。
〔AW〕に飛行能力などない。跳躍力もさして期待できる代物でもない。それが短時間でも浮いて、落下軌道を変えてしまえば飛んでいると思っても仕方ない。
「そこをどいてっ!」
柾はバイン・シフの甲板が目に入って絶叫する。
次の瞬間、〔アル・ガイア〕はバイン・シフの甲板へ勢いよく着地する。その衝撃にバイン・シフの四本の脚は耐えきれず、崩れ去る様に船底が地面に激突する。
ドスンッと四本の脚を広げて、バイン・シフが踏ん張る。
そして、〔アル・ガイア〕は脚部のフックを傾いた甲板にひっかける。甲板をサーフボードのようにして、上下の振動を屈伸運動で緩和してバランスを取る。
「このっ。暴れないで」
柾の苦言とともに〔アル・ガイア〕は右腕部を振り上げる。彼女の意志ではない。機体が勝手に攻撃しようとしている。
修道騎士団の〔AW〕、バイン・シフは味方を人質に取られたと感じて砲撃を躊躇った。
「また勝手に————、あれ?」
シュゥウウウウウウ————。
ガスの抜ける様な音が機体のそこここから漏れだして、操縦席では軽快な電子音とともに一つのウィンドーがポップアップする。
柾は全身の痺れに耐えつつ、急に〔アル・ガイア〕の動きが止まったのを不審に思う。
〔アル・ガイア〕は腕を天へ向けて振り上げたまま固まって、一向にバイン・シフを破壊しようとはしない。
「止まった? でも、どうしましょう?」
フォノはモニタに映る修道騎士団を見回して不安な声を出す。
「エネルギー、ほんとんどない」
結子が注意深くウィンドーに表示されたステータスを見てつぶやく。
動かそうにも動けない状況になってしまった。今ここで総攻撃をかけられたら、簡単に破壊されてしまうだろう。
修道騎士団も様子を窺うように少しずつ、〔アル・ガイア〕から距離を取っていく。
柾は冷や汗をかきながら、使用できる機能を頭の中から引っ張り出す。外部スピーカーがまだ使えるようだ。首につけた端末に触れて、喉を震わせる。
「き、聞いて! この船はあたしたちがも、もらうから! 乗組員は早く出てってよ。じゃないと、溶かしちゃうよ! いいの?」
咄嗟に出てきた幼稚な言葉に誰もがぽかんとした様子だった。
フォノと結子は人の上擦っている声から緊張しているのがわかった。ここで動けないことを悟られるよりは、脅しをかけて修道騎士団を撤退させるべきだと踏んだのだろう。
とんだ博打打だ。
「女の子……?」
〔アル・ガイア〕が拾った向かいにたたずむ修道騎士団の〔ガング〕の拡声器に、柾は心臓が跳ね上がる。
このまま格下に見られたら総攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
三人の少女たちは祈る様に体を強張らせて返答を待った。
「あいつの言っていることは本当です。船ごと乗員を殺しかねません。指示に従いましょう」
一機の〔カヴァレリー・ポーン〕が進言する。
対して足場にされているバイン・シフから返答が来る。
「わかった。だが、我々の身の安全を保障してもらいたい」
「へ、変なことしなければ何もしない。何もしないからっ」
柾は博打に勝ったと安堵する。
修道騎士団の〔AW〕は構えを解いて、残り二隻の艦へと戻っていく。釈然としない様子であったが、命あってのものだねだと理解してるのだろう。もしくは、今〔アル・ガイア〕とことを構えるのは危険だと考えたのかもしれない。
船底を地面につけた平たいバイン・シフの乗組員たちが恨めしそうに降りていく中、柾たちは首を後ろに向けてモニタに映る町を見た。
まだ燃えている炎と空へと昇る黒煙。町の上空に残留する煙は日光を遮り、影を落としている。
「みんな、大丈夫かしら……?」
フォノは寂しげなまなざしで燃える町を見据える。
結子は機体の状態を確認しながらも、気持ちは滅入るばかり。仲間に裏切られたという実感がふつふつとわき上がって腹の底がぐるぐると唸る。
「…………」
柾は自分が見つけた機体がこれほどまでに恐ろしいものかと実感して、全身に鳥肌が立つ。だが、〔アル・ガイア〕がいなければ町はもっと滅茶苦茶になったことだろう。
修道騎士団ともう一派の組織を恨まずにはいられなかったが、体を蝕む様な疲労感にそんな感情も消えていく。
虚しさを残して、〔アル・ガイア〕は彫像のように佇む。その手先は太陽を指していた。




