第14話 シンデレラタイム
「……おい、さっさと着替えろ、出るぞ」
朝食を終えるなり、TOMAが不機嫌そうに言い放った。
連れてこられたのは、銀座の裏通りにある高級ブティック。
TOMAは深いキャップに大きなサングラス、黒のマスクという完全防備だが、店員たちは慣れた様子で深々と頭を下げる。
「お待ちしておりました」
「ここから順番に持ってきて」
「かしこまりました」
TOMAの一言で、苺依は嵐のような着せ替えショーに放り込まれた。
次々と運ばれてくる、コンシェルジュの給料何ヶ月分かもわからないドレスや靴。
「……こんなの、似合うわけないですよ」
「いいから黙って着てろ。あんたは俺の商品なんだから、外装を整えるのは当然だろ」
「商品って…他に言い方ないんですか」
「いいから、ほら次」
「……はい」
数時間後、ヘアセットとメイクまで完璧に仕上げられた苺依が鏡の前に立った。
オフホワイトのワンピースに、繊細なレースのヒール。
そこにいたのは、鏡を見るのも恥ずかしくなるほど「別人のように綺麗な」自分だった。
苺依を見たTOMAは満足気に頷きスタッフにカードを渡していた。
(一体いくらになるの……)
「いいじゃん……似合ってる」
急に褒められた苺依は戸惑いを隠せない。
「あ…りがとうございます……あの、お金は……」
「その服は55万」
「え!?」
「靴は23万」
「ええ!?」
「アクセサリーは…」
「も、もういいです! 聞きたくないです!」
「ふっ……あんたに払ってもらおうなんて思ってねぇよ。これは俺が頼んだことだ。俺が払う」
「でも……」
「申し訳ない、とか思うなら完璧に俺の女を演じろよ」
「………はい」
なんの反論もできぬままお店を後にする。
しかし…。
「……あ」
店を出ようとした時、履き慣れないヒールが石畳に引っかかる。
「きゃっ……!」
(終わった、顔面から転ぶ……!)
そう覚悟して目を瞑った瞬間。
ガシッ、と強い力で腰を抱き寄せられた。
鼻先をかすめる、TOMAのあの香水の香り。
「……どんだけどん臭いんだよ……ほら、捕まってろ」
サングラス越しでもわかる、呆れたような瞳。
TOMAは苺依の腕を自分の腕に絡ませ、エスコートする形を作った。
(これってなんか……デートみたい……)
「勘違いすんなよ。あんたが転んで服を汚したら、時間が無駄になるだろ」
「……わかってます。仕事、ですよね」
ぶっきらぼうに前を向くTOMAの耳が、心なしか少しだけ赤い気がした。
――To be continued




