第15話 TOMAの過去
「ちょっと時間があるな……少し時間潰すか」
石畳を歩くコツを掴めないまま、苺依はTOMAの腕に必死にすがりついていた。
人通りが増える通りに出る直前、TOMAは周囲を警戒しながら、路地裏の小さなアンティークショップに駆け込む。
「……ここなら少しは息ができるだろ」
店内は静かで、コーヒーの香りが漂っている。
外の喧騒とは別世界のような空間に、苺依はようやく深い溜息を吐いた。
「……ごめんなさい。歩くの遅くて」
「……別に。予定より早いしブラブラするよりじっとしてた方がいいだろ」
「………」
言い方は悪いけど、TOMAはやっぱり優しい。
チラリと彼を見ると店内の椅子に深く腰掛け、窓の外を眺めている。
サングラスの奥から覗く横顔は、ステージ上の何千人もの前で見せる顔よりも、ずっと脆そうで人間臭い。
(この人は、どんな風に育ったんだろう……)
ふと、店内に置かれたオルゴールが優しい旋律を奏で始めた。
苺依は、自分のワンピースの裾をきゅっと握りしめる。
「あの……TOMAさん」
「ん?」
「……お父様って、どんな方なんですか?」
TOMAがゆっくりとこちらを向く。
サングラスを少しだけ下げ、隠されていた瞳が苺依を射抜いた。
「……冷血だよ。感情よりも『家柄』と『利益』」
「………」
「俺には兄さんと姉さんがいるんだ」
「へぇ……」
末っ子っという意外な事実に、苺依は自分の弟と妹を思い出した。
どんなに大きくなっても姉というポジションは変わらない。
だからいつまでたっても可愛いと思える。
「でも俺とは母親が違う」
「え?」
「俺だけ母親が違うんだ。俺の母親は……見ただろ?」
「はい……」
「あいつは親父の金目当てに結婚したんだ。俺ができたのも計画だったらしい」
「そんな…」
「それで結婚したのはいいが、子供の世話はまったくしなかった。俺は兄さんと姉さんに育てられた。だからすっごく感謝してる」
「そうなんですね。TOMAさんはお兄さんとお姉さんが好きなんですね」
「……あぁ。俺が母親から虐待されそうになるといつも助けてくれた」
「虐待……」
あまりの辛い過去に苺依は思わず目頭が熱くなってくる。
いったい彼にどれほどの悲しい思い出があるのだろう。
いつもどんな気持ちでステージに立ってるのかと思うと、胸が苦しくなった。
「TOMAは芸名。本名は、如月……征志郎だ」
――To be continued




