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推しの妻になりました 〜アイドルと契約結婚〜  作者: 桐生桜


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15/16

第15話 TOMAの過去

「ちょっと時間があるな……少し時間潰すか」


 石畳を歩くコツを掴めないまま、苺依はTOMAの腕に必死にすがりついていた。

 人通りが増える通りに出る直前、TOMAは周囲を警戒しながら、路地裏の小さなアンティークショップに駆け込む。


「……ここなら少しは息ができるだろ」


 店内は静かで、コーヒーの香りが漂っている。

 外の喧騒とは別世界のような空間に、苺依はようやく深い溜息を吐いた。


「……ごめんなさい。歩くの遅くて」

「……別に。予定より早いしブラブラするよりじっとしてた方がいいだろ」

「………」


 言い方は悪いけど、TOMAはやっぱり優しい。

 チラリと彼を見ると店内の椅子に深く腰掛け、窓の外を眺めている。

 サングラスの奥から覗く横顔は、ステージ上の何千人もの前で見せる顔よりも、ずっと脆そうで人間臭い。


(この人は、どんな風に育ったんだろう……)


 ふと、店内に置かれたオルゴールが優しい旋律を奏で始めた。

 苺依は、自分のワンピースの裾をきゅっと握りしめる。


「あの……TOMAさん」

「ん?」

「……お父様って、どんな方なんですか?」


 TOMAがゆっくりとこちらを向く。

 サングラスを少しだけ下げ、隠されていた瞳が苺依を射抜いた。


「……冷血だよ。感情よりも『家柄』と『利益』」

「………」

「俺には兄さんと姉さんがいるんだ」

「へぇ……」


 末っ子っという意外な事実に、苺依は自分の弟と妹を思い出した。

 どんなに大きくなっても姉というポジションは変わらない。

 だからいつまでたっても可愛いと思える。


「でも俺とは母親が違う」

「え?」

「俺だけ母親が違うんだ。俺の母親は……見ただろ?」

「はい……」

「あいつは親父の金目当てに結婚したんだ。俺ができたのも計画だったらしい」

「そんな…」

「それで結婚したのはいいが、子供の世話はまったくしなかった。俺は兄さんと姉さんに育てられた。だからすっごく感謝してる」

「そうなんですね。TOMAさんはお兄さんとお姉さんが好きなんですね」

「……あぁ。俺が母親から虐待されそうになるといつも助けてくれた」

「虐待……」


 あまりの辛い過去に苺依は思わず目頭が熱くなってくる。

 いったい彼にどれほどの悲しい思い出があるのだろう。

 いつもどんな気持ちでステージに立ってるのかと思うと、胸が苦しくなった。


「TOMAは芸名。本名は、如月……征志郎せいしろうだ」


――To be continued

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