第13話 ほろ苦いブレイクファースト
気を取り直して苺依はキッチンに向かった。
食材はなんでもある。
苺依は手際よく卵を贅沢に使ったオムレツと、厚切りトースト、そして挽きたてのコーヒーを淹れた。
「……お待たせしました。どうぞ」
「サンキュ」
向かい合わせに座る、TOMAと苺依。
テレビの中の遠い存在だった彼が、今は寝癖を少し残したまま、目の前でオムレツを口に運んでいる。
「……うまっ。あんた、やっぱり料理だけは筋がいいな」
「だけは余計です……でも、口に合って良かったです」
当たり前のように繰り返される咀嚼音とコーヒーをすする音。
(変なの……こうしてたら普通の男性なのにな)
「……おい、何見てんだよ」
「あ、いえ……なんでも」
「………あぁ、そうだ」
TOMAがトーストを齧りながら、思い出したように口を開く。
「あんた、今日は仕事休みだろ。昼から、俺の親父に会いに行くぞ」
ガシャン、と苺依の持つフォークが皿に当たった。
「……え? もう、お父様に……?」
「あぁ。さっさと既成事実を作らないと、あのクソ親父が勝手に決めた婚約話が進んじまう。あんたは、俺の『最愛の妻』を演じろよ」
「演じ……私、そんな演技できる自信ありません……!」
「安心しろ。俺が完璧にリードしてやる」
ニヤリと不敵に笑うTOMA。
その瞳の奥には、父親への激しい対抗心と、ほんの少しの不安が混ざっているように見えた。
(この人は、たった一人で戦ってきたんだ……それにもう後戻りはできない)
苺依はギュッと拳を握る。
「……わかりました」
「ふん……なら、その『大福』みたいな顔、少しは引き締めろよ」
「だ、大福!? 私そんなに太ってませんけど!」
「バーカ、そのニヤけた面をどうにかしろって言ってんの」
「ニヤけてなんて……」
ない、とは言い切れないかもしれない。
推しとこんな普通に会話できるなんて幸せ以外の何ものでもない。
「じゃ、まずは買い物だな」
「買い物?」
「あんたを一流アイドルの妻に変身させんだよ」
そう言って微笑むTOMAは間違いなくテレビの中のTOMAの顔だった。
――To be continued




