第12話 無防備な王子様
翌朝。
高層マンションの大きな窓から差し込む朝日に、苺依はゆっくりと目を覚ました。
(……そっか。私、本当に引っ越ししたんだ)
夢じゃなかった現実を噛み締めながら、苺依は寝癖を直そうとフラフラと洗面所へ向かった。
「ふわぁ……。まずは顔洗って、朝ごはんの準備しなきゃ……」
寝ぼけ眼で洗面所のドアをガラッと開けた、その瞬間。
「あ……」
「…………ノックくらいしろよ」
そこにいたのは、鏡の前でヘアバンドをして前髪を上げ、無造作に顔を洗っているTOMAだった。
上半身裸というオプションつき。
衣装の上からでは分からないが、ほどよく引き締まったしなやかな筋肉と、浮き上がった鎖骨。
そこから滴る水滴が反射してキラキラと輝いている。
「ひっっっ!?!?!?」
苺依の顔が、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤になった。
画面越しに見ていた「腹筋チラ見せ」のファンサービスとは、情報の密度が違いすぎる。
「す、す、すみません!! 失礼しましたああああ!!!」
踵を返し勢いで扉を閉めてその場でうずくまる。
心臓が耳のすぐ横で鳴っているみたいにうるさい。
「……おい」
背後から、少し呆れたような声が聞こえた。
振り返ると、いつの間にかラフなTシャツを着たTOMAが、首にタオルをかけたまま立っていた。
「邪魔……」
「じゃっ!?」
「なにやってんだよ。裸くらいで」
「裸って……そりゃあ、あなたには分かりませんよね! ファンにとって推しの裸がどれだけ尊いかなんて!」
「は?」
「もういいです!」
言ってて恥ずかしい。
本人を目の前になに言ってんだか……。
「なぁ……」
「なんですか」
急に背後から伸びてきた腕。
まるでスローモーションのように苺依を包みこんだ。
「…………」
「???????」
数秒、なにが起こっているのか理解できなかった。
お腹の前に回された腕。
見上げると合う視線。
「飯……」
「はい?」
「飯、作って」
「あ……はい」
これで断れる人がいたら教えてほしい。
昨日の悪魔はどこにいった?
っていうくらい素直。
余裕たっぷりに去っていくTOMAの背中を見送りながら、苺依は大きく深呼吸した。
「すぅっ………はぁぁぁぁぁ」
前途多難な同居は始まったばかり……。
――To be continued




