第36話 ロールケーキ
美夜は茶葉入りの、ロールケーキを皿に入れて出す。
《お茶に添えて》なので、和風で小さめに作られている。
これは、陸が最近商品化したお菓子で、好評だ。
さくら茶舗は商標登録をして、今度S市の百貨店内にも、コーナーを構えることになっている。
陸兄さんは、積極的だ。
美夜は、陸が新商品を作る度に試食や意見を言う担当でもあった。
そして今日は、戦後新しくなったさくら茶舗に、初めて兄の友人の隼人が来て座っている。
祖母が、美味しいお茶を淹れてくれる。
陸も交えて、祖母の淹れてくれたお茶を飲んだ。
祖母もまだ元気で、久しぶりに隼人を見て嬉しそうだ。
それは、美夜がずっと心から待っていた、懐かしい日々の再来だった。
美夜と、汽車での帰りに再会したあと、しばらくして、隼人は桜茶舗に訪れた。
あの晩、川沿いの夜桜を見ながら、初めて隼人と2人だけの再会を果たして、
そのあと、隼人は美夜を家まで送ってくれた。
「おばあちゃん達も、隼人くんに会いたいと思っているから、今度、寄ってね」
美夜は、そう告げていた
家の前で、再び隼人は、美夜をそっと抱きしめた。
以前は、よく会っていたとはいえ、兄の妹として、3人で行動していたし、美夜は子供だった。
だから、以前とも違う、兄の妹としてではなく、隼人と美夜、2人の新しい立ち位置の始まりに、美夜はまだ馴れない。
隼人は週末、修道館で教えたりしているので、実家に戻る。
陸と飲みに行く時には、美夜も誘われるようになったし、時々翠さんも加わって、みんなで、門前町にある陸の友人のスナックへ、飲みに行くこともあった。
「あの中学生だった美夜と、酒を飲んでるなんて不思議な気がするな」
隼人が言うと、
「美夜は、結構強いよね」
陸が言った。
そして、後日、陸は美夜に言った。
「隼人が、美夜と会ったことを聞いた。隼人は、美夜と付き合うつもりだと、話してたよ」
隼人は兄の親友なので、多分きちんと兄に話したのだろう。
優しい兄は、
「良かったな。美夜」
と言って微笑した。
兄はきっとわかっていたのだと、美夜は嘆息した。
「あの、陸兄さんと翠さんは、どうするの?」
「ううーん」
陸は、困った様子だった。
翠さんが、兄にぞっこんなのは、傍目にもよく分かっていた。




