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土塀の町でわたしは兄の親友に恋をした。凍る国からの帰還兵はメープルホテルで出会う。  作者: レモン


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第35話  友人の彼 

遥佳は、大学の帰りが、美夜と同じクラスで一緒になったので、


「美夜ちゃん、一緒に帰ろう。」


と言ったが、美夜はこちらを見て、にっこりしたものの、


「ちょっと寄るところがあって」


と言う。


「お店? いいよ、一緒に買い物に行きましょ」


と、言ったが、美夜は歯切れ悪く、もじもじしている。


「じゃあ、駅まで」


と、言った。


《そうだ、美夜ちゃんの叔母さんたちが、S市に住んでるし、どこか行くのかな》


と思った。


駅に着いて二人は別れ、遥佳は時間があるので、駅ビルの表側にある書店に入った。沢山並んだ本の背表紙を、見てゆくだけでも楽しい。


好きなものを選んで2冊買って外に出る。

一冊は、水島さんが昔、読んだと言ってた本だった。


外に出ると、

《あれ? さっきと同じ場所に、美夜ちゃんがいる。》


しかも、一緒に背の高い男の人がいる。


今日は、朝から雨模様だったので、遥佳もそうだが、美夜も、その男性もレインコートを着て雨傘を持っている。


今来たばかりのようで、二人は向き合って、お互いを見ている。楽しそうに何か話しながら、美夜は照れたように、にこにこしている。


美夜ちゃんは、この人とお付き合いしてるんだ、と思う。


遥佳は、その男性に見覚えがあった。


以前美夜の叔母に、カクテルバーに連れて行ってもらったとき、夜の繁華街で

偶然すれ違った人。

美夜のお兄さんの友人だと紹介された人。

二人の女性を連れていた。


そして……そのあと、メープルホテルで働いているとき、ロビーで、派手な女性と会っていたのも、偶然目にしていた。


でもあの時は……。

何となく、別れてゆく男女の様子だったことが、傍観者の遥佳でも分かった。


このお兄さんの友だちって、いつも女の人と一緒だった。


遥佳は、美夜のことが心配になってきた。

でも、遥佳の心配をよそに、二人は、楽しそうに、一緒に駅の雑踏の中に消えていった。


ただ、遥佳は思い直した。


美夜の兄の陸は、とてもしっかりした人のようだ。

美夜とはとても仲が良い。


そのうちの親友と言っていたから、きっと人となりは知っていると思う。

そして、美夜からも聞いたことがあったのを思い出した。


「復員して、ずっと遠くにいた兄さんの友達が、今度こちらに戻ってきたの」


美夜が穏やかだが、嬉しそうに言っていた。


「親しかった人?」


「うん。戦争の前は、いつも家に来てたの。

でも、色々事情があったから」


それは多分、あの人のことだったのだろう。


兄妹は友人の事情も知っているのだ。

そして、賢明な佐倉兄妹のことだから、きっと大丈夫なのだろう、と、遥佳はそう思うことにした。








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