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土塀の町でわたしは兄の親友に恋をした。凍る国からの帰還兵はメープルホテルで出会う。  作者: レモン


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第25話  遠い人

終戦後の大火の後で、さくら茶舗が新しく建て直された時、店のスペースも広くなった。

主になって店を運営している兄の陸は、色々なお茶を試飲できるコーナーを作ったり、和菓子とお茶を飲めるコーナーを作ったりして、生活に活気を取り戻した町の人々がいつも訪れている。


陸は、お茶の産地にでかけたり、茶葉を使った菓子の製造を手がけたりするなど、新しい試みにも積極的だった。


進駐軍もまだ、滞在中だ。

ウィルは本国へ戻ったけれど、ベンさんはそのまま着任していて、変わらず仲良くしている。


そして、国へ戻ったウィルからは、美夜のもとへ手紙が届いた。


故郷に戻ったウィルは、友人達に、美夜のことを毎日話しているのだという。そして


“Miya, I miss you.”


と書かれていた。


ウィルの美しい笑顔と、彼の背景にあった青空が浮かぶ。

ウィルが思い出していてくれるのが嬉しい。


おそらく、ウィルはウィルの国で、美夜はこの国で生きて行くと思うけど。

でも、ずっと先まで、この淡くて甘いような、ふんわりした楽しい思い出は、自分の心を温めてくれるような気がした。

ウィルも、ずっと先まで、思い出してくれたらいいな、と思う。


珍しそうに、覗き込んできた陸が


「わあ、ラブレターだな、これは」


と言った。


陸はその日、隼人から連絡があったという。久しぶりに一緒に飲みに行くのだと言って、夕方から出かけて行った。


隼人は、さくら茶舗へは、あの最初に神戸から来た時以来、立ち寄っていない。

だから、美夜もS市の繁華街で偶然出会った時以外、会っていない。


兄と隼人と3人で、いつも一緒だった頃を想う。

兄の陸には時々会っているらしいのに、ここには何故か、彼は来ない。


本来の隼人ならば、祖母にもみんなに、明朗に挨拶に訪れると思う。


今の隼人は、さくら茶舗に来ることを避けているようだ。美夜や、祖母たちには会う気がないのだ。それは、明らかだった。


だから、昔のように、兄に 

「私も一緒に行く」

とは言えない。兄も美夜を誘おうとはしない。



兄と隼人が会った翌朝、皆で朝食を食べながら、


「隼人くんは、元気になっていた?」


と、母が尋ねた。


あんなにいつも、学校時代はさくら茶舗に立ち寄っていたので、母も祖母も、隼人のことは気にかけている。


尋ねられて、陸は


「うん、だいぶ調子が戻ってきたみたいだ。会社勤めも順調みたいだった」


と答えた。


「それは、良かったねえ」


と、祖母も言った。


「詳しいことは聞いてないけど、戦争では、殺される側にも、殺す側にも立たされる。辛すぎるよ」


そう言った陸の言葉に、美夜たちは、何も言えず、無言になった。


つまりそれは、隼人に起こったことだろう。


「隼人は昔も今もいい奴だよ」


兄は、ぽつんと言った。


隼人は、誰に対しても、偏見を持たない人だった。

中学生の美夜に対しても、全く対等な接し方だった。


そんな彼が戦地で、敵味方と言えど、状況に苦しんだのは、察するに余りある。


それでも、徐々に、他の人々には会っているのに。


さくら茶舗で過ごした時間と美夜だけが、忘れ去られているような気がしていた。

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