第23話 華やかな日々 2
水島は、これまでも、会社の人や同伴者を連れて来ることがあった。
数人で来ている時もある。
催しのお世話係をしている遥佳は、これまで水島が誰と来ても、気に留めることなく、喜んで席へ案内したり、挨拶をしたりしていたが、今日はとても気になる。
あの人は誰だろう?
そう、今までとは明らかに違う。
二人とも改まった様子だ。
《はっきり言って、デートみたい。水島さんにとって、特別な人? 》
ずっと見ては失礼だと思って、見ないようにしたかったが、やはり見てしまう。
今日は、コース料理のある催しで、それなりに価格は高い。
カップルや家族、または男性グループ、女性グループで来ていたり色々だけど、ドレスアップしている人が多い。
こんな時に、二人きりで誘う相手って・・・。
でも、他のスタッフに混じって、料理を持って行き
「いらっしゃいませ」
と、挨拶をした。
水島は、穏やかに微笑して
「こんにちは。今日は忙しそうだね」
と言った。
「はい。おかげさまで」
遥佳は、頭をさげた。
相手の女性は、少し硬くなっているようで、黙って軽く会釈をしただけだった。
二人は、それほど話が弾んでいる風でもなく、儀礼的に食事をしているようにも感じられた。
あまり、親しそうにも思えない。だからこそ、正式なものに見えた。
それからも、水島のことが、頭から離れなくなってしまった。
そして、思った。
学生の遥佳にすら、時々見合いの話がきている。
遥佳の両親は、あまりそういうことを無理に進めるタイプではないけれど、卒業したら、両親以外の周囲から、もっとやかましく勧められるはずだ。
《水島さんは、今は戦地から戻って元気になり、左手が少し不自由だとしても、父親の会社を継ぐように仕事をしている》
《一般的な成り行きとして、当然、あちこちから結婚の話が持ち上がっているだろうな》
と思う。
そう言えば、これまでも、集まりの時、水島は色々な人たちから話しかけられていた。
若い女性が沢山来ていた催しもある。
今までは、水島が来てくれるのが嬉しく、いつも遥佳を励ますように、にっこり微笑んでくれて、短い世間話を交わすのが楽しみだった。それで、満足していたはずなのに。
水島が今後、今日のように、デートみたいに特定の女性といつも一緒に参加したら・・・多分、自分は。
連れの女性が、化粧室か電話をかけに行ったのだろう。
一人、テーブル席に物憂げに座っている水島を、遥佳は眺めた。
デザートの準備が出来た。デザートを持って行こう。
母のホテルで働いて接客しているうちに、遥佳は、色々な人と話しをした。
ほとんど自分より年長の方々だ。
その人達から、時には困るようなことを言われたり、また、気分を害さないように、逆に伝えなければならないこともある。
そして、やはり笑顔が大切。
そうだ、いつもの世間話のように、軽やかに、笑顔で言ってみよう。
気にしていても仕方ない。
遥佳は、そう決めた。
「水島さん、今日もありがとうございました。
今日ご一緒の方は、フィアンセとか、そういう方なんですか?」
デザートを並べながら、にっこりして軽く、母たちが話す世間話を真似て言う。
水島は、
「いや、知り合いの娘さんで、一度お連れしただけですよ」
と言った。
「水島さん、お見合いとかされて、ご結婚されるのかと思ってしまいました」
水島は苦笑した。
多分、こういう話や思惑に、ウンザリしているのかもしれない。
「私も、水島さんとお見合いしたいです・・フフ・」
コーヒーを置きながら、内心では、引きつっていたが、最後まで軽く笑顔で言った。
水島はぷっと吹き出した。
それから、遥佳を見て、
「本当に?」
と言った。
遥佳は水島の視線に、赫くなりながらも、最後まで笑顔でしっかり頷いた。
「はい」
その後、連れの女性が戻ってきたので、注文されていた紅茶も出した。
心なしか、水島は、さっきより楽しそうだった。
それに連れて、同伴の女性も、楽しそうだった。
遥佳も、胸のつかえが取れて、気が楽になっていた。
笑顔で軽く言えたと思う。
水島も笑っていたし、少なくとも気分を悪くさせたり、困らせたりしなかったと思う。
あとは、冗談だと思われても、取り合ってくれなくても、それは、水島の自由だ。
選択肢の一つに入れてもらえればいい。
自分の気持ちを伝えたことに、ほっとした。
こういう思い切りの良いところは、母に似ているのかもしれない。




