第21話 通り過ぎる人
美夜はその町から、汽車に乗り、隣の大きなS市にある女子大に通っている。
S市には、大きな企業もあり、戦前から、駅の周りに繁華街があって、賑わっている。
空襲の被害も、他地域に比べると最小限で済んだため、復興も早く、戦後一層賑やかになったようだ。
デパートなどのある表通りと、レストランや居酒屋、バーなどの集まった飲食街、さらには歓楽街が、通りひとつ隔てて、隣接している。
今日、美夜は珍しく夜の飲食街の方に来ていた。
S市に住む叔母に誘われたのだ。
同じ女子大の友人、遥佳も誘って一緒に来ている。
遥佳は、家は離れているが、同じ市内から通っている。
彼女の母親は、メープルホテルという新しいホテルを戦後始めて、遥佳も時々手伝っているという。催しもあって、はるかに誘われて一度行ったことがある。
同じ家業の手伝いでも、お茶屋の店先で、量り売りや、法事用の商品の箱詰めの手伝いをしている美夜とは、随分違う。
あの素敵な洋館のホテルで、艶やかな髪をポニーテールにし、身体に沿った綺麗なブラウスと黒のスカートを着て、にこにこと接客している遥佳は、やはり垢抜けてると思う。明るくて華やかな感じがする。
叔母もまた、目立つほどオシャレだ。
叔母は、柄物のフリルのブラウスとタイトなスカート、遥佳は綺麗なワンピース、美夜は、紺色の上着にスカートで、服装だけ見てもつくづく自分は地味だと思う。
戦前、叔母が通っていたという有名なカクテルバーが、戦後またオープンしたので、今日は美夜も誘われて来ているのだ。
「戦前、女学校の帰りに寄っていたのよ。カウンターで、マスターとよくおしゃべりしてたわ」
「ええ、すごい」
「だって私、モダンガールだったもん」
叔母は、懐かしそうに言う。
さすが、父の妹だけある。
父の実家は、何故かとても自由な気風だった。
カクテルバーでは、磨かれたカウンターがコの字型に広がり、キャビネットには、美しい色のリキュールや、沢山の種類のボトルが並んでいる。
カウンターに座ってる人たちも、何となくおしゃれな人や、雰囲気のある人が多い。
文化人と言われるような人たちも、常連客として来ている有名な店らしい。
そのカクテルバーで、美夜は初めて、色とりどりのカクテルを飲んだ。
家業がホテルをしている遥佳は、カクテルにも興味深々だ。
マスターに色々質問したり、
「また行きたいな。カクテルのことを勉強したい」
と言って、喜んだ。
外に出ると、すっかり夜の街になっている。
この都会では、夜の街はこれから賑やかだ。
昼間とはまた違う活気に満ちていて、人が多く、飲み込まれそうだ。
人の流れとともに、駅の方へ3人で歩いていると、向こうからも、目立つ3人組が歩いてきた。
背の高い、背広姿の若い男性、咥え煙草。左右に派手な女性二人と歩いてくる。
美夜は
「隼人くん・・・」
と、と呟いた。
女性二人は、先日見た女性とも、また違うようだが、よくわからない。
地味な美夜一人だと、周囲に紛れて気づかなかったかもしれないが、こっちも3人連れで、派手な叔母と、垢抜けた綺麗な遥佳さんと一緒だ。
こちらを向いた隼人は、ついでに美夜にも気付いたのだろう、立ち止まり、驚いたように、声をかけてきた。
「よう、美夜。今日はどうしたんだ」
「今晩は。叔母さんの知り合いのお店に行ったの」
横にいる叔母と、遥佳さんに
「陸兄さんの友だち」
と、言って紹介した。
アルコールの入っている叔母は、にこやかに
「今晩は。陸と美夜の叔母です」
と言った。
「友だちの遥佳さん」
と、遥佳も紹介した。
隼人は、
「陸によろしくな」
そう言って、女性を連れて去って行った。
「へえ、なかなか男前ね、陸の友だち」
叔母が、笑いながら言った。
「ああいう女の人、二人も連れて。美夜ちゃんのお兄さんとは、違うタイプだね」
遥佳も、言った。




