第20話 隼人との再会
ある日、さくら茶舗の前に一台のタクシーが停まった。
ちょうど大学が休みで、近所に出掛けた祖母の代わりに、美夜は店先に居た。
何となく、外に気配を感じて入り口の方を振り向いた。
美夜は、暖簾をくぐって入ってきた、ソフト帽と背広姿の、背の高い男性を見たが、誰だかわからなかった。
でも、
「いらっしゃいませ」
と、声をかける。
その男の人は、こちらをじっと見て、
「もしかして、お前、美夜?」
と、言った。
「あ、」
美夜はことばに詰まった。
自分をじっと見る、その目で気付いた。
「隼人くん・・・?」
「大きくなったなあ」
隼人の声だ。
「久しぶり。ここも変わったんだな。元気だったか? 陸はいる?」
隼人は店内を見た。
「うん。呼んでくる」
美夜は突然のことで、兄を呼んでくるので精一杯だった。
奥から出てきた陸も、
「隼人」
と 驚いた。
「また、急だな。」
そして、
「奥へ上がらないか?」
と誘った。
「いや、いい。今日は顔を見に来ただけだから。
陸、除隊したんだろ。具合は?」
「見ての通り、良くなった。隼人は今どこに?」
「まだ神戸。でも、今度こっちで仕事が決まったし、戻る。」
「そうか。ゆっくり話したいのに残念だな。今日は、家へ帰るのか?」
「いや、メープルホテルってのが、できたんだろ? 今日は連れがあるし、そこへ泊まるんだ。」
「そうか、また、こっちへ帰って来たら会おう。」
「またな。」
突然入って来て、すぐに立ち去る隼人を見送って、陸と美夜は、店の外まで出ていった。
通りでは、タクシーが待っていた。
そして近くの壁にもたれるようにして、流行の洋服で、巻き髪に、ヒールの高い靴を履いた女性が、赤く塗った爪の細い指先で、辺りを眺めながらゆっくりと煙草を吸っていた。
「隼人、終わったの?」
その女性が、こちらを見て言った。
隼人が彼女の方に頷くと、その女性も車の方へ戻って来た。
それから二人は、待たせてあったタクシーに乗り、去って行った。
隼人は、一度も美夜を振り返ることも、言葉をかけることもなかった。
陸と美夜は、少し唖然として、見送った。
美夜にとっては、あまりに突然で、あっけない隼人との再会だった。
車が走り去るのを見送りながら
「女連れでは、実家に泊まれないよな」
陸が言った。
「あの女の人、隼人くんの恋人?」
美夜が言うと、
「さあ、どうかなあ?」
と、兄は言った。
それが、あの白い道で別れて以来の、隼人との再会だった。
* * *
その晩、夕食を食べながら、陸が言った。
「今度もし、隼人が来ても、戦争中や、昔のことは、絶対聞かないようにね。
実は、友達から聞いてたんだけど、あいつ、精神的に相当参ってたんだと。
戦争中、色々あったらしい。
それで、まともな状態ではなくて、神戸の親戚の家で、療養してたんだ。
酒を飲んで、荒んで、周りも困っていた時もあったらしい。
だから、自分のことを、話したくないんだよ。」
陸が、今日、隼人にあまり話を振らなかったのも、理解できた。
「それは辛いことだねえ」
祖母と母が話していた。




