赤い本3
岩井は静かにノアを見つめていた。
穏やかなバイオリンのワルツ曲が流れて龍ちゃんと鞠子がスキャットをする。
ノアと名乗った男は愛おしそうに岩井を見る。岩井はその笑顔に、その顔とは全く違う懐かしい友人の面影を見つける。そして、絞り出すように彼に聞いた。
「君は死んでしまったのか」と。
このタイミングでバイオリンの曲が静かに消えてゆく。
静寂の中でノアが岩井を見ながら頷いた。そして、ピアノを中心としたメロウな旋律に合わせて静かに台から降りて岩井に近づく。
ノアは岩井の近くまで急いで近づいて そして、自分の姿が既に彼のものでない事を思い出すように自重したように立ち止まり、少し他人行儀に挨拶をする。
「すまないね。でも、こうしてまた、君と話が出来るなんて素敵だね。」
ノアの、祖父江の部分が大きく伸びをする。岩井はその様子を少し焦るように見つめる。
「相変わらずだね。」
岩井は懐かしい友人を彼のセリフに見つけて切なそうな顔をする。
「ふふ。まあね。そして、君と夢を語り合った青春の頃から変わらすにミステリが大好きなんだ。
僕は君とこうして、また、探偵ごっこが出来る事に胸が震えるよ。自分が殺されたというのに、不謹慎だとは思うんだけれどね。」
そう言って祖父江は茶目に笑う。その屈託のない様子に岩井は力が抜けたように笑う。笑いながら友人が既に無くなっている事を確信して涙する。
「ああ、そうだね。それで君が成仏…いや、天国に旅立てると言うのなら。」
岩井は声を詰まらせながらそう言った。
「ああ…逝きつく先が地獄であっても、君が送ってくれるなら、最高の旅立ちになると思うのだよ。それに、君は日本の名探偵まで連れてきてくれたのだからね。彼の解釈をぜひ聞いてみたいね。勿論、呼んでくれるのだろう?」
祖父江にそう言われて岩井は苦笑する。
「ごめん、彼はここの会話を聞くことが出来ても、ここに来る事はできないんだ。」
岩井は申し訳なさそうにそう言った。すると鞠子が岩井の近くにやってくる。
「大丈夫よ。龍ちゃんは呼べるって言ってるわ。私も手伝うわ。そして、私たちの身に起こった悲劇を明るみにして欲しいの。」
鞠子の横に音もなく近づいた来た龍ちゃんが頷く。そして、龍ちゃんは祖父江の用意した椅子にゆっくりと座る。遠くから異国の太鼓の音色が流れて鞠子の独唱が始まる。
厳かな雰囲気があたりを包み、苦しげにもがく龍ちゃんの口から怪しげな白い煙が流れてくる。
ここで祖父江と鞠子の西洋公霊術の説明の歌が始まる。
龍ちゃんは熊浦と共に西洋の交霊術の修行をしたこと。
西洋の霊は物質化出来ると言うこと。
その物質化した例をエクトプラズムという事
霊能力の高い人間はそのエクトプラズムが大きく、本当の人間の大きさまで成長せられるということ。
この間、龍ちゃんの口から流れてきた煙は床をつたって大きな風船のように膨らむ。
歌と音楽が激しく速くなり、風船はさらに巨大化して観客の恐怖を煽る。
そして、それが最高潮になった時、風船が割れて紙吹雪と共に明智小五郎が現れる。




