説明
ため息をつく。文月は静かに理華を見る。ここから話のは向井が9割を書いていた作品を文月が体裁を整えたり加筆したものだった。それは歌劇のシナリオだった。
向井は初めから尖っていた。無声映画のバックバンドで最近人にのジャズを流すというものだった。
そして、明智は歌うし踊るし、ドヤる。が、朝の静かな屋敷の中庭で、可憐で清楚なお嬢様の理華に説明するのは文月にはするのは難しかった。第一、ジャズなんて不良が聴く音楽である。モガの時代と言われても、お嬢様の耳に入れるような曲ではない。
このお嬢様に足を額のあたりまで突き上げる提案。それはスーツの男装だとしても、そんな破廉恥なことを口にするのがはばかれたのだ。
「話は作中作者の屋敷に明智小五郎が現れるところから始まります。そして、一連の事件についての調査報告を始めるのです。」
文月はそこまで話して理華が無表情なのに慌てた。ここでなんとか興味を持ってもらえないと、試合が終了してしまう。
どうする?何か、何か、なにか…話を進めるか、と、ここで顔が熱くなるのがわかる。自分が緊張している事を理解する。そして、本能が、小学3年の担任の吾妻先生の言葉が蘇る。
『岳くん、もっと自信を持って。声は大きく、そして、堂々としないと、言葉の意味まで伝わりませんよ。』
文月は脳内吾妻先生の言葉にノルことにした。なんにしても、これは向井の作品なのである。自分じゃ変だと思っても、撃沈するなら彼のアイディアで撃沈するのが筋というものではないだろうか。
持ち直す。体が暑い。頭がこんがるかるけれど、吾妻先生が脳内で笛を吹いて応援してくれる。
胸を張る。自信を持って大きな声を出すには上を向いて話しましょう。
「ここでジャズが流れます。知ってますか?ジャズは浮かれた調べのようですが亜米利加では死を弔うためのお経のようなものなのです。ここでジャズを流すことで、日本的な『悪霊』をイメージしてきたお客さんにパンチを喰らわすのです。
明智小五郎は、ダブルの縞のスーツにベストはウエストを思い切り絞ってウエストを強調します。18世紀からの西洋の色男を表現するのです。ズボンは細身のものを身につけて脚線美を見せつけながらここでターーーン。」
と、ここまで立ち上がって叫んで文月は正気に戻る。そして、真っ赤になりながら理華を見た。
理華は両手を空に向けながら人が変わったように叫ぶ文月に驚き、そして、理華の様子を伺う文月の表情に思わず笑い出した。
「ふふふ。ほほほっ。なかなか素敵ですわ。でも、今の流行りはセーラーパンツなどの太めのものではありませんの?」
理華の言葉が人懐っこくなる。綻ぶ理華の表情を見て文月の心もリラックスする。
「関係ありません。西洋では男性の脚線美も美の基準ですし、ご婦人方もきっと喜びますよ。」
文月はそんな軽口を叩く自分に驚いた。そして、肩の力が抜けて自然に話せる事を喜んだ。




