設定
静寂が辺りを包む。
冬だというのにこのテラスが暖かいのは、大きな一枚ガラスを組み合わせた温室のようになっているからかもしれない。
西洋の貴族の間では、温室はステータスなのだそうだが、季節を先取りしたライラックの甘い香りを微かに鼻腔に感じると確かに西洋人がこの空間を愛した理由がわかる気がする。
その高貴な空間で霧ヶ峰の湿地に密かに佇む菖蒲のように背筋を伸ばし凛と座る理華を前に文月は静かに深く息を吸った。
さあ、始めよう。向井先輩との共同の物語を…
「これからお話しするあらすじは、新たに劇のために作り上げた『悪霊』です。
その為、『悪霊』には登場しない明智小五郎が登場します。
明智小五郎が登場するので、物語は少し改変されて『発見者の附記』で登場する作中作者に依頼されたという設定で明智小五郎が登場します。」
文月は穏やかに話し始めた。理華は文月を席に座るように促すと、やって来たボーイの男性?が入れる紅茶を文月に勧めて、それからゆっくりと味わう。
「どうぞ。これは富山の方で開発されている輸出用の『紅茶』ですわ。」
理華はそう言って運ばれてきたスコーンを上品に割った。文月は少し戸惑いながらその様子を見て、カップを手にする。何気ないそのカップを、文月は二度見した。その様子に理華気がつくと口を開いた。
「それは日本で初のボーンチャイナのカップですのよ。さあ、落ち着きましたらお話を始めてください。」
理華に促されて文月は話し始めた。
それは春近い赤煉瓦の某屋敷に明智小五郎がやってくるところから始まる。
その屋敷の主人は小説家で、自分の買った参考資料の相手を探していた。
それで明智は依頼されたのだ。その調査報告に明智はこの屋敷に訪れる。




